「1日1万歩」は絶対条件じゃない——歩数と死亡リスクは7〜8千歩で大きく下がる
Health / Research Digest

「1日1万歩」は絶対条件じゃない——歩数と死亡リスクは7〜8千歩で大きく下がる

歩数計のノルマが1万歩に届かず、自己嫌悪になる。でも15の調査をまとめた解析では、歩数と死亡リスクの低下は7,000〜8,000歩あたりで大きく、その先はゆるやかでした。そもそも「1万歩」は数字の由来もはっきりしません。無理な1万歩より、今より少し多く。研究の範囲と限界も添えてまとめました。

「今日も1万歩に届かなかった」。スマホの歩数計を見て、そっと画面を閉じる。

歩くのは体にいい。分かってはいても、8千歩で止まった日は、なんとなく自分を責めてしまう。

でも、その「1万歩」という基準。実は、医学が決めた合格ラインではありません。

研究が指すのは、もっと手前の数字でした。

「1万歩」に医学的な裏づけは薄い

先に、数字の出どころから。

「1日1万歩」は、1960年代の日本で広まった言葉だと言われています。1965年ごろ、ある会社が「万歩計」という名前の歩数計を売り出しました。

前年の東京オリンピックで、健康づくりの機運が高まっていた頃です。「1万」はきりがよく、文字盤にも収まりが良かった。そう報じられています。

つまり出発点は、研究の結論ではなく商品名でした。だから届かなくても、健康の落第ではありません。

では、実際の研究は何歩を指しているのでしょうか。

死亡リスクが「大きく下がる」ライン

手がかりになるのが、2022年に発表された大きな解析です。

世界15の調査を集め、47,471人分のデータをまとめたものです(The Lancet Public Health)。平均年齢は65歳。中央値で7.1年ほど追跡し、その間に3,013人が亡くなっています。

分かったのは、歩数が多い人ほど、追跡期間中の総死亡リスクが低いという関係でした。最も多い層は、最も少ない層より、リスクが半分ほど低いという結果です。

ただし、増やせば増やすほど下がり続けるわけではありませんでした。

リスクの下がり方は、60歳以上ではおよそ6,000〜8,000歩、60歳未満ではおよそ8,000〜10,000歩あたりでゆるやかになっています。その先は、歩数を足しても差がつきにくい。

下の図が、そのおおまかな関係です。

横軸に1日の歩数、縦軸に総死亡リスクをとった曲線。歩数が少ないうちはリスクが高く、増やすほど大きく下がるが、7〜8千歩あたりで曲線がゆるやかになり、その先は下がり方が小さくなる傾向を示す模式図
図1: 歩数を増やすほど下がるが、7〜8千歩あたりでゆるやかに(当サイト作成・観察研究の傾向を模式化)

見てのとおり、少ない歩数から増やすほど大きく下がり、7〜8千歩あたりで曲線はゆるやかになります。

年配の女性を対象にした2019年の研究(JAMA Internal Medicine・16,741人・平均72歳)でも、向きは同じでした。リスクの低下はおよそ7,500歩で頭打ちになり、それ以上の速さで歩いても、歩数の分を超える上乗せは見えにくかった、と報告されています。

大事な但し書きがあります。これらは観察研究で、「歩けば寿命が延びる」と因果を証明したものではありません。

もともと健康な人ほどよく歩ける、という逆向きの可能性も残ります。参加者の多くが高所得国の人だった点も、著者が限界として挙げています。

それでも、複数の研究で「向き」はそろっています。少ない歩数から増やすほど良い方向、という関連です。

「今より少し多く」を目標にする

ここから、毎日に落とし込みます。

会社員の平日を思い浮かべてください。朝は座って通勤、日中もデスク。意識しないと、歩数は4千〜6千歩あたりで止まりがちです。

ここでいきなり「1万歩」を掲げると、届かない日が続いて嫌になります。研究が指すのは、その手前。だから目標は「今より少し多く」で十分です。

具体的には、1日1,000〜2,000歩の上乗せをねらいます。距離にして10〜15分ぶんの歩きです。

  • 通勤で一駅ぶん歩く、または一つ手前で降りる
  • エレベーターを階段に替える(下りだけでも)
  • 昼食は少し遠い店まで歩く
  • 電話は歩きながら受ける

まずは、今の自分の平均歩数を1週間だけ眺めてください。「多い・少ない」は、その自分の数字を基準に決めます。

向いていない人・注意したいこと

歩数を増やす前に、確かめてほしいことがあります。

膝や腰に痛みがある人は、回数や距離を無理に増やさないでください。持病がある人や、体を動かすことに不安がある人は、始める前にかかりつけの医師へ相談を。

そして、ここで紹介したのは「歩数と死亡リスクの関連」であって、特定の病気を防ぐ約束ではありません。効果には個人差があり、合う歩数も人によって違います。

歩数計の数字は、自分を責めるための点数ではなく、今の活動量を映す鏡くらいに考えてください。

体を動かす小さな工夫は、健康の柱でもいくつか扱っています。座りっぱなしが気になるなら座りっぱなしを「2分の歩き」で区切る、気分が晴れない日は短い運動で気分を上げるとも組み合わせられます。

1万歩に届かない日があっても、それは失敗ではありません。

まずは次の外出で、いつもより一駅ぶん、多く歩いてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 今の平均歩数を、スマホの歩数計で1週間だけ眺めて自分の基準を知る
  2. 目標は「1万歩」ではなく「今より1,000〜2,000歩多く」に置き換える
  3. 通勤で一駅ぶん歩く・階段を使うなど、すでにある移動に歩きをひも付ける
  4. 数字が届かない日も責めず、「昨日より動けたか」だけを見る
  5. 持病のある人・膝や腰に痛みがある人は、歩数を増やす前に医師へ相談する

出典・参考

  1. Paluch, A. E., Bajpai, S., Bassett, D. R., Carnethon, M. R., Ekelund, U., Evenson, K. R., et al. (2022) Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. The Lancet Public Health, 7(3), e219-e228.pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Lee, I-M., Shiroma, E. J., Kamada, M., Bassett, D. R., Matthews, C. E., & Buring, J. E. (2019) Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in Older Women. JAMA Internal Medicine, 179(8), 1105-1112.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。