探し物は声に出すと見つかりやすい—「鍵、鍵」とつぶやく効果
Focus / Research Digest

探し物は声に出すと見つかりやすい—「鍵、鍵」とつぶやく効果

急いでいるときほど、鍵や財布が見つからない。実は、探す物の名前を声に出すだけで見つかるのが速くなる、という実験があります。効く条件・効かない条件と、集中も切れにくくなる理由を、2つの研究からまとめました。

出かける5分前。鍵が見つからない。

カバンの底、机の上、上着のポケット。さっき見たはずの場所を何度も見返しているのに、目に入ってこない。

急いでいるときほど、こういうことが起きます。

そんなとき、探す物の名前を声に出すと、見つかるのが少し速くなるかもしれません。気合いで探すのとは別の、小さな工夫の話です。

「鍵、鍵」とつぶやくと、探し物が速く見つかった

ウィスコンシン大学のゲイリー・ルピアンとペンシルベニア大学のダニエル・スウィングリーは、2012年にこの現象を実験で調べました。掲載誌は Quarterly Journal of Experimental Psychology です。

参加者は、画面に並んだたくさんの絵の中から、目的の物を1つ探します。あるときは名前を声に出しながら、あるときは黙ったまま探しました。

3つの実験(参加者は12〜26人)を通して、名前を声に出すと、探す時間が短くなりました。

面白いのは、いつでも効くわけではない点です。

効いたのは、名前を聞いた瞬間に色や形が一つに浮かぶ物のとき。よく知っている商品ほど、後押しがありました。

実験でも、コーラを探すときに「コーク」と言うと速くなっています。

ところが、見た目が一つに定まらない物では逆でした。ある制汗剤(スピードスティック)の商品名を唱えたときは、黙って探すより遅くなっています。

効くかどうかを分けるのは、その物を「よく知っているか」だけではありません。名前から浮かぶ姿と、実物の見た目がどれだけ一致しているかです。

ズレが大きいほど、声に出すことがかえって足を引っぱります。

下の図が、黙って探した場合と、名前を声に出した場合の違いです。

黙って探す場合と、探す物の名前を声に出す場合で、見つかるまでの時間を比べた棒グラフ。名前を聞いて形がすぐ浮かぶ物では声に出したほうが時間が短い。ただし名前と実物の見た目が一致しない物では効かず、かえって遅くなることもある
図1: 名前を聞いて形が浮かぶ物なら、声に出したほうが速く見つかる(当サイト作成)

見てのとおり、名前から形がすぐ浮かぶ物なら、声に出したほうが速く見つかります。ただし効くのは条件つきです。

研究チームは、名前を口にすると、その物の特徴を思い浮かべる働きが強まり、目が形を拾いやすくなるからだと考えています。

声に出すと「集中」も切れにくい

「声に出す」効きめは、探し物だけの話ではないようです。

英バンガー大学のカークハムらは2012年、別の角度から声に出すことの効果を調べました。掲載誌は Acta Psychologica です。

参加者は、切り替わるルールに従って反応する課題をこなします。そのとき、やることの指示を「黙って読む」「声に出して読む」などの条件で比べました。

結果、指示を声に出して読んだときが、いちばん課題への集中が保たれました。逆に、無関係な言葉を口にさせられ、指示を自分の声で確認できない条件では、集中がいちばん途切れています。

つまり声に出すことには、2つの後押しがあると考えられます。

  • 探す対象がくっきりする(ルピアンらの研究)
  • その作業から気がそれにくくなる(カークハムらの研究)
探す物の名前を声に出すと2つの働きが起きることを示す図。ひとつは探す対象の形がくっきりして目が拾いやすくなること(ルピアンらの研究)。もうひとつは、その作業から気がそれにくくなり集中が続くこと(カークハムらの研究)
図2: 声に出すと、「見つけやすさ」と「集中」の両方が後押しされる(当サイト作成)

探し物の場面なら、こう働きます。「鍵」と口にすると、鍵の形が思い浮かんで目が拾いやすくなり、同時に「今は鍵を探している」という一点に意識がとどまります。

ただし、カークハムらの課題は探し物そのものではありません。この後押しが探し物にそのまま当てはまるとは限らない点は、心に留めてください。

どちらの実験も参加者はそれほど多くなく、散らかった部屋で鍵を探す場面とは条件が違います。だから「必ず速くなる」とは言えません。

唱える前に、その物の姿が「一つ」に浮かぶか

実験室では画面の絵を探しました。でも使いどころは、机の上でも冷蔵庫の中でも同じです。

効く物と効きにくい物は、探す前に見分けられます。

見分け方は一つ。名前を口にした瞬間、色・形・大きさが「これ」と一つに浮かぶかです。

浮かぶなら唱える価値があります。ぼんやりして決まらないなら、唱えても効きません。

効きやすいのは、姿がはっきり決まっている物です。

  • 机の書類なら、青い表紙のあの企画書
  • 本棚なら、背表紙が黄色いあの一冊
  • スーパーなら、いつものメーカーの牛乳パック
  • 冷蔵庫なら、赤いキャップのケチャップ

どれも、名前と一緒に見た目がセットで浮かびます。この状態で「牛乳、牛乳」と小さく唱えるほど、目がその色や形を拾いやすくなります。

効きにくいのは、姿が一つに決まらない物です。「文具」「調味料」のような大きなくくりや、パッケージが変わって見た目を思い出せない物。

ここで無理に唱えても、研究では効果は出ませんでした。

迷ったら、その物を頭の中で一枚の絵にできるか試してください。

絵にできれば声に出す、できなければ普通に探す。それだけで使い分けられます。

散らかりを減らして探しやすくする工夫は集中の技術視界の散らかりと集中でもまとめています。

今日から試す「名前を声に出して探す」

やることは一つ。探し始める前と探している間に、探す物の名前を小さく口に出すだけです。

  1. 探す物の名前を、探す前に一度つぶやく(例:「鍵」「財布」)
  2. 探している間も、その名前を小さく繰り返す(「鍵、鍵、鍵」)
  3. 名前を言うと色や形が一つに浮かぶ物で使う(例:リンゴ、いつもの牛乳)
  4. 名前を聞いても見た目が一つに決まらない物では、無理に唱えない
  5. 周りに人がいれば、口の中で小さく言う程度でよい

大きな声を出す必要はありません。口の中でつぶやく程度でも、名前を口に乗せることに意味があります。

合わなければ、やめて大丈夫です。

まずは今日、次に何かを探すとき、その名前を一度だけ声に出してみてください。「鍵、鍵」とつぶやくところから始められます。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 探す前に、探す物の名前を一度つぶやく(例:鍵)
  2. 探している間も名前を小さく繰り返す(鍵、鍵、鍵)
  3. 名前を言うと色や形が一つに浮かぶ物で使う(例:リンゴ、いつもの牛乳)
  4. 名前を聞いても見た目が一つに決まらない物では無理に唱えない
  5. 人がいれば口の中で小さく言う程度でよい

出典・参考

  1. Lupyan, G., & Swingley, D. (2012) Self-directed speech affects visual search performance. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 65(6), 1068-1085.(著者ダニエル・スウィングリー公開の本文PDF)sas.upenn.edu
  2. Kirkham, A. J., Breeze, J. M., & Marí-Beffa, P. (2012) The impact of verbal instructions on goal-directed behaviour. Acta Psychologica, 139(1), 212-219.(PubMed 抄録)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  3. It doesn't mean you're crazy: Talking to yourself has cognitive benefits, study finds(ScienceDaily による解説記事)sciencedaily.com

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。