コミットメント装置とは——意志で我慢せず、お金を賭けて自分を先に縛る仕組み
Habits / Research Digest

コミットメント装置とは——意志で我慢せず、お金を賭けて自分を先に縛る仕組み

「今度こそ続ける」と決めても、意志はすぐに折れます。そこで、我慢する代わりに、あらかじめ自分を縛る仕組みを用意する方法があります。お金を賭ける・逃げ道を塞ぐ——フィリピンでの貯蓄と禁煙の研究をもとに、平日で使えるやり方と、向かない場面をまとめました。

「今年こそ貯金する」「今度こそやめる」。年のはじめに、そう決めたことはありませんか。

でも数週間もすると、意志はするりと折れます。財布はゆるみ、うっかり手が伸びる。

そのたびに「自分は意志が弱い」と落ち込みます。

けれど、続く人は意志が強いわけではないのかもしれません。彼らは我慢する前に、自分を先に縛っています。

意志で我慢するより、先に自分を縛る

行動経済学に「コミットメント装置」という考え方があります。

意志の力で我慢するのではなく、あらかじめ自分を縛る仕組みのことです。お金を賭ける、逃げ道を塞ぐ、第三者に監視を頼む。未来の自分が甘えられない状況を、先に作っておきます。

フィリピンの同じ銀行で行われた、2つの研究があります。

1つめは貯蓄の研究です。アシュラフらは、引き出しを自分で制限する口座(SEED)を用意しました。目標の金額や日付に届くまで、自分のお金を引き出せない口座です。

顧客710人にこの口座を勧め、開いたのは202人(3割弱)でした。希望者と非希望者をランダムに比べたところ、12か月後、口座を持たない人にくらべて貯蓄はおよそ8割増えていました。

2つめは禁煙の研究です。同じ銀行で、ヒネらがCARESという仕組みを試しました。

半年間お金を預け、期限に尿検査を受ける。ニコチンが検出されなければ返金、されれば全額が寄付に回る。そういう契約です。

勧められて加入したのは、喫煙者の1割ほど。平均で550ペソ(約11ドル)を預けました。

結果、6か月後の検査に合格する人が、契約しない人たちより少しだけ多くなりました(3パーセントポイントほど)。抜き打ちで受けた12か月後の検査でも、この差は残っていました。

ただし、鵜呑みにはできません。加入したのは1〜3割で、多くの人はそもそも縛りを選びませんでした。尿検査の精度にも限界があります。効果が出たのは特定の地域と条件での話で、誰にでも同じ結果が出るとは限りません。

それでも、「意志ではなく状況で行動を守る」という発想は、試す価値があります。

下の図が、その状況の作り方3つです。

コミットメント装置(自分を先に縛る仕組み)の3つの形を並べた図。1つめ『お金を賭ける』は、守れなかったら没収される前提で先にお金を預ける。2つめ『逃げ道を塞ぐ』は、引き出しや抜け道を先に封鎖する。3つめ『監視役を頼む』は、結果を報告する約束を第三者と結ぶ。3つの共通点は、未来の誘惑が来る前に『破ると損する状況』を先に作っておくことだと示している。
図1: どれも「破ると損する状況」を先に用意している(当サイト作成)

見てのとおり、3つに共通するのは「破ると損する状況」を先に作っている点です。強い意志は使っていません。

会社員・個人開発者の平日でどう使うか

研究の舞台は銀行ですが、仕組みは日常でも同じです。

貯金なら、給料日に一定額が自動で別口座へ移る設定にします。手元に残らなければ、使いようがありません。

運動なら、友人に「今週サボったら昼をおごる」と約束します。財布が痛むと思うと、腰が上がります。

個人開発の勉強も同じです。「今月コミットが途切れたら参加費を没収」と決めて、仲間のグループに宣言する。

コツは2つあります。1つは、賭けるものを「破ったら少し痛い」大きさにすること。もう1つは、抜け道を先に塞いでおくことです。

ただし、縛りが強すぎると逆効果になります。罰が重すぎると、そもそも始めるのが怖くなります。研究で加入率が低かったのも、理由の1つはここでしょう。

無理なく続けられる重さから始めてください。

今日から試す手順

1. 続けたい行動を1つ選ぶ(1分)

「週3回歩く」「毎日30分勉強する」など、1つだけ選びます。あれもこれもは縛りきれません。

2. 賭けるものを1つ用意する(3分)

守れなかったときに失うものを決めます。少額のお金、休日の予定、友人への面子。痛すぎない範囲にします。

3. 監視役を1人頼む(3分)

結果を見せる相手を決めます。「日曜に報告するね」と伝えるだけ。相手の返信は要りません。

4. 逃げ道を物理的に塞ぐ(5分)

自動振替を設定する。集中を邪魔するアプリに制限をかける。誘惑の道具を見えない場所へ移す。

うまくいかない週があっても、失敗ではありません。縛りがつらすぎたら外し、軽いものに置き換えて、また始めればいい。

続かないのは、意志が弱いからではありません。逃げ道が開いたままだからです。

まずは1つ、今日のうちに「破ると少し損する状況」を作ってみてください。

戦わずに済ませる考え方は自制心の高い人ほど我慢していない話、逃げ道を摩擦で塞ぐ具体策は部屋を1分だけ模様替えして悪習慣を断つ方法にまとめました。締め切りで自分を縛るなら締め切りを途中に刻む話もどうぞ。仕組みで習慣を支える発想は習慣づくりの柱でまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 続けたい行動を1つ選び、「破ったら失うもの」を先に決める
  2. 賭けるものを1つ用意する(お金・時間・面子。少額でよい)
  3. 経過を見せる監視役を1人決め、結果を報告する約束をする
  4. 逃げ道を物理的に塞ぐ(自動振替・アプリ制限・道具を隠す)
  5. つらすぎる縛りは外し、軽い縛りに置き換えて続ける

出典・参考

  1. Giné, X., Karlan, D. & Zinman, J. (2010) Put Your Money Where Your Butt Is: A Commitment Contract for Smoking Cessation. American Economic Journal: Applied Economics, 2(4), 213-235.(著者版全文PDF・Innovations for Poverty Action)poverty-action.org
  2. Ashraf, N., Karlan, D. & Yin, W. (2006) Tying Odysseus to the Mast: Evidence from a Commitment Savings Product in the Philippines. Quarterly Journal of Economics, 121(2), 635-672.(著者版全文PDF)navaashraf.com

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。