心がよそへ行くと集中も満足感も下がる—25万件のスマホ調査が示した「今ここ」の効き目
Focus / Research Digest

心がよそへ行くと集中も満足感も下がる—25万件のスマホ調査が示した「今ここ」の効き目

作業中なのに気づけば別のことを考えている。それは気合い不足ではなく、心のもともとの性質かもしれません。2,250人をスマホで追った研究をもとに、注意を今に戻す小さな習慣をまとめました。

締め切りのある作業に向かっている。なのに気づけば、昨日の失敗や週末の予定を考えている。

はっと我に返って画面に戻る。でもまた数分すると、心はどこかへ行っている。

これを「自分の集中力が足りないせい」と感じる人は多いと思います。でも、心がさまようのは意志の弱さではなく、人の心のもともとの性質かもしれません。

心がさまよう時間は、起きている間の半分近い

ハーバード大学のマシュー・キリングスワースとダニエル・ギルバートは、2010年にこの問題を大規模に調べました。掲載誌は Science です。

二人はスマートフォンのアプリを使いました。18歳から88歳までの2,250人に、一日のうち無作為なタイミングで通知を送り、その瞬間の状態を尋ねる方法です。

聞いたのは3つ。「今どのくらい幸せか」「今何をしているか」「今していること以外を考えているか」。集まった回答は約25万件にのぼりました。

その結果、人は起きている時間の46.9%で、目の前のこと以外を考えていました。半分近い時間、心はどこかへさまよっていたわけです。

左は作業中に心が昨日の失敗や先の心配へさまよい満足度が下がる状態。右は「あ、それた」と気づいて今の作業に注意を戻し満足度が戻る状態を対比した図
図1: さまよいに気づいて「今」へ連れ戻すと、満足度は戻ってくる(当サイト作成)

図の左のように、注意が今から離れて別のことへ向かうと、そのとき人はあまり幸せではありませんでした。逆に、目の前のことに心が向いているときのほうが幸福度は高かったのです。

面白いのは、時間差を追った分析です。研究チームは、さまよいが不幸の「原因」であって、不幸だからさまようという逆向きの関係ではなさそうだと述べています。

ここは慎重に受け取ってください。これは何万人もの平均的な傾向で、個人差があります。

幸福度は本人の申告で、参加者もアプリを使う人に偏っています。

相関を中心とした調査なので、因果を完全に証明したわけではありません。断定ではなく、傾向として読むのが妥当です。

「今」から離れる瞬間は、誰の一日にもある

この結果が示すのは、さまよい自体は異常ではない、ということです。会議中でも作業中でも、心は勝手に別の場所へ行きます。

会社員なら、資料を作りながら午後の打ち合わせが気になる。個人開発者なら、コードを書きながら「これは売れるのか」と先を考えてしまう。

学生なら、参考書を開きながらSNSの通知や友達の返信が頭をよぎる。どれも、目の前の作業から心が離れた瞬間です。

大事なのは、さまよいをゼロにしようとしないことです。それは無理な相談で、責めるほど作業から気持ちが離れます。狙いは一つ。離れたことに気づいて、そのつど今へ戻す回数を増やすことです。

集中を仕組みで守る発想は集中の技術でも扱っています。今ここに注意を戻す練習は、その土台になります。

今日から試す「気づいて、戻す」

やることは、さまよいをなくすことではありません。さまよったと気づいて、戻す。この往復を淡々と繰り返すだけです。

まず、作業を始める前に小さな目印を作ります。机の端やスマホに「それたら戻す」と一言だけメモを貼る。それだけで、さまよいに気づくきっかけが増えます。

  1. 作業中に「あ、別のことを考えていた」と気づく
  2. 気づいた自分を責めない(気づけた時点で十分)
  3. 何にそれたか一言だけ心で名づける(例:「心配」「予定」)
  4. 目の前の一手に、注意をそっと戻す
  5. またそれたら、1に戻る

ポイントは3つめの「名づける」です。頭に浮かんだものを短くラベルにすると、その考えと少し距離が取れて、今に戻りやすくなります。

もう一つ。スマホの通知は、さまよいの入り口を外から増やします。作業の間だけ通知を止めておくと、戻す回数そのものを減らせます。通知の扱いは通知をまとめて受け取るも参考にしてください。

この研究自体は、こうした練習の効果を試したわけではありません。示されたのは「心がさまよっているとき、人はあまり幸せでない」ところまで。戻す習慣は、その知見から導いた実践であって、効果を保証するものではありません。

合わなければ無理に続けなくて大丈夫です。前の作業を引きずって集中できないときは、注意残余の対処もあわせて試してみてください。

心がさまようのは、あなたの弱さではありません。まずは今日、作業中に「あ、それた」と気づいたら、責めずに目の前へ一度だけ戻してみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 作業を始める前に、机やスマホに「それたら戻す」と一言メモを貼る
  2. 作業中に「あ、それた」と気づいたら、それを責めない
  3. 気づいたら、目の前の一手に注意をそっと戻す
  4. 何にそれたか一言だけ心で名づける(例:心配)
  5. 戻す回数を増やす練習と考える(消す努力はしない)

出典・参考

  1. Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010) A Wandering Mind Is an Unhappy Mind. Science, 330(6006), 932.(Greater Good Science Center 掲載の本文PDF)greatergood.berkeley.edu
  2. Harvard Gazette: Wandering mind not a happy mind(著者の所属機関による解説記事)news.harvard.edu

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。