誘惑バンドリング—「好きなもの」を抱き合わせて面倒な運動や家事を続ける
「運動しなきゃ」と「観たい配信」が別々に積み上がって、どちらも中途半端。「誘惑バンドリング」を、サブスク・推し活・通勤の時間で使う形にまとめました。
「運動しなきゃ」。そう思いながら、観たい配信もたまっていく。面倒なほうは後回し、好きなほうは罪悪感つき。
この二つを別々に置いている限り、面倒なほうは動き出さない。でも、片方の引力をもう片方に回せたら?
それをかなえるのが「誘惑バンドリング」です。好きなものを面倒な行動に抱き合わせる仕組みです。順に説明します。
誘惑バンドリングの正体
誘惑バンドリングとは、好きなものの力で面倒な行動を動かす仕組みです。考え方はこれだけです。
「やりたいのに続かない行動」と「つい手が伸びる誘惑」を抱き合わせる。誘惑の引力を、面倒な行動の燃料にするのです。
提唱者は、ペンシルベニア大学のキャサリン・ミルクマンら。2014年、ジム利用者を対象に実験をしました(Management Science 掲載)。
使ったのは、続きが気になるオーディオブック。『ハンガー・ゲーム』などの人気小説です。
参加者は3グループに分かれました。
- ①オーディオブック入りの端末を、ジムでだけ貸し出す
- ②自分の端末に入れ「ジムだけで聴く」と自分ルール
- ③何もしない対照グループ
結果は、はっきり出ました。介入の初期、ジム貸出グループは対照より51%多く通いました。自分ルールでも29%多く通っています。
効果は本音にも現れました。実験後、61%が「ジムでだけ聴ける端末」にお金を払ってでも続けたいと答えています。
効いた理由は、はっきりしています。いちばん伸びたのは「ジムでだけ聴ける」形でした。
いつでも聴けると、面倒な行動をやる理由が薄れる。誘惑をその最中だけに取っておく。それで初めて抱き合わせは効くのです。
まずは、誘惑を「その時間だけ」に閉じ込める発想から始めてください。
下の図が、正しい形と間違った形の違いです。
違いは『いつ楽しむか』だけ。誘惑を最中に限るほうが続きます。
スマホ時代の生活で空回りしやすい理由
この研究をそのまま真似ても、いまの生活では空回りしがちです。理由は2つ。
1つめは、誘惑がスマホ1台に全部入っていること。
サブスク、動画、推しの配信、マンガアプリ。自宅のソファでも布団でも開けてしまいます。
「その場でだけ」に閉じ込める外部装置が、そもそもありません。
2つめは、時間と空間が混ざること。
在宅勤務だと、運動や勉強と、動画やSNSが同じ夜に溶け合う。境目が消えます。
でも、日本には便利な「面倒な時間」もあります。往復1時間超の通勤、満員電車、毎日の家事。
ここに誘惑を割り当てれば、抱き合わせの器になります。
コツはこうです。専用端末の代わりに、自分ルールを1つ決める。それを通勤や家事に乗せるのです。
ルールは一文で十分です。「この誘惑は、この行動の間しか楽しまない」。
根性頼みではありません。実験でも、自分ルールのグループに29%の効果が出ています。
習慣は根性より仕組みでまわす。この発想は習慣化の歩き方でも扱っています。
まずは、通勤か家事のどちらかを器に選んでください。
実践:行動1つ×誘惑1つ
やることはひとつだけです。行動を1つ、誘惑を1つ、セットにする。
場面別の型を並べます。生活動線に合うものを、ひとつ選んでください。
運動・体を動かす
- 続きが気になる音声は、歩く間だけ再生
- 推しのライブ配信は、筋トレの間だけ流す
家事
- 海外ドラマは、皿洗いと洗濯物たたみの間だけ
- 推しのラジオは、部屋を片づける間だけ聴く
通勤・移動
- 連載マンガは、行きの満員電車の間だけ読む
- 一駅歩く間だけ、好きなプレイリスト解禁
仕事・勉強
- 経費精算の間だけ、好きなラテを1杯そばに
- 苦手な勉強の30分だけ、好きな香りを焚く
コツは、誘惑を「その時間の外では我慢する」と決めきること。中途半端に解禁すると、引力が抜けます。
うまくいかないとき・向いていない人
効果は、控えめに見積もってください。派手な数字は続きません。
初期の51%は、その後の期間で薄れました。実験中に感謝祭の休暇が入ると、どのグループもジムから遠のいています。
より大きな実験もあります(Kirgiosら2020、6,792人)。
週1回以上運動する人の割合は、10〜14%高まりました。週あたりの平均回数も、10〜12%増えています。
効果は、介入後17週まで確認されました。これが現実的な見積もりです。個人差もあります。
向いていない場合もあります。誘惑が強すぎる組み合わせです。
たとえば、集中の要る勉強に、続きが気になるドラマは合いません。勉強が上の空になります。
この場合は、誘惑を軽くします。手が自由なままの音楽や香りに落としてください。
また、我慢のルール自体が負担な人には向きません。この方法そのものが続かないからです。
抱き合わせは、意志を強くする道具ではありません。好きなものの引力を、面倒な行動へそっと横流しする配線です。
うまくいけばif-thenプランニングの合図と組み合わせられます。
まずは今日、行動を1つと誘惑を1つ、紙に1行で書いてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 続けたいのに気が進まない「面倒な行動」を1つだけ紙かメモアプリに書く
- その行動の最中だけ楽しむ「誘惑」を1つ選ぶ(続きが気になる音声・動画・推しの配信など)
- 「この誘惑は、この行動の間しか楽しまない」という一文にして、目に入る場所に置く
- 誘惑を乗せる時間を、通勤・家事など毎日必ず起きる時間から1つ選んでおく
出典・参考
- Milkman, K. L., Minson, J. A. & Volpp, K. G. M. (2014) Holding the Hunger Games Hostage at the Gym: An Evaluation of Temptation Bundling. Management Science, 60(2), 283-299.pubsonline.informs.org
- CHIBE (University of Pennsylvania) 解説: Using Temptation Bundling to Build Better Habitschibe.upenn.edu
- Kirgios, E. L., Mandel, G. H., Park, Y., Milkman, K. L. et al. (2020) Teaching temptation bundling to boost exercise: A field experiment. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 161(Suppl.), 20-35.sciencedirect.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。