運動すると集中力が伸びる——効き目が高まるのは20分ほど経ってから
Focus / Research Digest

運動すると集中力が伸びる——効き目が高まるのは20分ほど経ってから

大事な作業の前に体を動かすと、頭が動く力が上向くことがあります。4,390人分のデータをまとめたベイズ分析では、効果が最大だったのは運動から20〜75分後でした。短い運動をいつ・どれくらい行うと効くか、限界も添えてまとめました。

昼休みが終わった14時。会議室で企画書を開いたのに、さっきから同じ1行を3回読み返している。

コーヒーのおかわりも、ガムをかむのも試した。それでも頭に霧がかかったような感覚は晴れません。

そんなとき、「体を動かすと余計疲れるから、まず座って気合を入れよう」と思う人は多いと思います。

でも、順番はむしろ逆かもしれません。少し息が上がる運動をしてから会議や資料づくりに入ると、考えをやりくりする力が上向く——そんな研究結果があります。

しかも、効果が一番大きく出るタイミングは、運動している最中でも、終わった直後でもありませんでした。山が来るのは20〜75分後、体がひと段落ついたころです。

4,390人分のデータで見えてきたこと

2024年、ジョーダン・ギャレットらのチームがこれまでの研究をまとめ直しました。掲載誌は Communications Psychology(Nature系列の学術誌)です。

集めたのは113件の先行研究、あわせて651通りの実験結果です。対象は18〜45歳の健康な成人、合計4,390人にのぼります。

これをベイズ統計という手法で解析しました。

結果、1回の運動が認知機能全体にわずかにプラスへ働くという、そこそこ確からしい証拠が見つかりました。効果量はg=0.13です。

80%の確率で、効果は0〜0.2の範囲におさまるという計算です。数字だけ見ると小さく感じるかもしれません。

ただしこれは、記憶・注意・判断などあらゆる認知課題をひとまとめにした平均です。課題の種類で分けると、様子が変わります。

「気が散らずに、頭の中で複数のことをやりくりする力」——専門的には実行機能と呼ばれる働きへの効果は0.18でした。

なかでも、余計な情報を抑える「抑制」は0.21、覚えておきながら作業する「ワーキングメモリ」は0.22と、平均より高く出ています。

一方、単純な「注意」への効果は0.06。記憶のテストでは、ほぼ差が出ませんでした(-0.06)。

つまり、この運動の効き方は一様ではありません。よく効くのは、気が散らずに考えをやりくりする作業のほうです。

同じ方向の結果は、以前の分析にも出ています。

2012年のチャンらは、79件の研究をまとめました。運動には、認知の成績を小さく押し上げる働きがあります(効果量0.10)。

2016年のルディガらは、実行機能にしぼった分析で、やはり小さなプラスの効果を確かめています。

複数の分析が、そろって同じ方向を指しています。そう受け取ってよさそうです。

効くのは、運動を終えて少し経ってから

同じ研究チームは、認知テストを受けるタイミングによっても効果が変わるかを調べています。

運動している最中に測ると、効果はほぼゼロでした(0.02)。

運動を終えた直後だと0.16。ここまでは、なんとなく想像どおりかもしれません。

ところが一番効果が大きかったのは、運動を終えてから20〜75分後でした(0.22)。180分(3時間)以上たつと、効果は0.08まで下がっています。

運動を終えてからの経過時間ごとに、認知テストの成績への効果の大きさを示す棒グラフ。運動中はほぼ0(0.02)、運動直後は0.16、20〜75分後がもっとも高く0.22、180分以上たつと0.08まで下がる
図1: 効果が一番大きいのは運動後20〜75分(当サイト作成)

図のとおり、効果の山は、運動を終えて少し時間をおいたところに立っています。

動いてすぐ机に向かうより、動いてから少し置いて本題に入るほうが、理屈のうえでは効きやすいタイミングということです。

なぜ20〜75分後によく効くのか

ここは、もう1つの研究を重ねると筋が見えてきます。

ニューヨーク大学のジュリア・バッソとウェンディ・スズキは2017年、1回だけの運動が脳に与える影響をまとめたレビュー論文を発表しています。掲載誌は Brain Plasticity です。

そこでは、運動の強さに応じてノルアドレナリンなどの神経伝達物質が増え、運動をやめたあとも70分ほど高い状態が続くと報告されています。

前頭前皮質(考えをやりくりする脳の部位)に関わる認知課題の成績は、運動後2時間ほど上向いたままだったという報告もあります。

さきほどのギャレットらの4つの数字を、この体内の変化に重ねてみます。効果は時間とともに立ち上がり、20〜75分後にピークを迎えて、その後また引いていく。山なりの曲線を描きます。

運動している最中は、効果はほぼゼロ(0.02)です。体を動かすこと自体に意識と体の資源が使われていて、神経伝達物質は増え始めていても、考えをやりくりする力にはまだ回っていない時間だと考えられます。

終えた直後には0.16まで上がります。神経伝達物質はほぼ出そろう一方、呼吸や心拍はまだ運動モードに近く、効果は道半ばです。

ピークの20〜75分後は0.22。神経伝達物質は高いままで、体のほうは落ち着きを取り戻しています。バッソらの言う「70分ほど高い状態が続く」窓と、ちょうど重なる時間帯です。

180分を過ぎると0.08まで落ちます。神経伝達物質の高まりが引いていく流れに沿った下がり方です。

つまり20〜75分後がよく効くのは、体の中の変化は高いまま、体そのものは平常運転に戻っているからだ、と考えると筋が通ります。その両方がそろう、ちょうど中間の時間帯というわけです。

あくまで2つの研究をつないだ解釈です。同じ実験で直接確かめたわけではない点は、割り引いて受け取ってください。

運動の長さと強さは、どれくらいがいいか

研究では、運動の長さも効果に関わっていました。16分以内や20〜27分ほどの短い運動でもっとも効果が高く、40分を超えるあたりから効果は下がり、60分以上ではほぼ見られなくなっています。

長く頑張るより、短く切り上げるほうが理屈に合います。

強さについては、この分析では強めの運動(0.19)が、軽い運動(0.10)や中程度の運動(0.07)より効果が高く出ました。

ただし、これは著者自身も「意外だった」と述べている結果です。一般には、中程度の運動がもっとも良いとされてきたためです。

無理に強度を上げる必要はありません。「いつもより少し強め、少し息が弾む」くらいを目安にすれば十分でしょう。

会社でも個人開発でも、1日の中に組み込む

さきほどの14時の会議の例なら、逆算はこうなります。

昼休みのうち13時から13時20分ほどで、早歩きか階段の上り下りをすませる。20〜75分後にあたる13時40分から14時35分ごろが、考えをやりくりする力がもっとも上向いている計算になる時間帯です。ちょうど14時の会議とも重なります。

会社員なら、大事な会議やレポート作成の30〜60分前に、階段の上り下りや早歩きを組み込む。

個人開発者なら、難しい実装や設計に取りかかる前の10〜20分。

学生なら、集中して勉強したい時間の前の休み時間に。

どれも共通しているのは、疲れるまでやらないことと、動いてすぐ机に向かわず一呼吸おくことです。集中を仕組みで整える工夫は、集中の技術にもまとめています。

今日から試す手順

  1. 集中したい作業の30〜60分前に、体を動かす時間を確保する
  2. 早歩き・階段の上り下り・その場での軽いジャンプなどで、少し息が上がる強さで10〜20分動く
  3. 運動は20分前後で切り上げ、長く頑張りすぎない
  4. 動いた直後に机に向かってもよいが、20〜75分ほど間を置くほうが効きやすいタイミング
  5. 特に効果が出やすいのは、気が散らずに考えをやりくりする作業。単純な暗記には過度な期待をしない

効果は小さく、若い成人での結果

ここまでの数字には、気をつけたい点がいくつかあります。

まず、全体の効果量は0.13と小さめです。運動すれば必ず頭が動く力が上がる、と言えるほどの強さではありません。

対象になったのは、18〜45歳の健康な成人でした。年齢が上がった場合や、持病がある場合にも同じように効くかは、この分析だけでは分かりません。

運動の強さと効果の関係も、著者が「意外」と認めるほど、まだ一貫した説明がついていません。

体調が悪い日や痛みがあるとき、持病があるときは、無理に体を動かさないでください。

気分や元気を上げたいだけなら、数分の運動で気分と活力が上向くも参考になります。今回の話は、それとは別に「考えをやりくりする力」に効くタイミングの話です。

まずは明日、大事な作業の30分ほど前に、階段の上り下りや早歩きを10分試してみてください。効くとすれば、それは運動を終えてしばらくしてから訪れます。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 集中したい作業の30〜60分前に、体を動かす時間を確保する
  2. 早歩きや階段など、少し息が上がる強さで10〜20分動く
  3. 運動は20分前後で切り上げ、長く頑張りすぎない
  4. 効果が一番大きいのは、気が散らずに考えをやりくりする作業
  5. 体調が悪い日や痛みがあるときは無理に動かない

出典・参考

  1. Garrett, J., Chak, C., Bullock, T., & Giesbrecht, B. (2024) A systematic review and Bayesian meta-analysis provide evidence for an effect of acute physical activity on cognition in young adults. Communications Psychology, 2, 82.pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Basso, J. C., & Suzuki, W. A. (2017) The Effects of Acute Exercise on Mood, Cognition, Neurophysiology, and Neurochemical Pathways: A Review. Brain Plasticity, 2(2), 127-152.pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  3. Chang, Y. K., Labban, J. D., Gapin, J. I., & Etnier, J. L. (2012) The effects of acute exercise on cognitive performance: a meta-analysis. Brain Research, 1453, 87-101.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  4. Ludyga, S., Gerber, M., Brand, S., Holsboer-Trachsler, E., & Pühse, U. (2016) Acute effects of moderate aerobic exercise on specific aspects of executive function in different age and fitness groups: A meta-analysis. Psychophysiology, 53(11), 1611-1626.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。