言葉と図をセットで覚えると記憶に残りやすい——文字と映像は別の回路で処理される
テキストを何度読んでも数日で内容がぼやける。それは文字だけで覚えようとしているからかもしれません。図を足した学びを39本の実験でまとめた分析では、読解の成績が中くらいの強さで上がる傾向が見られました。言葉と図をセットにする覚え方を、今日から試せる手順にまとめました。
参考書をひとしきり読んで、ページを閉じる。さっき目で追ったはずの内容が、もう輪郭だけになっています。
太字も、蛍光ペンを引いた一文も、数日たてば霧の向こう。
試験の直前も同じでした。赤シートで隠して覚えた用語が、本番の問題用紙を前にすると出てきません。
根気が足りないわけではありません。足りていないのは、覚え方の入り口かもしれません。
文字だけで覚えようとする。そこに一つ、抜けやすさの原因があります。
図を足すと、読解の成績が上がりやすい
本文に図やイラストを足すと、理解や記憶は変わるのか。これを調べた実験研究を集めた分析があります。
グオらのグループが2020年に発表したメタ分析です。
1985年から2018年までの実験研究39本を集め、図の効果をまとめています。
結果は、図を足すと読解の成績が上がる傾向、というものでした。効果の大きさは中くらい(g=0.39)と報告されています。
ここで大事なのは、これが多くの研究を平均した傾向だという点です。効かない場面もあり、「そういう傾向がある」くらいに受け取るのが妥当です。ここで言い切ってしまうと、行き過ぎになります。
もう一つ、条件も見えています。学年による差ははっきりせず、選択式より、自分の言葉で答える問題のほうで効きやすい傾向でした。
なぜ言葉と図はセットで効くのか
背景には、二重符号化理論という考え方があります。心理学者アラン・パイビオが示したものです。
脳は、言葉を扱う回路と、映像を扱う回路を別々に持っている。同じ内容を両方に残すと、思い出す手がかりが二つになる、という見方です。
リチャード・メイヤーのマルチメディア学習も、これに重なります。言葉と絵をあわせた教材のほうが、言葉だけより学びやすい、という原則です。
下の図が、言葉だけの場合と、言葉と図をセットにした場合の違いです。
見てのとおり、違いは記憶への入り口が一本か、二本かです。
効く図と、効かない図を見分ける
図なら何でもいいわけではありません。マルチメディア学習の研究でも、飾りの挿絵より、しくみや関係を示す図のほうが学びを助けやすいと指摘されています。
では、その二つをどう見分けるか。この記事の基準はこうです。「その図を、指で一筋の道として追えるか」。
追える図は、箱と箱が矢印でつながり、向きや位置に意味があります。「これがこうなるから、次はこう」と指でたどれる。これが記憶の二本目になります。
追えない図は、眺めて終わりです。かわいいアイコンや写真は、印象には残っても、思い出す手がかりにはなりにくい。
だから自分で描くときも、上手さは要りません。見るのは「指でたどれる筋道になっているか」だけです。
ノートに1枚の図を足すだけ
資格の勉強をしている会社員を思い浮かべてください。制度の条文を、そのまま言葉で追っている。
ここで一度止まり、条文どうしの関係を箱と矢印で1枚に描いてみます。「この条件だと、こう扱われる」を線でつなぐだけです。
新しい技術を学ぶ個人開発者なら、データがどこを通ってどう変わるかを、四角と矢印で描く。歴史や生物を覚える学生なら、教科書の図を眺めて終わらせず、自分でもう一度描き直す。
共通するのは、自分の手でしくみを図にすることです。きれいな絵を眺めるだけでは、この痕跡は残りません。
手を動かして描くと、言葉と映像の両方に痕跡が残ります。それが、後で思い出す二本目の手がかりになります。
ほかの覚え方と、役割で分ける
覚え方は、ねらう場所で分けると迷いません。図を足す二重符号化は、記憶への入り口を増やすやり方です。
本を閉じて思い出して書くのも、読んだ内容に「なぜ?」と問い直すのも、入れた記憶を取り出す練習。いわば出口を鍛えます。間隔をあけた復習が決めるのは、それをいつやるかというタイミングです。
入り口・出口・タイミング。ねらう層が違うので、三つは競合せず、積み重ねられます。
同じ「図」でも、ゼロから絵に描いて覚えるのとは役割が違います。あちらは、描く手の動きごと記憶に残す話。ここでの図は、関係やしくみを図解して、言葉に映像の回路をもう一本そえるのがねらいです。
重ねると強くなります。描いた図を伏せ、もう一度自分で再現する。思い出す練習と映像の回路が、同時に働きます。
矢印の横に「なぜこの向きか」を書き添えれば、言葉の回路も一緒に動きます。
先ほどのメタ分析でも、選んで答える問題より、自分の言葉で答える問題のほうで図が効きやすい傾向でした。思い出しながら描く使い方は、この結果とかみ合います。
効きどころは、覚える対象が関係や流れを持つときです。資格勉強の制度や条文、仕事で渡される長い仕様書や議事録。要素のつながりが多いものほど、箱と矢印にすると頭に残ります。
語学の単語のような、つながりの薄い暗記は、思い出す練習が主役です。それでも、単語の意味を絵やイメージに置き換えれば、映像の回路に乗せられます。
抽象度が高くて図にしづらい概念もあります。無理に絵にすると、かえって時間ばかりかかります。
そういうときは図をあきらめ、言い換えや人への説明で言葉の回路を厚くすると決めておく。図にする効きどころを選ぶのも、使いこなしのうちです。
今日から試す「言葉+1枚の図」
やり方はかんたんです。上手な絵はいりません。丸と矢印で十分です。
- 覚えたい1項目を選ぶ(所要10秒)
- 本を閉じ、要点を言葉で一言メモする(30秒)
- その横に、関係やしくみを箱と矢印で描く(1〜2分)
- 描けなかった所に印をつけ、そこを本文で確かめる
コツは、詰まる所を探すことです。すらすら描ける所は、もう頭に入っています。図にできない箇所こそ、分かったつもりだった穴です。
全項目でやる必要はありません。今日は1つだけでも、言葉一本だった記憶に、二本目の道ができます。
覚えた内容を長く残す復習のとり方は、間隔をあけた復習にまとめました。手で書くこと自体の効き方は、手書きノートで扱っています。学び方を育てる話は、学びの柱でも続けています。
まずは今日学んだ1項目に、丸と矢印の図を1枚添えるところから始めてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 覚えたい1項目を、言葉だけでなく箱と矢印でも描いてみる
- 飾りの絵ではなく、関係やしくみを表す図にする
- 教科書の図は指で追い、本文と照らし合わせる
- まずは今日の1項目だけ、言葉と図の両方でノートに残す
出典・参考
- Guo, D., McTigue, E. M., Matthews, S. D., & Zimmer, W. (2020) Do You Get the Picture? A Meta-Analysis of the Effect of Graphics on Reading Comprehension. AERA Open, 6(1).eric.ed.gov
- Adkins, M. et al. Using commonly-available technologies to create online multimedia lessons through the application of the Cognitive Theory of Multimedia Learning. (PMC9762622)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Dual Coding Theory (Allan Paivio) — InstructionalDesign.orginstructionaldesign.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。