わざと読みにくいフォントで勉強すると記憶に残る?——延びるのは時間だけ
Learning / Research Digest

わざと読みにくいフォントで勉強すると記憶に残る?——延びるのは時間だけ

暗記カードや教科書を、わざと読みにくい書体にすると記憶に残る——そんな勉強のコツを聞いたことはないでしょうか。もとの実験では効果ありと出ましたが、25研究・3,135人分の分析では記憶も応用力もほぼ変わらず、延びたのは勉強時間だけでした。何が本当に効くのかをまとめました。

単語帳アプリの書体を、わざと読みにくい細いフォントに変えてみる。教科書のキーワードを、あえて崩した字で書き写す。

「スラスラ読めるより、少し引っかかるくらいのほうが記憶に残るらしい」。そう聞いて、試したくなったことはないでしょうか。

もっともらしく聞こえます。実際、そう報告した実験もありました。

でも、その一手間で本当に覚えられるのかは、あとから何度も確かめ直されています。増えたのは、おもに勉強にかかる時間のほうでした。

効果ありの実験から、効果なしの分析へ

この説のもとになったのは、2011年の実験です。

ディーマンド=ヤウマンらは、文章をわざと読みにくい書体で見せました。薄い字や崩した字です。すると、あとのテストの成績が少し上がった、と報告しました

「読みにくい見た目が、かえって脳を働かせる」。この意外さが受けて、勉強のコツとして広まっていきました。

ところが、同じやり方を試した研究では、成績が上がりませんでした。

ルンマーらは2016年、条件を変えて3回実験しています。画面で1回、紙で2回。どれも差は出ませんでした

この食い違いに決着をつけるため、2018年に大きな見直しが行われます。

シエらが、それまでの25の研究・のべ3,135人分のデータをまとめて分析しました

思い出せた量は、読みやすい場合とほとんど変わりませんでした。差の大きさを表す数字(効果量d)で、ほぼ0のd=−0.01です。

学んだ知識を別の問題に使う応用力も、横ばいでした(d=0.03)。

一方で、はっきり動いた数字が2つあります。読みにくい書体で学んだ人は「覚えた気がしない」と感じ(d=−0.43)、読み終えるまでの時間が長くかかっていました(d=0.52)。

記憶は変わらないまま、手応えが下がり、時間だけ延びた。それがデータの示す姿です。

下の図が、そのメタ分析でわかった4つの数字です。

読みにくい書体で勉強した場合の効果を、メタ分析25研究・3,135人分でまとめた棒グラフ。縦軸は効果量d(0が差なし)。思い出せた量はd=−0.01、学んだ知識を使う応用力はd=+0.03で、どちらもゼロ付近=ほとんど変わらない。一方、覚えた実感(自己評価)はd=−0.43で下がり、勉強にかかった時間はd=+0.52で長くなった。記憶は変わらないまま、実感が下がり時間だけ延びたことを示している。
図1: 記憶と応用はゼロ付近、動いたのは時間と実感(当サイト作成)

見てのとおり、記憶と応用はゼロのすぐそば。大きく動いたのは、時間の長さと「覚えた実感」のほうでした。

ここで、ことわりを入れます。これらの研究は、その多くが英語圏の大学生や高校生を対象にしたものです。

日本語の書体そのものを調べたわけではありません。「読みにくい字のほうが頭に残る」という言い伝えは日本でも聞きますが、そのまま当てはめて断定はできない、という前提で読んでください。

手をかけた「気」になっていないか

勉強法の工夫は、つい「手数」に向かいがちです。

単語帳アプリの書体を見にくいものに変える。教科書を何色ものマーカーで塗る。ノートを付箋やイラストで飾って、まとめを作り直す。

どれも「勉強した」という手応えは、しっかり残ります。だから、やめにくい。

でも先ほどの数字が示すのは、手をかけた実感と、実際に覚えた量が、必ずしもそろわないことでした。読みにくい書体では、むしろ手応えのほうが下がっています(d=−0.43)。

「覚えた気がしない」ので不安になり、同じところに時間を注ぎ込む。労力は増えるのに、思い出せる量は動かない。この組み合わせが、いちばん消耗します。

マーカーや飾りつけも、似た「やった感」を生みます。手をかけたぶん進んだ気になりますが、それが記憶になっているかは、別に確かめたほうが安全です。

スラスラ読める手応えにだまされる仕組みはわかったつもりの正体に、手間のわりに効かない勉強法の全体像は効果が薄い学習法の一覧にまとめています。

今日からできる、手間のかけ直し

道具は増やしません。工夫にかけていた時間を、「思い出す」ことに回すだけです。

読んだら本を閉じて、何も見ずに思い出す。出てこないところが、まだ覚えていないところです。手順にすると、こうなります。

  1. 教材の書体や手書きは、読みやすさを優先する
  2. 見た目を凝る時間は、思い出す練習に回す
  3. ひと区切り読んだら本を閉じ、何も見ずに書き出す
  4. 同じ範囲を数日おいて、もう一度思い出す
  5. 思い出せたかどうかで、覚えた度合いを確かめる

「思い出す」を軸にした勉強法は本を閉じて思い出す勉強法に、復習の間隔のあけ方は間隔をあけた復習が参考になります。

「勉強した感」に、だまされない

最後に、ひとつだけ。

「たくさんやった」という手応えは、覚えた量とは別物です。手をかけたぶん進んだ気になりますが、頭に残っているかは、それとは切り離して確かめたほうが確実です。

確かめ方は、さきほどの一手間だけ。読んだら閉じて、思い出せるかどうか。出てくれば身についています。出てこなければ、そこがまだのところです。

学び方そのものを育てる話は、学びの柱でもまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 教材の書体や手書きは、読みやすさを優先する
  2. 見た目を凝る時間は、思い出す練習に回す
  3. ひと区切り読んだら本を閉じ、何も見ずに書き出す
  4. 同じ範囲を数日おいて、もう一度思い出す
  5. 思い出せたかどうかで、覚えた度合いを確かめる

出典・参考

  1. Xie, H., Zhou, Z., & Liu, Q. (2018) Null Effects of Perceptual Disfluency on Learning Outcomes in a Text-Based Educational Context: A Meta-Analysis. Educational Psychology Review, 30(3), 745-771.eric.ed.gov
  2. Diemand-Yauman, C., Oppenheimer, D. M., & Vaughan, E. B. (2011) Fortune favors the bold (and the italicized): Effects of disfluency on educational outcomes. Cognition, 118(1), 111-115.doi.org
  3. Rummer, R., Schweppe, J., & Schwede, A. (2016) Fortune is fickle: null-effects of disfluency on learning outcomes. Metacognition and Learning, 11(1), 57-70.eric.ed.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。