サボった自分を責めると戻れない——思いやりが習慣の再開を助ける
習慣が一度途切れると、自分を責めて、その行動ごと避けてしまう。失敗のあと自分をいたわった人ほど次に向けて長く努力したという実験と、先延ばした自分を許すと次の先延ばしが減った調査から、責めずに戻るコツをまとめました。
ジョギングを3日サボった。「自分はいつもこうだ」と責めているうちに、シューズを見るのも嫌になる。
そのまま1週間、走らなかった。
習慣が途切れたとき、私たちを止めるのは空いた1日そのものではありません。空いたあとに自分を責め、その行動ごと避けてしまう。ここが本当の分かれ道です。
責めるより、いたわるほうが次に動けた
手がかりになるのが、ブライネスとチェンが2012年に発表した4つの実験です。
そのうちの1つを見てみます。参加者は大学生86人。まず、わざと難しいテスト(英単語の問題)を受けます。平均点は10点満点で4点ほど。ほとんどの人が「できなかった」と感じる設計です。
失敗したあと、次のテストに向けて単語を好きなだけ勉強できます。この勉強時間が「立て直す意欲」の指標です。
勉強を始める前、画面に一言だけ表示が出ます。ここが3グループで違いました。
- 自分に思いやりを向ける一言「うまくいかなくても、あなただけではありません。自分を責めすぎないで」
- 自分をほめる一言「ここの学生なら、頭がいいはずだから気にしないで」
- 何も表示しない
結果、いちばん長く勉強したのは、思いやりの一言を読んだグループでした。
思いやりの群は約306秒。何もしない群の約203秒より、1.5倍ほど長く机に向かいました。たった一言の差です。
意外なのは、「自分をほめる」一言では、ここまで伸びなかった点です。効いたのは自尊心をくすぐる言葉ではなく、失敗を責めない態度でした。
「甘やかし」ではなく「思いやり」
ここで多くの人が心配します。自分に優しくしたら、ただ甘えて、努力しなくなるのでは、と。
研究者も同じ懸念から出発しました。ところが結果は逆でした。自分をいたわった人のほうが、次に長く努力したのです。
カギは、思いやりと甘やかしが別物だという点です。
セルフコンパッション(失敗した自分を責めず、思いやりを向ける態度)は、「まあいいや」と基準を下げることではありません。失敗を正面から認めたうえで、自分を追いつめないことです。
- 甘やかし:「できなくても気にしない」と目標をゆるめる
- 思いやり:「できなかった。でも人間だから当然」と認め、次に向かう
基準はそのまま。変えるのは、自分への口調だけです。
許した自分は、また机に戻れた
もう1本、別の角度からの調査があります。
ウォールらが2010年に、大学生を2回の中間試験にまたがって追いました。1回目の試験前に「勉強を先延ばしにした自分を、どれくらい許せたか」を測ります。
すると、先延ばした自分をよく許せた人ほど、2回目の試験前の先延ばしが減っていました。
理由も見えています。自分を許すと、その課題にまとわりつく嫌な気持ち(自己嫌悪や後ろめたさ)が薄れる。すると、課題を避けずに向き合えるようになる、という流れです。
ただし、これには但し書きがあります。この効果がはっきり出たのは、1回目に「かなり先延ばしした」人でした。少ししか先延ばししなかった人では、目立ちません。
2つの研究に共通するのは、こうです。失敗そのものより、そのあと自分を責め続けることが、次の一歩を重くします。
なお、どちらも大学生が中心の研究で、自己申告に頼っています。効果を保証するものではありません。それでも「まず自分を責めるのをやめる」という一手には、それなりの根拠があります。
責めても、習慣は戻ってこない
平日の暮らしでも、構図は同じです。
朝のジョギング、寝る前の読書、個人開発の毎日30分。どれも1日空くこと自体は、積み上げをほとんど壊しません。それは1日サボっても習慣は壊れないにデータをまとめました。
問題は、空いたあとの心の中で起きます。
「またサボった」「意志が弱い」と責めるほど、その行動に嫌な気持ちがくっつく。すると、ジョギングも読書もコードも、見るのが億劫になる。避ける。戻れない。
責めることは、反省しているようで、実は再開を遠ざけているだけかもしれません。先延ばしと自己批判のつながりは先延ばしは怠けではなく「感情」の問題でも扱っています。
今日から試す3つの手順
1. 責める言葉を、一度だけ言い換える(10秒)
途切れた日に「自分はいつもこうだ」と言いそうになったら、一度だけこう置き換えます。「うまくいかない日は、誰にでもある」。研究で使われた一言と同じ向きです。自分を追いつめる声を、そこで止めます。
2. 過去ではなく「次の一回」を見る
昨日までの穴を取り返そうとしない。許して、前を向く。見るのは次の1回だけです。戻る日は行動を半分に削ります。ジョギングなら5分、読書なら1ページ。ハードルを下げて、戻ることだけを目標にします。
3. やめる宣言でなく、戻る宣言をする
「もうダメだ」ではなく「明日また戻る」と口に出す。基準は下げません。ゆるめるのは目標ではなく、自分への口調だけです。
区切りを使って仕切り直したいときは月曜から、を味方につけるも参考になります。
順番は前後してかまいません。まずは次に途切れた日、自分を責める代わりに「誰にでもある」と言い換えるところから始めてください。
それでも気持ちが晴れないとき
これは根性論の反対側にある考え方で、万能薬ではありません。自分を責める気持ちがなかなか消えず、強い落ち込みや不安が続く場合は、一人で抱えず、医療機関や専門家に相談してください。自分を責めやすいこと自体を、病気だと決めつける必要はありません。
サボった自分を責めても、走る力はわいてきません。責める相手を「自分」から「明日の一歩」に変えるだけで、戻り道は少し軽くなります。習慣を意志ではなく仕組みで支える発想は、習慣化の歩き方にまとめています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 習慣が途切れた日、責める言葉が出たら「誰にでもあることだ」と一度だけ言い換える(10秒)
- 過去の穴を取り返そうとせず、視点を「次の一回」だけに移す。戻る日は行動を半分に削る
- 基準は下げない。やめる宣言ではなく「明日また戻る」と戻る宣言をする
- 自分をいたわるのと甘やかすのを分ける。行動はゆるめず、自分への口調だけ変える
出典・参考
- Breines, J. G., & Chen, S. (2012) Self-Compassion Increases Self-Improvement Motivation. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(9), 1133-1143.self-compassion.org
- Wohl, M. J. A., Pychyl, T. A., & Bennett, S. H. (2010) I forgive myself, now I can study: How self-forgiveness for procrastinating can reduce future procrastination. Personality and Individual Differences, 48(7), 803-808.(原論文はペイウォールのため、共著者 Pychyl による解説を出典リンクとする)psychologytoday.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。