覚えたい要点だけ色を変える——「全部にマーカー」が記憶に残らない理由
Learning / Research Digest

覚えたい要点だけ色を変える——「全部にマーカー」が記憶に残らない理由

教科書もノートも全部にマーカーを引くと、かえって何も残らない。リストの中で1つだけ違う項目が際立って記憶に残る「フォン・レストルフ効果」です。覚えたい要点だけ見た目を変えて周囲から浮かせる。研究の中身と、今日試せる手順をまとめました。

覚えたい所に、片っぱしから蛍光ペンを引く。

気づけばノートも教科書もカラフルに染まっているのに、試験のときに肝心のところが出てこない。

これは、やる気や記憶力の問題ではありません。全部を目立たせたせいで、肝心の「違い」を自分で消してしまっただけです。

リストの中で1つだけ違うものは、よく記憶に残る。古くから知られた「フォン・レストルフ効果(孤立効果)」です。

リストの中で「1つだけ違う」ものは際立つ

ドイツの心理学者フォン・レストルフが、1933年に報告した現象です。

似たものが並ぶリストに、1つだけ種類の違う項目をまぜる。すると、その1つだけが飛び抜けてよく思い出せる。これを孤立効果、発見者の名から「フォン・レストルフ効果」と呼びます。

ここで誤解されやすいのが、「派手だから目立って残る」という説明です。

記憶研究者のハントは、1995年のレビュー論文でこの効果を整理し、フォン・レストルフの元の実験がそんな単純な話ではなかったと指摘しました。

ハントによれば、フォン・レストルフ自身が示したのはこうです。見た目の派手さ——知覚的な目立ち——は、この効果に必ずしも必要ではない。

効くのは、派手さそのものではありません。周りの項目が互いに似ているという背景があって、その中で1つだけが「違う」という関係です。

言いかえると、際立ちは項目単体の性質ではなく、周囲との相対的な違いから生まれます。周りがバラバラなら、1つの違いは埋もれます。

左右2つのパネルで、リストの項目の目立たせ方を比べた図。左『覚えたい1つだけ変える』は、薄いグレーで統一された6つの項目のうち、中ほどの1つだけがオレンジ色に塗られて『要点』として際立っている。下に『違いがある→際立って残る』とある。右『全部を目立たせる』は、6つの項目すべてがオレンジ色に塗られていて、どれも際立たない。下に『違いが消える→どれも埋もれる』とある。全体の注記として、際立ちは目立たせた数ではなく周りとの違いから生まれる、と示している
図1: 際立つのは「1つだけ違う」とき。全部を目立たせると違いが消える(当サイト作成)

図の右のように、全部を目立たせると、際立ちの元になる「違い」がなくなります。

「見た目を変える」は、条件つきで効く

もう1つ、新しめの検証を見ておきます。

シュミットらは2016年に、フォン・レストルフの初期の実験に近い形で追試を行い、3つの実験を報告しました。

手続きはこうです。単語のリストを見せるあいだ、参加者は「数を逆に数えながら見る(気が散る条件)」か「静かに黙読する」かに分かれます。

そのうえで、色や書体など見た目が違う項目(物理的な孤立)と、意味のカテゴリだけが違う項目(概念的な孤立)を比べました。

結果はきれいに割れました。

見た目が違う項目は、気が散る条件でも黙読の条件でも、ふつうの項目よりよく思い出せました。

一方、意味だけが違う項目は、黙って読めているときにしか効きませんでした。

さらに、意味の違いをリストの前のほうに置くと、気が散る条件では効きませんでした。それどころか、かえって思い出しにくくなった、とも報告されています。

ここから言えるのは、色・書体・レイアウトのような「見た目の違い」は比較的たのもしい、ということです。注意が散っていても効きやすい。

念のため補足します。これらは単語リストを使った実験室の研究で、教科書やノートで長時間勉強する場面そのものを測ったわけではありません。効果の出方は、置く位置や集中の度合いで変わります。「見た目を1つだけ変えると残りやすい傾向がある」という目安として受け取るのが妥当です。

今日のノートで試す3ステップ

やることは、増やすことではなく「減らす」ことです。

  1. 1ページで本当に覚えたい要点を、2〜3個までに絞る
  2. その要点だけ、色・太字・囲みで見た目を変える。ほかは何もしない
  3. ページ全体を蛍光ペンで塗らない。塗るほど「違い」は消える

会社員なら、会議資料の中で判断の分かれ目になる1行だけ、囲みを付ける。ほかの行はそろえておきます。

学生なら、1ページにマーカーを引くのは要点2〜3個まで。全部引きたくなったら、それは「何が大事か、まだ決めていない」サインです。

見た目を変える先は、色だけではありません。研究が試したのは色や書体ですが、原理は「周りとの違い」です。

だから声にも応用が利きます。口頭で説明するとき、いちばん伝えたい一言だけ、間を空けて言い方を変える。そこだけ「周りと違う」を作れます。

そもそもハイライトの効き目については、ハイライト勉強法の落とし穴でも別の角度から扱っています。学び方そのものを鍛える発想は、学びの柱でまとめています。

まずは次のノート1ページで、マーカーを要点1つだけに減らしてみてください。塗る量を減らすほど、その1つが立ち上がってきます。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 1ページで覚えたい要点を2〜3個までに絞る
  2. その要点だけ、色・太字・囲みで見た目を変える
  3. ページ全体をマーカーで塗らない(塗るほど違いが消える)
  4. 口頭で伝えるときは、大事な一言だけ間を空けて言い方を変える

出典・参考

  1. Hunt, R. R. (1995) The subtlety of distinctiveness: What von Restorff really did. Psychonomic Bulletin & Review, 2, 105-112.link.springer.com
  2. Schmidt, S. R., & Schmidt, C. R. (2016) Revisiting von Restorff's early isolation effect. Memory & Cognition, 45(2), 194-207.link.springer.com

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。