面白い雑学が多い教材ほど、肝心な話が残りにくい——「誘惑的詳細」のワナ
教科書のコラムや動画の脱線。その場は楽しくても、肝心の内容の記憶を下げてしまうことがあります。58本の研究を集めた分析と最近の実験をもとに、余計な面白さに邪魔されずに学ぶコツと、自分で資料を作るときの削り方を、今日から使える手順にまとめました。
参考書を開くと、本筋の横に「豆知識」のコラムがあります。動画の講義では、先生が面白い脱線を挟みます。
その場は楽しいし、つい引き込まれます。ところが後で思い出そうとすると、肝心の内容だけがぼんやりしています。
面白い寄り道は、記憶の助けにならないどころか、邪魔をしているのかもしれません。
面白いが関係ない話は、肝心な内容の記憶を下げる
学習材料に混ざった「面白いけれど本筋とは関係ない情報」を、研究では誘惑的詳細と呼びます。
この現象が最初に報告されたのは1989年です。研究者のガーナーらは、大人に昆虫の種類の違いを説明する短い文章を読ませました。
一方のグループの文章には、面白いが本筋と関係ない数文を差し込みました。すると、その人たちは思い出せた要点の数が減っていたのです。
その後、同じテーマの研究が積み重なります。2020年、スンダラジャンとアデソープが、条件を満たす58本の研究(比較できる結果にして68件)をまとめて分析しました。
結果は、誘惑的詳細を入れると学習の成績が下がる傾向が広く見られた、というものでした。全体では、成績が小〜中くらい下がる効果が報告されています。
大事なのは、これが多くの研究を平均した傾向だという点です。影響の出方には幅があり、「必ずこうなる」ではなく「そうなりやすい」と受け取るのが妥当です。
ほかに、はっきりした傾向もありました。この悪影響は、デジタルより紙の教材で強く出ていたのです。
ここで、余談の量と記憶の関係を図で整理します。
余談が増えるほど、注意はそちらへ流れ、残るはずの本筋が薄くなります。この図は、研究全体で見られた傾向を模式的に表したものです。
なぜ「面白い脱線」は記憶を邪魔するのか
理由は、注意と時間を取られてしまうことにあります。
2023年、キーニッツらの実験で、邪魔の原因は「注意が脇道にそれること」だとわかりました。人は面白い情報を「大事なはず」と勘違いし、そこを読むのに時間をよけいに使ってしまうのです。
たとえば、資格のテキストを読んでいて、コラム欄の業界の裏話につい読みふける。10分たって頭に残ったのは裏話のほうで、肝心の制度の中身は後回しのまま薄れていきます。こうした経験は、まさにこの現象です。
面白い脱線は読んでいて心地よく、だからこそ注意を持っていかれます。これは教科書でも解説動画でも同じです。
ただし、同じ実験で対策のヒントも見つかりました。読む前に「この部分は本筋と関係ない」と伝えておくと、成績の低下が見られなくなったのです。
余談だと分かっていれば、注意は本筋に戻せます。ここが、次の対策につながります。
余談と本筋を、読む前に見分ける
面白さを我慢する必要はありません。大事なのは、面白さと本筋を見分けることです。
- 学ぶ前に「今日は何を覚えるか」を一言で決める(10秒で十分です)
- 余談・コラム・派手な図に出会ったら、「これは目的に関係あるか」と一度問う
- 関係なければ印をつけて後回しにし、本筋を終えてからごほうびに読む
自分でノートやスライドを作るときは、教える側の視点が役立ちます。面白いだけの余談は、思い切って削ります。
特に紙に印刷して配る資料では、余談の悪影響が出やすいとされています。伝えたい一点に絞ってください。
全部の面白さを捨てる必要はありません。キーニッツらの実験が示したように、「これは本筋ではない」と分かってさえいれば、成績の低下はかなり防げます。次に教材を開いたとき、どれが本筋でどれが余談かを一度だけ仕分けてみる。それだけで、よい第一歩になります。
面白さは敵ではありません。面白さと本筋を見分けて、本筋を先に押さえる。それだけで、学んだことは残りやすくなります。
学んだ内容を自分の言葉で確かめる問いかけは、「なぜ?」を自分に説明するにまとめました。どの学び方が効くかの全体像は、効果が確かめられている学習法が参考になります。学び方そのものを見直す話は、学びのカテゴリでも扱っています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 学ぶ前に「今日は何を覚えるか」を一言で決める
- 余談やコラム、派手な図は「本筋に関係あるか」で一度ふるいにかける
- 関係ない面白さは印をつけて後回し、本筋を終えてから読む
- 自分で資料を作るなら、面白いだけの装飾や脱線は削る
出典・参考
- Sundararajan, N., & Adesope, O. (2020) Keep it Coherent: A Meta-Analysis of the Seductive Details Effect. Educational Psychology Review, 32(2), 707-734.doi.org
- Garner, R., Gillingham, M. G., & White, C. S. (1989) Effects of "Seductive Details" on Macroprocessing and Microprocessing in Adults and Children. Cognition and Instruction, 6(1), 41-57.doi.org
- Kienitz, A., Krebs, M.-C., & Eitel, A. (2023) Seductive details hamper learning even when they do not disrupt. Instructional Science, 51, 1-22.pmc.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。