不安は本番前に紙へ書き出す——10分の筆記で集中と実力が戻る
Focus / Research Digest

不安は本番前に紙へ書き出す——10分の筆記で集中と実力が戻る

大事なプレゼンや試験の前、頭が心配でいっぱいで準備した実力が出せない。本番の直前に頭の不安を10分だけ紙に書き出すと、点数が上がったという研究があります。頭の作業スペースを軽くする、机の上でできる手順をまとめました。

大事なプレゼンが10分後。準備はしたのに、頭の中は「失敗したらどうしよう」でいっぱい。

そんなとき、覚えたはずの言葉が出てこない。実力の半分も出せずに終わる。

原因は準備不足ではないかもしれません。心配ごとが頭の作業スペースを占領し、本番に回す分が足りていない。そんな見方があります。

心配を紙に書き出すと、本番の点が戻った

心理学者のラミレスとバイロックは2011年、試験前の不安をどう扱うかを調べました。掲載誌は Science です。

実験室と教室で、あわせて4つの研究をしています。実験室では、大学生20人に数学のテストの直前、10分だけ頭にある不安を紙に書いてもらいました。比べたのは、同じ時間をただ静かに座って待った学生です。

すると、ふだん試験に強い不安を感じる人ほど、書いたほうが力を出せました。

教室での研究は、もっとはっきりした形で出ています。高校で初めての期末試験にのぞむ生徒のうち、試験前に不安を書いた「不安の強い生徒」の平均はB+、書かなかった「不安の強い生徒」はB−。ほぼ1段階の開きです。

論文では、この効果はとくに不安の強い人で大きかったと報告されています。誰でも同じだけ伸びるわけではありません。

なぜ書くだけで変わるのか

手がかりが、別の研究にあります。

クラインとボールズは2001年、心配ごとを書くと頭の作業スペース(ワーキングメモリ)がどう変わるかを調べました。

学期をまたぐ2つの実験です。1つ目では、大学に来た不安や思いを書いた35人が、あたりさわりのない話題を書いた36人より、7週間後に作業スペースの余力を伸ばしていました。

研究者の見立てはこうです。心配を紙に出すと、頭の中で同じ考えがぐるぐる回るのがおさまり、空いた分を目の前の課題に回せる。

下の図が、書く前と後の頭の中の違いです。

左は「書き出す前」で、頭の作業スペースを『失敗したら』『時間がない』『評価が下がる』といった心配の楕円が占領し、本番の課題を置く四角が右下で小さくしぼんでいる。右は『書き出したあと』で、同じ3つの心配が下の紙のメモに移され、頭の作業スペースが空いて本番の課題を大きく置けている。心配の総量は変わらず、置き場所だけが頭から紙へ移ったことを対比した図
図1: 変わるのは心配の量ではなく、それを「どこに置くか」(当サイト作成)

見てのとおり、心配の総量は減っていません。変わったのは、それがどこにあるかだけです。

ここは冷静に受け取りたいところです。これらは若い学生を対象にした実験室・教室の研究で、不安の測り方には自己申告も含みます。示されたのは傾向で、いつでも同じだけ効くわけではありません。

つらい状態がずっと続くときは、書く工夫だけで抱え込まず、専門家に相談してください。

プレゼン前・試験前に、頭のざわつきを紙へ

使いどころは、頭が心配でいっぱいになる直前です。

会社員なら、プレゼンや面談が始まる前。受験生や資格試験の受検者なら、開始の合図が鳴る前。そのわずかな5分が狙い目です。

似た話に、やり残した用事を「いつ・どこで・どうやるか」と書いて頭から降ろす方法があります。でも、あれとこれは別ものです。あちらは片づいていない予定、こちらは本番前の不安。頭に詰まっている中身が違います。用事のほうはやり残しの1行メモでまとめています。

先延ばしと同じで、扱うのは能力ではなく感情の側です。自分を責めても席は空きません。手を動かすのは感情の扱い方を変えるほうです。

今日から試す「本番前の10分書き出し」

道具は紙とペンだけ。順番はこうです。

  1. 本番の5〜10分前に、書く時間をとる
  2. 頭にある心配を、うまく書こうとせず思いつくまま出す
  3. 「何が」「なぜ」気がかりかを、具体的な言葉で書く
  4. 書いた紙は閉じて脇に置き、本番に入る

コツは、きれいな文章を目指さないこと。誤字も脱線もそのままでいい。出し切ることが目的です。

書く相手は自分だけ。人に見せないと決めると、素直に書けます。

集中を仕組みで守る発想は集中の技術でまとめています。

まずは次の本番の前に、頭の中の「気がかり」を10分だけ紙に移してみてください。席が空けば、実力は出しやすくなります。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 本番の5〜10分前に、書く時間をとる(紙とペンだけ)
  2. 頭にある心配を、うまく書こうとせず思いつくまま出す
  3. 「何が」「なぜ」気がかりかを、具体的な言葉で書く
  4. 書いた紙は閉じて脇に置き、本番に入る

出典・参考

  1. Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011) Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom. Science, 331(6014), 211-213.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. University of Chicago News: Writing about worries eases anxiety and improves test performance (2011)news.uchicago.edu
  3. Klein, K., & Boals, A. (2001) Expressive Writing Can Increase Working Memory Capacity. Journal of Experimental Psychology: General, 130(3), 520-533.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。