マルチタスクは速くない — 切り替えるたびに、時間と正確さを少しずつ失う
メールを見ながら資料作成、気づけば夕方。同時進行が速い気がするのに終わらないのは、脳が切り替えのたびに時間と正確さを差し引かれているからかもしれません。1つずつ片付ける方が結局速い理由と、今日からの3手をまとめました。
メールを返しながら資料を作る。合間にチャットが光れば、そちらも開く。手はずっと動いている。
なのに気づけば夕方で、資料はまだ途中。おかしいと思ったことはないでしょうか。
同時にこなすほど速い気がして、実は遅くなっている。原因は、切り替えという動作そのものにあります。
マルチタスクの正体は「高速の切り替え」
結論から言うと、脳は2つの作業を同時にはしていません。ものすごい速さで、片方ずつ切り替えているだけです。
心理学者のルビンシュタイン、マイヤー、エヴァンスは2001年、この切り替えを実験で調べました。掲載誌は Journal of Experimental Psychology です。
参加者に、図形の分類や計算のルールを次々に切り替えさせる4つの実験を行いました。
分かったのは、作業そのものより、切り替えの瞬間に余分な時間がかかること。この余分を「切替コスト」と呼びます。ルールが複雑なほど、コストは大きくなりました。
研究チームの説明では、切り替えのたびに脳は2段階の準備をします。「今はこっちをやる」と目標を移す段階と、「前のルールを止め、新しいルールを立ち上げる」段階です。
この立ち上げに時間がかかる。1回あたりはコンマ数秒でも、1日に何十回も切り替えれば積み上がります。
研究者の1人マイヤーは、切り替えで生まれるわずかな中断が、人の生産的な時間の最大で4割ほどを奪いうると述べています。
ここで一つ注意です。これは実験室の課題で測った傾向で、数字は状況で変わります。あなたの仕事にそのまま当てはまるわけではありません。断定ではなく、目安として受け取ってください。
1つずつ片付ける方が、なぜ速いのか
では、どうすれば速くなるか。答えは単純で、切り替えの回数を減らすことです。
同じ仕事量でも、こまめに行き来すれば切替コストが何度も挟まります。まとめて片付ければ、その分は挟まりません。
下の図が、同じ2つの作業を「切り替えながら」と「1つずつ」で終わらせた場合の違いです。
見てのとおり、作業の量は同じでも、赤い切替コストの分だけ終わりが遅れます。1つずつ進めた方が早く終わる。それだけの話です。
しかも失うのは時間だけではありません。切り替えた直後は、前の作業が頭に残って正確さも落ちます。
この「頭に残るカス」については会議のあと集中できない理由で扱っています。切替コストは、その残りカスが生まれる手前の、切り替えという動作そのものの代金だと考えてください。
集中を仕組みで守る考え方は集中・生産性の歩き方にまとめています。
今日からの「シングルタスク化」3手
シングルタスクは、根性ではなく仕組みで作ります。切り替えが起きない状況を、先に用意するだけです。今日から試せる3つを挙げます。
- 25分は1つだけ触る。 タイマーをかけ、鳴るまで他の作業・タブを開かない(作業のたびに設定)
- 割り込みの入口を閉じる。 メールとチャットは開きっぱなしにせず、1日に数回まとめて確認する(通知をまとめる方法)
- 中断するときは、戻る場所を1行メモしてから離れる。 所要は30秒。次に迷わず戻れます
3つを一度にやる必要はありません。効くのは1番です。
まずは次の25分、開いていいタブを1つに決めるところから始めてください。切り替えを1回減らすたび、その日の終わりが少しずつ手前に戻ってきます。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 作業を始める前に、次の25分で触るものを1つだけ決める
- タイマーが鳴るまで、他のタブ・アプリは開かない
- メールとチャットは開きっぱなしにせず、1日に数回まとめて見る
- 中断するときは、戻る場所を1行だけメモしてから離れる
出典・参考
- Rubinstein, J. S., Meyer, D. E., & Evans, J. E. (2001) Executive Control of Cognitive Processes in Task Switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4), 763-797.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- American Psychological Association「Multitasking: Switching costs」(学会による解説ページ・上記研究を含む)apa.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。