コーヒーの香りで計算問題の成績が伸びた——カフェインゼロ、効いたのは「期待」
カフェインを含まないコーヒーの香りがする部屋で、学生の計算テストの成績が上がった研究があります。効いたのは香りの成分ではなく『頭がさえるはず』という期待でした。単一研究の限界も添えて、集中の入り口に香りを使うコツをまとめました。
午後2時。会議の資料を開いたものの、さっきから同じ行を3回読み返している。
こういうとき、とりあえずコーヒーを淹れに立つ人は多いと思います。
でも、面白い研究があります。カフェインを飲まなくても——コーヒーの「香り」がするだけで、計算問題の成績が上がったのです。
しかも、効いていたのは香りの成分そのものではありませんでした。
コーヒーの香りだけで、計算問題の点が上がった
2018年、マジャロフらの研究チームが報告した実験です(Journal of Environmental Psychology)。
米国の大学で、学部生 約100人を2つのグループに分けました。片方はコーヒーの香りが漂う部屋、もう片方は無臭の部屋です。
その部屋で、10問のGMAT代数テスト(計算・論理の問題)を受けてもらいました。ここが肝心ですが、漂わせた香りにカフェインは入っていません。
結果、コーヒーの香りがする部屋のグループのほうが、点数がはっきり高くなりました。
では、なぜ上がったのか。研究チームは別の200人以上に、追加の調査をしています。
すると多くの人が、「コーヒーの香りがすると頭がさえて元気が出そう」「頭を使う作業がはかどりそう」と予想していました。
そして統計をとると、この「さえるはず」という期待が、成績の伸びを説明していました。
つまり「コーヒーの香り → 『さえるはず』という期待 → 成績アップ」という道すじで、香りの効果は期待を経由して表れていた、というわけです。飲んでいないのに、コーヒーを一杯飲んだときのような手応えが出た。プラセボ(期待による効果)に近い現象です。
効いていたのは「香り」ではなく「期待」
ここが、ほかの「香り」や「刺激」の話と違うところです。
ガムを噛んで目を覚ますような身体への直接の刺激ではなく、「これで頭がさえるはず」という予期が、成績を後押ししていました。主役は成分ではなく、頭の中の期待のほうです。
期待が結果を動かすのは、プラセボ効果として古くから知られています。コーヒーには「飲むと目がさえる」という経験を多くの人が持っているので、香りだけでもそのスイッチが入りやすいのだと考えられます。
そして、これはコーヒーの香りに限った話ではありません。「効くと信じること」そのものが働く、もっと大きな現象の一例です。
カフェインの期待効果をまとめたレビュー(2018年・シャビルら)を見ると、それがよく分かります。17件の実験を見直したところ、13件で「カフェインが入っている(効くはず)」という思い込みによる差が確認されました。効果の大きさはさまざまですが、反応の速さや記憶といった課題にまたがって出ています。
デカフェでも「カフェイン入り」と信じて飲むと、手応えが変わる。香りは、飲むことすらなく同じ期待のスイッチを押していた——そう考えると筋が通ります。
香りが成績を押し上げた道すじを、図にしました。
図のとおり、矢印は香りから期待を通って成績に向かいます。香りから成績への直接の線は、確認されていません。
裏を返すと、効き方はその人しだいです。コーヒーが苦手な人や、その香りに良い記憶がない人では、同じようには働かないかもしれません。左右するのは香りの強さより、「その香りに何を期待しているか」です。
今日の集中の入り口に、香りを一手
やることは、香りを「作業開始の合図」に変えるだけです。
- 作業を始める5分前に、淹れたてのコーヒーか、コーヒーの香りを机のそばに用意する
- ひと呼吸、香りをかいで「これで頭がさえる」と一度言葉にしてから作業に入る
- カフェインを控えたい夕方や夜は、飲まずに香りだけを合図に使う
- 1週間、同じ時間帯の作業で続けて、集中に入りやすかったかをメモする
会社員なら、午後の資料づくりの前に。個人開発者や学生なら、机に向かう前の30秒の儀式に。
大事なのは、毎回同じ場面で使うことです。「この香り=ここから集中」と結びつくほど、合図としての効きは強くなります。
ただし、過信はしない
「期待が効く」こと自体は、さきほどのレビューのように複数の研究で見られています。ただし、コーヒーの香りで代数の点が上がったという具体的な結果のほうは、まだ1本の研究(マジャロフら)によるものです。受け取り方には気をつけたいところがあります。
対象は米国の学部生でした。日本の社会人や別の年代に、そのまま当てはまるとは限りません。
測ったのも10問の代数テストの点数です。集中力や仕事の成果すべてが上がる、と示したわけではありません。
そして効いていたのは薬理作用ではなく「期待」でした。だから期待が働きにくい人には効きにくく、個人差が大きいと考えられます。
強い眠気そのものを香りが消してくれるわけでもありません。しっかり眠気を立て直したいなら、実際にカフェインを使うコーヒーナップのほうが筋が通ります。
効果の大きさや続く時間まで、この研究だけで断定はできません。「頭がさえるはず」と思える合図を1つ足す——そのくらいの気持ちで使うのがちょうどいいはずです。
集中を根性ではなく段取りで守る工夫は、集中の技術にまとめています。
まずは明日の午後、作業の5分前にコーヒーの香りを机に置いてみてください。効くとすれば、それはあなたが香りに寄せる小さな期待から始まります。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 作業を始める5分前に、コーヒーの香りを机のそばに用意する
- 香りをかいだら「これで頭がさえる」と一度言葉にしてから始める
- カフェインを控えたい夕方は、飲まずに香りだけを合図に使う
- 1週間、同じ時間帯で試して、集中に入りやすかったかメモする
出典・参考
- Madzharov, A. V., Ye, N., Morrin, M., & Block, L. (2018) The impact of coffee-like scent on expectations and performance. Journal of Environmental Psychology, 57, 83-86.sciencedirect.com
- Coffee Scent Alone May Boost Analytical Performance (NeuroscienceNews, 2018) — 上記研究の解説neurosciencenews.com
- Shabir, A., Hooton, A., Tallis, J., & Higgins, M. F. (2018) The Influence of Caffeine Expectancies on Sport, Exercise, and Cognitive Performance. Nutrients, 10(10), 1528. doi:10.3390/nu10101528mdpi.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。