集める仕組みは続く——スタンプ2個の「先取り」で完了率が上がった
Habits / Research Digest

集める仕組みは続く——スタンプ2個の「先取り」で完了率が上がった

御朱印やスタンプカードがつい集めたくなるのは意志が強いからではありません。ゴールの一部を先に埋めておくと完了率が上がる、洗車カードの実験が示した仕組みを、手帳やポイントカードで続ける形にまとめました。

買ったばかりの手帳。1日目、2日目と書き込んで、3日目の朝にはもうペンを取らない。

気づけば、まっさらなページだけが残ります。

一方で、御朱印帳やスタンプラリー、喫茶店のポイントカードは、頼まれてもいないのについ集めてしまう。

同じ「毎日ちょっと続ける」なのに、この差はどこから来るのでしょうか。

「先に少し進んでいる」だけで完了率が上がる

手がかりになるのが、ナネスとドレーズが2006年に学術誌『Journal of Consumer Research』へ発表した研究です。

彼らはある洗車場で、来店客に2種類のポイントカードを配りました。カードは全部で300枚。中身はこうです。

  • A: マスが8個。スタートは0個。8個ためると洗車1回無料
  • B: マスが10個。最初から2個スタンプ済み。残りをためると無料

よく見ると、どちらも実際に押す回数は同じ8回です。違うのは「0からのスタート」か「もう2個進んでいる状態か」だけ。

結果は分かれました。9か月のあいだにゴールまで到達した人は、Aが19%、Bが34%です。

先に2個埋まっていたBのほうが、完了した割合が高かったのです。ゴールに着くまでの日数も短めでした。

差は、押す回数ではなく始まり方だけ。下の図が、そのイメージです。

8マスで0個スタートのカードAと、10マスで最初から2個埋まっているカードBを並べた図。実際に押す回数はどちらも同じ8回だが、9か月後にゴールした割合はAが19%、Bが34%で、先に2個埋まっていたBのほうが高い
図1: 押す回数は同じでも、先に2個埋めると完了率が上がった(当サイト作成)

研究者はこの現象を「授かった進捗(エンダウド・プログレス効果)」と名づけました。

面白いのは、その理由です。論文は、効果は「せっかくの進捗を無駄にしたくない」という気持ちよりも、「この作業はもう始まっている」という感覚から来ているようだ、と述べています。

ゼロから始める課題ではなく、途中まで来た課題として見える。すると人は、最後まで進みやすくなるというわけです。

ただし、これは洗車場での購買行動を1回調べたフィールド実験です。対象は個人の生活習慣そのものではありません。

また論文は、進捗を先に与える「理由」の有無や、進捗を数える単位によって効き方が変わることも報告しています。誰にでも同じだけ効く、という話ではありません。

御朱印やスタンプカードが続く理由

この「もう始まっている感覚」で見ると、集める文化の続きやすさに説明がつきます。

御朱印帳を1ページ埋めた時点で、その帳面は「白紙」ではなく「途中」になります。スタンプラリーの台紙も、最初の1個を押した瞬間から、残りを埋めたくなる。ポイントカードやアプリのスタンプも同じ構造です。

進み具合が目に見えることも効いています。目標に向かう進捗を見えるようにするだけで達成率が上がる傾向は、別のメタ分析(138研究・参加者約2万人)でも報告されています。集める仕組みは、「もう始まっている感覚」と「進捗が見える形」を、ひとつの台紙の上でまとめて用意してくれているのです。

裏を返せば、続かない習慣の多くは、この2つが欠けています。まっさらなカレンダーは「ゼロ」に見え、頭の中の「だいたいできてる」は目に見えません。

今日から試す4つの手順

自分の習慣にも、同じ台紙を用意できます。

  1. 集める形の目標にする(所要5分)。「運動する」ではなく「今月ストレッチを10回」のように、数えられる目標にします。マスを10個描いた紙でも、スタンプ系のアプリでも構いません
  2. スタートで最初の数個を埋める。初日にまとめて2〜3回進めるか、過去にやったぶんを最初のマスとして数えます。ゼロからではなく「もう始まった台紙」にするのが狙いです
  3. 進み具合を毎日必ず目に入る所に置く。紙なら洗面所の鏡やトイレのドア、冷蔵庫の扉に貼ります。アプリならスマホのホーム画面1枚目に置きます。朝の歯みがきや寝る前など、決まった時間に1回ながめます
  4. 埋めたマスは消さない。達成の跡がそのまま「ここまで来た」の証拠になります。1周終えたら、次の台紙もまた数個埋めた状態から始めます

どれも意志の強さは要りません。始まり方と見え方を変えるだけです。

まとめ

続かないのは、根性が足りないからとは限りません。多くの場合、目標が「ゼロからの遠い道のり」に見えていて、進んだ跡が目に入らないだけです。

御朱印やスタンプカードは、そこを台紙の設計で解いてきました。最初の一歩を先に埋め、進み具合を見えるようにする。同じ仕掛けは、あなたの手帳やアプリにも持ち込めます。

まずは今日、続けたい習慣をひとつ選び、マスを10個描いて、最初の2個を埋めてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 続けたい習慣を1つ選び、「10回集める」のように数えられる形の目標にする
  2. スタート時点で最初の1〜2回分をあらかじめ埋めておく(初日にまとめて進める)
  3. 手帳のチェック欄やアプリのスタンプなど、進み具合が一目で見える器を用意する
  4. 埋まったマスは消さず、達成の記録として残す
  5. 1周終えたら、次の台紙もまた数個埋めた状態から始める

出典・参考

  1. Nunes, J. C., & Drèze, X. (2006) The Endowed Progress Effect: How Artificial Advancement Increases Effort. Journal of Consumer Research, 32(4), 504-512.ideas.repec.org
  2. Harkin, B., et al. (2016) Does Monitoring Goal Progress Promote Goal Attainment? A Meta-Analysis of the Experimental Evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198-229.(全文: White Rose Research Online)eprints.whiterose.ac.uk

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。