「意志力は使うほど減る」説は揺らいでいる——自制は気合でなく仕組みで支える
Habits / Research Digest

「意志力は使うほど減る」説は揺らいでいる——自制は気合でなく仕組みで支える

夕方にはもう頑張れない。自分は意志が弱いと責めていませんか。「意志力は使うほど減る」という有名な考えは、23の研究・2,141人の事前登録された追試で、効果がごく小さく揺らいでいます。だから自制は気合の残量ではなく、仕組みと環境で支える。今日からできる手順にまとめました。

夕方になると、もう頑張れない。

朝は「今日こそ」と思っていたのに、夜には甘いものにもスマホにも手が伸びている。

そのたびに、自分の意志の弱さにため息が出ます。

でも、その「気合の残量が尽きた」という感覚は、思うほど確かなものではないかもしれません。

「意志力は電池」説は、大きな追試で揺らいだ

「意志力は使うほど減る」という考えには、有名な出発点があります。

心理学者のバウマイスターらが、1998年に発表した実験です。

目の前のチョコレートを我慢し、代わりにラディッシュ(はつか大根)を食べた人たち。彼らはそのあと、解けないパズルを早くあきらめました。

ここから研究者は、自制の力は使うと目減りする「限られた資源」ではないかと考えました。この考えは自我消耗(エゴ・ディプリーション)と呼ばれ、広く引用されてきました。

ところが、この効果は近年の大規模な追試で揺らいでいます。

2016年、ハガーらは世界の複数の研究室で、同じ手順をやり直しました。手順と分析を先に公開してから始める「事前登録」という厳しいやり方です。

参加した研究室は23、集まった人数は合わせて2,141人でした。

結果はこうです。自我消耗の効果はごく小さく、統計上は「効果ゼロ」も範囲に入っていました。

研究チームは効果量を d=0.04 と報告し、その信頼区間はゼロをまたいでいます。つまり「意志を使うと次の自制が必ず落ちる」という関係は、この形でははっきり確認できませんでした。

ここは慎重に見ておきます。これは一つの決まった手順による追試で、あらゆる自制の場面を調べたわけではありません。自我消耗をめぐる議論は、今も続いています。

この結果は、通説をいくつかに分けて見ると飲み込みやすくなります。下の図が、その分け方です。

「意志力は使うほど減る」という説を3つに分けた図。1つ目『使うと面倒に感じる』は疲れやだるさの感覚そのもので、○実感はあると付く。2つ目『次の自制が必ず落ちる』は23の研究・2,141人の追試でも効果がゼロを含み、?確認できずと付く。3つ目『自制は気合の残量しだい』は根拠が弱く?が付く。揺らいでいるのは実感ではなく『使えば次が必ず落ちる』の部分だと示している
図1: 揺らいでいるのは「使えば次が必ず落ちる」の部分(当サイト作成)

見てのとおり、揺らいでいるのは一部です。「使えば疲れる」という実感ではなく、「だから次が必ず落ちる」という部分です。

「証拠が弱い」は「意志力は無い」ではない

ここで、早とちりを1つ避けておきます。

「効果が確認できなかった」は「意志力なんて存在しない」とは違います。

追試が調べたのは、決まった手順で「最初の課題のあとに、次の課題の成績が落ちるか」でした。それがはっきり出なかった、という話です。

使えば疲れる、面倒になる。そうした日々の実感まで否定したわけではありません。

言えるのはこうです。「意志力は電池のように減り、その残量で自制が決まる」という見立ては、少なくとも万能の法則ではなさそうだ、ということ。

だとすれば、自制を「気合の残量」だけに頼るのは、心もとない賭けになります。

「気合が足りない」を、設計の問題に置き換える

夕方の自分を「意志が弱い」と責めても、明日また同じ夕方が来ます。

責める代わりに、問いを変えてみます。「どうすれば我慢しなくて済むか」です。

たとえば残業終わりのコンビニ。疲れた頭で「買うか我慢するか」を戦うと、たいてい負けます。だったら、戦いが起きるルートを最初から通らない。

意志の残量を増やそうとするより、意志が試される場面そのものを減らすほうが確実です。

今日から試す「気合に頼らない」4手順

やることは、意志を鍛えることではありません。意志が試される回数を、先に減らしておくだけです。

  1. 「夜に我慢して勝つ」前提の計画を、いったん見直す。気合の残量をあてにした設計をやめる
  2. いちばん負けやすい誘惑を、目に入らない場所へ動かす(お菓子は戸棚の奥、スマホは別の部屋)
  3. 迷う場面の「初期設定」を、先に決めておく(帰りは駅の階段を使う、を既定にする)
  4. 「もし〇〇したら、〇〇する」と条件を先に決めておく(21時になったらスマホを充電器に置く)

どれも、その場の頑張りに頼らない仕組みです。

誘惑を視界から外す具体策は、部屋を1分だけ模様替えして悪習慣を断つ方法にまとめました。迷わなくて済む初期設定の作り方は初期設定でよい行動に寄せる、合図で行動を自動的に呼び出すやり方はif-thenプランニングが近道です。

自制の高い人ほど我慢していない、という近い話は「自分は意志が弱い」と責めていませんかにもまとめています。仕組みで習慣を支える発想は、習慣づくりの柱でも扱っています。

まずは今日、いちばん負けやすい誘惑を1つだけ、目に入らない場所へ動かしてみてください。気合の残量に賭けなくても、明日の自分は少しラクになります。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 「夜に我慢して勝つ」前提の計画を見直す(気合の残量をあてにしない)
  2. いちばん負けやすい誘惑を、目に入らない場所へ動かす
  3. 迷う場面の「初期設定」を先に決めておく(帰りは階段、など)
  4. 「もし〇〇したら〇〇する」と条件を先に決めておく

出典・参考

  1. Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., et al. (2016) A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546-573.journals.sagepub.com
  2. Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Muraven, M., & Tice, D. M. (1998) Ego depletion: Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252-1265.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。