注意残余(attention residue)—会議のあと集中できないのは、脳に残った「前の作業のカス」かもしれない
Focus / Research Digest

注意残余(attention residue)—会議のあと集中できないのは、脳に残った「前の作業のカス」かもしれない

会議が終わった瞬間に別の作業へ。なのに頭が切り替わらないのは意志のせいではないかもしれません。切り替えるたび脳に残る「注意残余」の研究から、オフィスで使える30秒の習慣をまとめました。

会議が終わって席に戻る。すぐ別の資料に取りかかりたいのに、さっきの議論が頭の中でまだ回っている。文字を目で追っても中身が入ってこない。

これを「自分の集中力が足りないせい」と感じる人は多いと思います。でも、切り替わらないのは意志の弱さではなく、脳の仕組みのほうかもしれません。

前の作業を頭に残したまま次へ移ると、その「残り」が次の作業の足を引っ張る。この現象には名前がついています。

注意残余(attention residue)とは何か

経営学者ソフィー・レロイは2009年の論文で、タスクを切り替えるときに起きる問題を「注意残余(attention residue)」と名づけました。掲載誌は Organizational Behavior and Human Decision Processes です。

彼女の説明はこうです。使い終えていないブラウザのタブが開いたままになるように、終わっていない作業は頭の中で動き続け、そのあとの集中を乱す。マルチタスクと呼ばれるものの正体は、複数を同時に処理することではなく「速い切り替えの連続」だと言います。

論文では2つの実験を通して、次のことが示されています。人は前の作業から注意を引き離せないと、次の作業の成績が落ちる。

しかも「前の作業を終わらせてから移る」だけでは十分ではない、とも報告されています。時間に追われて一区切りつけたときのほうが、その作業を手放せて次に集中しやすかった、という結果です。

ここで注意したいのは、この研究が示すのは平均的な傾向だという点です。効果には個人差があり、実験の詳しい人数や手続きは論文本文(有料)側にあります。抄録から確認できるのは「2つの実験による報告」というところまでです。断定ではなく、傾向として受け取るのが妥当です。

日本のオフィスで残余がたまりやすい理由

日本の働き方は、この注意残余がたまりやすい構造をしています。会議が終わってすぐ別の作業、その途中で話しかけられて対応、戻ったらチャットの返信——切り替えが一日に何十回も起きます。

左は作業Aからそのまま作業Bへ切り替えた図で、前の作業のカス(注意残余)が点線でBに流れ込みBの集中を削る様子。右は切り替える前に「戻ったら〇〇から」と次の一手をメモし、頭の外に置いて締めることで作業Bに集中しやすくなる様子を対比した図
図1: 締めの一文が、脳の「閉じる」作業を肩代わりする(当サイト作成)

図の左のように、区切りをつけないまま次へ移ると、前の作業が頭に残ったまま重なっていきます。レロイは、脳は物事を「閉じた」「片付いた」状態にしてから次へ進みたがる、とも述べています。

裏を返せば、狙いは一つです。中断する作業に、その場で軽い「区切り」をつけてから離れる。それだけで、次の集中に回せる余力が変わってきます。集中を仕組みで守る発想は集中の技術でも扱っていて、注意残余への対処はその入り口になります。

今日から試す「30秒締めのメモ」

レロイ自身が挙げる対処の一つが、書き出すことです。頭の中に置いておくと動き続けるものを、外に出して脳に手放させる。それを机を離れる前の30秒で済ませるのが「30秒締めのメモ」です。

手順はこれだけです。作業を中断する直前の30秒で、次に戻ったときの「最初の一手」を1行だけ書きます。

  • 途中経過ではなく、再開の一手を書く(例:「資料の3ページ目のグラフを直す」)
  • 会議に入る前も、抜ける作業の再開点を1行残してから立つ
  • 書いたら、その作業のことは一度意識から手放す

ポイントは、ToDoリストのように細かく書かないことです。目的は記録ではなく、「戻る場所はここ」と決めて頭を軽くすること。だから一手だけで十分です。

大切なのは、この実験そのものがメモ術を試したわけではない、という点です。研究が示したのは「未完了の作業は注意を残す」ところまで。メモは、その残余を減らすための実践であって、効果を保証するものではありません。

合わなければ、休憩を一呼吸はさむ・複雑な作業を朝のうちに片付けるなど、レロイが挙げる別の手を試してみてください。

切り替えの多い日ほど、頭は前の作業を引きずります。まずは今日、次に席を立つ前の30秒で「戻ったら、まず〇〇から」の一文を書くところから始めてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 作業を中断する前の30秒で「次に戻ったら、まず〇〇から」を1行だけメモに書く
  2. メモには途中のToDoではなく、再開の『最初の一手』だけを具体的に書く(例:資料の3ページ目を直す)
  3. 会議に入る前も、抜けた作業の再開点を1行残してから席を立つ
  4. 書いたら、その作業のことは意識から一度手放して次に移る

出典・参考

  1. Leroy, S. (2009) Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168-181.ideas.repec.org
  2. University of Washington Magazine: There's no such thing as multitasking, according to business expert Sophie Leroy(著者本人による解説記事)magazine.washington.edu

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。