例題は1つより2つを比べて覚える——初めての問題への応用力が2倍以上に
Learning / Research Digest

例題は1つより2つを比べて覚える——初めての問題への応用力が2倍以上に

資格の例題や仕事のテンプレートを1つずつ読んで「なるほど」で終わっていませんか。128人の大学生を対象にした実験では、2つの例を比べて読んだ人は48%が初めて見る問題に応用できましたが、1つずつ読んだ人は19%にとどまりました。比べて覚える手順を、研究の限界も添えてまとめました。

資格試験の前日、過去問を1問解いて模範解答を読み、「なるほど」とチェックを付けて次のページへ進む。そんな夜を過ごしていませんか。

ところが本番で、数字や状況設定が変わった初めての問題が出ると、急に手が止まります。

ある実験では、例を2つ並べて「共通点」を比べた人だけが、初めての場面でも使えるようになりました。1つずつ読んだ人との差は2倍以上です。

比べ方の手順を、研究の中身とあわせて紹介します。

例を「比べた」人だけが、初めての問題に使えた

ノースウェスタン大学のゲントナーらは2003年、128人の大学生を対象に交渉の実験を行いました。

参加者は全員、同じ2つの交渉事例(たとえば「オレンジを取り合う姉妹の話」)を読みます。違うのは読み方だけです。

半分の参加者は、2つの事例を並べて「共通点は何か」を書き出す指示を受けました。残り半分は、1つずつ別々に読んで感想を書く指示でした。

そのあと全員に、表面的には全く違う初めての交渉問題を渡し、解決策を考えてもらいました。

結果は、比べて読んだ人の48%が、事例と同じ考え方を初めての問題に使えました。一方、別々に読んだ人は19%にとどまりました。

比べて読んだ人は、事例の中身を言葉で説明させても42%が原則を正確に言えました。別々に読んだ人は13%です。

2つのパネルで例の読み方を比べた図。左『①1つずつ読む』は、例1と例2の間に破線で『つながりなし』と示され、下に初めての問題への応用を表す薄い箱に『?』マークがある。使えた人の割合は19%で、短い灰色のバーで示される。右『②並べて比べる』は、例1と例2の間がオレンジの線で結ばれ『共通点は?』と問いかけがあり、下にオレンジ色の『初めての問題』の箱にチェックマークがある。使えた人の割合は48%で、右パネルのバーは左パネルより長い。左下に『比べていないので、型が見えないまま』、右下に『同じところが型になり、初めての問題にも使えた』という注記がある
図1: 例を並べて比べた人だけ、初めての問題に応用できた(当サイト作成、Gentner et al., 2003 のデータをもとに構成)

図の右のように、2つの例を並べて共通点を探すと、それが「型」として抜き出され、初めての問題にも当てはめやすくなります。

別々に読むだけでは、事例どうしが頭の中でつながらないまま終わりやすいのです。

この実験に加わったゲントナーは2013年、別の共同研究者と行った実験でも同じ現象を確かめています。100人の大学生に、抽象的な図形の分類ルールを教える実験です。

ペアで見比べながら分類を学んだ人(50人)は、単体で1つずつ見て学んだ人(50人)より成績が良い結果でした。初めて見る図形の分類でも、正答率は72%対59%でした。

さらに、元の課題をきちんと理解できていた人に限ると、全く別のジャンルの図形に応用する課題でも、比べて学んだ人のほうが高い成績でした(78%対65%)。

ここで大事な注意点があります。

この2つの研究は、大学生を対象にした実験室での課題です。交渉の実験は文章題、分類の実験は抽象的な図形が題材で、日常の勉強や仕事とは条件が違います。

また、分類学習の実験では、参加者全体で平均すると別ジャンルへの応用に差ははっきりしませんでした。

差がはっきり出たのは、「元の内容をきちんと理解できた人」に絞ったときだけです。

比べるだけで自動的に伸びるわけではなく、元の例をある程度理解していることが前提になりそうです。

とはいえ、机の上の文章題だけの話でもありません。

同じ研究チームは1999年、経営を学ぶ大学院生どうしが実際に顔を合わせて交渉する実験も行っています。

ここでも、事前に2つの事例を比べた人は、別々に読んだ人より3倍近く多く、学んだ戦略を本番の交渉に持ち込めました。

紙の上の課題でも、人が向き合う本番でも、同じ傾向が出ています。

資格の例題や仕事のテンプレートに置きかえる

場面をもう少し具体的にします。

資格試験の勉強では、こんな繰り返しになりがちです。平日の夜30分で過去問を1問解き、模範解答を読んで「なるほど」とノートを閉じる。これだと、数字や状況設定が変わった初見の問題に当たったとき、手がかりを思い出せません。

仕事のテンプレートにも同じ落とし穴があります。月曜の朝、前回通った提案書のファイルを開き、商品名と数字だけ書き換えて次の提案書を仕上げる。これは真似であって、型を取り出す作業にはなっていません。

比較が効くのは、1つの例だけでは「たまたまそうなっている部分(表面)」と「毎回変わらない部分(構造)」の区別がつかないからです。2つ目の例を並べて初めて、数字や状況が変わっても消えない共通の骨組みが浮かび上がります。

過去問なら、骨組みは出題形式や数値ではなく「解く手順」です。提案書なら、骨組みは商材名や相手企業ではなく「結論→根拠→行動を促す一文、という並び」です。個人開発で似た事例を参考にするときも、機能の見た目ではなく「どの条件で有料化に踏み切ったか」のような意思決定の構造が骨組みにあたります。

いずれも、比べる前に「1つの例をちゃんと理解する」ステップは省けません。

今日から試す4ステップ

  1. 新しい概念やスキルを覚えるとき、似た例を最低2つ用意する(教科書の類題2問、参考にする実例2つなど)
  2. 2つを並べて置き、「共通しているのはどこか」と「表面だけの違いはどこか」を3行以内で書き出す。目安は5分
  3. 書き出した共通点を、初めての問題や自分の場面に当てはめてみる
  4. 1つの例だけを読んで「わかったつもり」で終わらせない。2つ目が用意できないときは、過去に似た経験がなかったか思い出して比べる

ステップ2で書くメモは、たとえば資格試験の類題ならこうなります。

  • 問題A: 原価1,200円の商品に30%の利益を乗せた売価を求める
  • 問題B: 元本50万円に年利4%の単利で1年後の利息を求める
  • 共通点: どちらも「基準になる数字 × 割合」を計算している
  • 表面の違い: 商品の原価か、お金の元本か。呼び方が違うだけ

数字や場面が変わっても、この「共通点」の行だけが、初めての問題にそのまま持ち越せます。

例が1つしかない教材でも、応用は諦めなくて大丈夫です。過去に似た場面を経験していれば、それを2つ目の例として思い出し、並べて共通点を探すだけで同じ効果が狙えます。

例を先に1つずつ理解してから比べる進め方は、例題を読んでから解く勉強法とも相性が良い組み合わせです。学び方そのものを鍛える発想は、学びの柱でまとめています。

まずは次に何か新しいことを覚えるとき、似た例を2つ並べて「共通点」を3行書き出すところから試してください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 新しい概念やスキルを覚えるときは、例を最低2つ用意する
  2. 2つを並べて『共通しているのはどこか』を自分の言葉で書き出す
  3. 書き出した共通点を、初めての問題や自分の場面に当てはめてみる
  4. 1つの例だけを読んで『わかったつもり』で終わらせない

出典・参考

  1. Gentner, D., Loewenstein, J., & Thompson, L. (2003). Learning and Transfer: A General Role for Analogical Encoding. Journal of Educational Psychology, 95(2), 393-408.groups.psych.northwestern.edu
  2. Kurtz, K. J., Boukrina, O., & Gentner, D. (2013). Comparison Promotes Learning and Transfer of Relational Categories. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 39(4), 1303-1310.groups.psych.northwestern.edu
  3. Loewenstein, J., Thompson, L., & Gentner, D. (1999). Analogical Encoding Facilitates Knowledge Transfer in Negotiation. Psychonomic Bulletin & Review, 6(4), 586-597.groups.psych.northwestern.edu

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。