筋トレは週30〜60分で頭打ち——16の追跡研究が示した「少なくて十分」
Health / Research Digest

筋トレは週30〜60分で頭打ち——16の追跡研究が示した「少なくて十分」

「筋トレはたくさんやるほど良い」と思っていませんか。16の追跡研究をまとめた分析では、筋力トレーニングは週30〜60分あたりでリスクの低下が最大になり、それ以上の上乗せはわずかでした。忙しくても続けられる、少なめの目安をまとめます。

残業を終えて帰宅するのは夜9時すぎ。ジムはもう閉まっているか、行く気力が残っていない。

「筋トレはしっかり追い込まないと意味がない」。そう思っているうちに、平日は一度も体を動かさないまま週末になる。

そんな人にこそ知ってほしい研究があります。

もし、週に合計30分ほどの筋トレでも数字が動くとしたら。しかも、それ以上がんばっても見返りはあまり増えない、としたら。

「たくさんやらないと無駄」という思い込みが、いちばんの壁かもしれません。

16の追跡研究をまとめた分析が、その「少なくて十分」を示しています。

16の研究が示す「筋トレと病気リスク」

手がかりは、東北大学の本間らが2022年に発表した研究です。掲載誌は British Journal of Sports Medicine でした。

これは1つの実験ではありません。世界の大規模な追跡研究を16本集めて、まとめて比べた分析(系統的レビューとメタ分析)です。

調べたのは、筋トレ(レジスタンス運動)の習慣と、その後の病気・死亡との関係でした。

筋力を鍛える活動をしている人は、していない人にくらべて、次のリスクが約10〜17%低いという関連が見られました。

  • 全死亡(あらゆる原因の死亡)
  • 心血管疾患(心臓病・脳卒中)
  • がん(総数)
  • 糖尿病

しかも、この関連は有酸素運動とは別枠でした。

歩く・走るといった運動をしているかどうかとは関係なく、筋トレそのものにこの傾向があった、ということです。

ただし、これは「筋トレをすれば病気が防げる」という証明ではありません。

集めたのは、人々を長く追いかけて観察した研究です。もともと健康意識の高い人が筋トレもしていた、という可能性は残ります。

数字は「効果の保証」ではなく「関連の傾向」として受け取るのが妥当です。

効くのは週30〜60分まで。その先は頭打ち

この研究のいちばん面白いところは、「どれくらいやると、どれくらい下がるか」を調べた点です。

わかったのは、やればやるほど下がる、ではありませんでした。

全死亡・心血管疾患・がんでは、リスクの下がり方が最大になるのは週30〜60分あたり。下げ幅にして、およそ10〜20%でした。

それ以上に時間を増やしても、下がり方はほとんど伸びません。むしろ、ごくゆるやかに戻る形(J字)だったと報告されています。

下の図が、その関係のイメージです。

1週間あたりの筋トレ時間を横軸、リスクの下がり方を縦軸にとった曲線。下がり方は週30〜60分あたりで最大(およそ10〜20%)になり、それ以上時間を増やしても伸びず、ごくゆるやかに戻るJ字の形。全死亡・心血管疾患・がんで見られた関係の模式図
図1: カーブがいちばん深く下がるのは序盤。その先は平らになる(当サイト作成)

見てのとおり、いちばん深く下がるのは、序盤の30〜60分あたりです。そこから先は、平らになっていきます。

このカーブの形を、もう少し詳しく見てみます。

下がり方がいちばん大きいのは、ゼロから30〜60分に増やした区間でした。そこから先は、時間を倍にしても下がり方は倍になっていません。

言いかえると、いちばん大きな関連が見られたのは最初の30分でした。忙しい人にとっては、心強い数字です。

1日に数分、週に合わせて30分から。研究で下がり幅が最大だったのは、この範囲でした。

くりかえしになりますが、これは筋トレが原因で数字が下がったと証明されたわけではなく、観察研究どうしを比べたときの関連です。そのうえで、「追い込まないと意味がない」とまでは言えなさそうです。少ない時間帯のほうが、時間あたりの関連の強さは大きく出ていました。

例外は糖尿病でした。こちらは60分あたりまで下がり続ける形(L字)で、少し多めが関連する可能性も示されています。

とはいえ、全体の絵はシンプルです。「少しやる」ことと「まったくやらない」ことの差が、いちばん大きい。

道具がなくても、家でできる

「筋トレ」と聞くと、ジムのマシンやダンベルを思い浮かべるかもしれません。

でも、研究がいう筋力強化の活動は、もっと幅があります。自分の体重を使う運動も含まれます。

世界保健機関(WHO)も、大人は全身の大きな筋肉を使う筋トレを、週2日以上行うことをすすめています。

家でできる自重の種目には、こんなものがあります。

  • スクワット(いすから立つ・座るをゆっくり)
  • 腕立て伏せ(きつければ壁や机に手をついて)
  • かかと上げ(ふくらはぎ)
  • その場でのもも上げ・ブリッジ

どれも器具はいりません。テレビを見ながらの数分でも積み重なります。

歩く習慣とあわせたい人は、1日の歩数の増やし方も参考に。

有酸素運動と筋トレは、どちらか一方ではありません。研究では、両方やっている人でリスクの下がり方がいちばん大きくなっていました。

今日から試す「週30分」の組み立て

むずかしく考える必要はありません。まずは週2回、1回10〜15分から始めます。

  1. 週2日、筋トレの日を決める(例: 月曜と木曜)
  2. 自重の種目を2〜3つ選ぶ(スクワット・腕立て・かかと上げなど)
  3. 1種目を「少しきつい」と感じる回数だけ。10回前後を2〜3セット
  4. 全部あわせて1回10〜15分。週の合計が30〜60分に届けば十分
  5. 慣れたら回数やセットを少しずつ増やす

大事なのは、追い込むことより続くことです。

「歯みがきのあとにスクワット10回」のように、いつもの動作にひも付けると忘れません。

週30〜60分がひとつの目安、と覚えておけば、やり過ぎて燃え尽きることもありません。

向いていない場面・気をつけたい人

筋トレは体に負荷をかける運動です。次の人は、この記事をそのまま当てはめないでください。

  • 心臓・血圧・関節などに持病がある人
  • ひざ・腰・肩に痛みがある人。痛む動きは避ける
  • 妊娠中の人、体調に不安がある人

当てはまる人は、始める前に主治医へ相談してください。無理な重さや、反動をつけた動きは、けがのもとです。

そして、これは診断や治療の代わりではありません。

研究が示したのは「筋トレと低いリスクの関連」であって、病気が治る・防げるという約束ではありません。

すでに治療を受けている人が、自己判断で薬や通院をやめる根拠にはなりません。

体を動かす価値は、追い込んだ量ではなく、続けられる少なさにあります。

無理なく体を整える小さな習慣は、健康の柱でもいくつか扱っています。あわせてのぞいてみてください。

今日、いすから10回立ち座りするところから。研究で下がり幅がいちばん大きかったのは、そのくらいの範囲でした。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 全身の大きな筋肉を使う筋トレを、週2日以上を目安に
  2. 1回は数分でよい。週の合計が30〜60分に届けば十分
  3. スクワット・腕立て・かかと上げなど、道具のいらない自重種目から
  4. 有酸素運動(歩く・走る)とは別枠。両方あるとなお良い
  5. 持病・関節の痛みがある人、妊娠中の人は、始める前に主治医へ相談する

出典・参考

  1. Momma, H., Kawakami, R., Honda, T., & Sawada, S. S. (2022) Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. British Journal of Sports Medicine, 56(13), 755-763.(16のコホート研究をまとめた系統的レビュー・メタ分析。筋力強化活動は全死亡・心血管疾患・総がん・糖尿病のリスク約10〜17%低下と関連。全死亡・心血管疾患・がんは週30〜60分あたりで下げ幅が最大〈約10〜20%〉のJ字、糖尿病は60分あたりまで下がるL字。関連は有酸素運動と独立)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Bull, F. C., et al. (2020) World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. British Journal of Sports Medicine, 54(24), 1451-1462.(WHOの身体活動ガイドライン。成人は全身の大きな筋肉を使う中強度以上の筋力強化活動を週2日以上行うことを推奨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。