初期設定のまま生きていませんか——意志ではなく「既定」を変えて良い行動を続ける
Habits / 実践メソッド

初期設定のまま生きていませんか——意志ではなく「既定」を変えて良い行動を続ける

通知は全部オン、サブスクは自動更新。人は初期設定のまま流されます。良い行動を「何もしなければそうなる」側に置けば、意志に頼らず続きます。研究の裏づけと、今日できる設定の変え方をまとめました。

スマホを買い替えたとき、通知の設定はどうしましたか。

たぶん、出てきたままで使っていると思います。サブスクの自動更新も、動画の自動再生も、たいていは初めからオンのまま。

私たちは「自分で選んでいる」つもりで、その多くを実は「初めからそうなっていたから」で決めています。

だとすれば、続けたい行動のほうを「初めからそうなっている」側に置けばいい。今日はその話です。

初期設定が、行動の大半を決めている

人は、初期設定(デフォルト)のまま流されやすい。これを行動科学ではデフォルト効果と呼びます。

有名なのが、臓器提供の研究です。心理学者エリック・ジョンソンとダニエル・ゴールドスタインが2003年に科学誌『Science』で報告しました。

同じ人たちに提供の意思を尋ねても、**「提供する」が初期設定だと約82%が同意し、「提供しない」が初期設定だと約42%**にとどまりました。中身は同じ人、変わったのは初期設定だけです。

お金でも同じことが起きます。マドリアンとシーが2001年に報告した研究では、年金積立に「自動で加入」する仕組みにしたところ、加入した人の76%が初期設定の積立率(給料の3%)のままでした。

つまり、多くの人は「決めない」。だから、決めなかった人がどこに流れ着くかを決める初期設定が、結果の大半を握ります。

この「初期設定の置き方」を意識して設計する考え方を、経済学者リチャード・セイラーらはナッジと呼びました。

ただし、魔法ではありません。

効果の大きさは場面によって変わり、小さいこともあります。書類の上で同意しても、実際の行動すべてがそれで決まるわけでもない。あくまで「迷った人・決めなかった人」を、良い方向へそっと寄せる仕組みです。

国の初期設定は変えられない。でも、自分のは変えられる

ここで多くの人がつまずきます。臓器提供も年金の自動加入も、国や会社が決めた初期設定の話だからです。

一個人が、国の制度の既定を書き換えることはできません。だから「デフォルトが大事」と聞いても、自分の毎日と結びつかない。

けれど、手元をよく見てください。あなたの生活には、あなたが変えられる初期設定がいくつもあります。

スマホの通知は、初めから全部オン。サブスクは、放っておけば自動で更新。コンビニのレジ横やアプリのトップには、いちばん手が伸びる位置に「初期の選択肢」が置かれています。

これらは全部、何もしなければそうなる設定です。そして今、その多くが「良くない方」に向いています。

同じ人・同じ意志でも、初期設定によって行き着く先が変わることを示す図。左は初期設定が『流される先』(通知は全部オン・お菓子は机の上)で、何もしないとつい見て食べてしまい毎回意志で止める必要がある。右は初期設定が『良い行動』(通知はオフが既定・給料日に自動で積立)で、放っておくと貯まり整い、意志が要る場面が減る
図1: 何もしない人が一番多い。だから初期設定が結果を決める(当サイト作成)

見てのとおり、意志の強さは左右で同じです。違うのは「何もしなかったときの行き先」だけです。

実践:自分の初期設定を組み直す

やることは、良い行動を「初期設定」の側へ引っ越しさせることです。手順は4つ。

1. 悪い側の初期状態を、オフにする

まずスマホの通知を、一度すべてオフにします。そのうえで、本当に必要なものだけ手で戻す。

「必要なものだけオン」ではなく「全部オフから始める」のが肝心です。初期状態をオフにすると、放っておいた通知は鳴りません。

2. 良い行動を、自動で起きる側に置く

続けたい貯金や投資は、給料日の翌日に自動で引き落とす設定にします。いわゆる先取りです。

意志で「今月は残せたら残す」にすると、たいてい残りません。自動なら、何もしなくても積み上がります。

3. 「自動で進む」を切る

動画やSNSの自動再生、アプリの自動更新は切っておきます。放っておいたら止まる側にするのがコツです。

自動再生を切るだけで、「もう1本」の大半は消えます。続けたいなら、自分で押す一手を挟むからです。

4. 決め直しを、一度きりにする

毎回選び直している行動は、「一度決めたら以後は既定」の形に変えます。日用品は定期便、運動は曜日固定の予約枠。

一度決めれば、次からは何もしなくてもそれが起きます。選ぶ回数が減るほど、迷って崩れる場面も減ります。

まずは1つ。今日は通知を全部オフにするところから試してください。

この発想は、悪い行動に手間を足す部屋を1分だけ模様替えして悪習慣を断つ方法と相性がよく、行動を合図で呼び出すif-thenプランニングと組み合わせると効きます。仕組みで習慣を支える考え方は習慣づくりの柱でもまとめています。

うまくいかないとき・向いていない人

自分で設定した既定は、自分で覆せます。ここが国の制度と違うところで、弱点でもあります。

自動積立を「今月だけ止める」を繰り返すと、既定はすぐ形だけになります。止めるのに一手間かかるようにする——別口座に移す、家族と共有する——と、覆しにくくなります。

前に触れたとおり、デフォルトの効果は場面しだいで、大きいときも小さいときもあります。設定を変えれば何でも続く、という話ではありません。合わなければ、遠慮なく別の初期設定に組み替えてください。

そもそもこのやり方が向いていない人もいます。

すべてを自分の手で細かく管理したい人には、自動化はかえってストレスになります。生活が毎週大きく変わる時期も、固定の既定が合いにくい。そういうときは、無理に仕組み化せず、手動のままでかまいません。

初期設定を変えるのは、意志を鍛える作業ではありません。

未来の自分が「何もしなかった日」に、どこへ流れ着くか。その行き先を、今日の自分が先に決めておくだけです。まずは通知を全部オフにする、その1手から始めてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. スマホの通知を一度すべてオフにし、本当に必要なものだけ後から手で戻す
  2. 続けたい貯金・投資を、給料日の翌日に自動で引き落とす設定にする(先取り)
  3. 動画・SNSアプリの「自動再生」「自動更新」を切り、放っておくと止まる側にする
  4. 毎回選び直している買い物や行動を、定期便・予約など『一度決めたら既定』の形に変える

出典・参考

  1. Johnson, E. J. & Goldstein, D. G. (2003) Do Defaults Save Lives? Science, 302(5649), 1338-1339.(著者提供の全文PDF)dangoldstein.com
  2. Madrian, B. C. & Shea, D. F. (2001) The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior. The Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149-1187.(NBER Working Paper 7682 全文)nber.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。