『かわいい』写真を見ると手先が丁寧に?——細かい作業の前に、子犬や子猫を眺める実験
数字の入力や見直しで、疲れるとミスが増える。実験では、子犬や子猫の写真を見たあと、細かい作業の成績が伸びました。ただし再現しなかった研究もあります。どこまで期待できるかと、今日の仕事での試し方をまとめます。
先に結論
細かい作業の前に、子犬や子猫の写真を1分半ほど眺めてみる。
それだけで作業が丁寧になった、という実験結果が、アメリカと日本の研究で報告されています。日本の実験では、ピンセットで小さな部品をつまみ出すゲームの成功回数が、4割ほど増えました。
ただし、別の研究では効果が出ませんでした。どんな作業にも効く、とまでは言えません。
お金も手間もほとんどかからないので、数字の見直しの前などに試してみて、効くと感じたら続ける。そのくらいの気持ちで使うのがいいと思います。
最初の実験:アメリカ(2009年)
この効果を最初に調べたのは、アメリカの心理学者シャーマンらの研究チームです。
使ったのは「オペレーション」というボードゲームです。患者の絵の体に小さな穴があいていて、そこからピンセットで部品を取り出します。ピンセットが穴のふちに触れるとブザーが鳴って失敗、という仕組みです。
参加者はこのゲームをやったあと、休憩中に写真を見て、もう一度ゲームをやりました。見た写真は2種類です。
- とてもかわいい子犬・子猫
- 少しかわいい程度の成犬・成猫
2つの実験で、子犬・子猫を見た人のほうが、ゲームの成績がよくなりました。
研究チームは、人がかわいさに反応するのは、壊れやすい幼い存在を世話するための心の仕組みなのかもしれない、と考えています。
日本の実験:作業を変えて3回試す
2012年には、広島大学の入戸野宏らの研究チームが、日本の大学生132人を対象に3つの実験をしました。論文のタイトルは「The Power of Kawaii(かわいいの力)」です。
実験1:ピンセットのゲーム(大学生48人)
使ったのは、アメリカの「オペレーション」によく似たゲームです。ピンセットで穴から小さな部品を取り出し、ふちに触れずに取り出せたら成功です。
学生はこのゲームを1回やり、休憩をはさんで、もう1回やります。休憩中には7枚の写真を見て、好きな順に並べてもらいました。写真は、半分の人が子犬・子猫、残り半分の人が成犬・成猫です。
1回目と比べて、2回目に成功した数がどれだけ増えたかは、次のとおりです。
- 子犬・子猫を見た人:約44%増
- 成犬・成猫を見た人:約12%増
2回目はどちらのグループもゲームに慣れているので、多少は伸びます。見るべきなのは、2つのグループの差です。
もうひとつ違いがありました。子犬・子猫を見た人は、作業にかける時間も1割ほど長くなっていたのです。
成功が増えたうえに、時間もかけている。研究チームはこの2つの結果から、急がず慎重に手を動かすようになったと見ています。
実験2:数字さがし(大学生48人)
2つ目の実験では、手先を使わない作業に変えました。
40個の数字が並んだ表から、指定された数字がいくつあるかを数えて答える作業です。請求書の数字を一つずつ目で追い、見落としがないか確かめるのに近い作業です。
写真は3種類に分けました。
- 子犬・子猫
- 成犬・成猫
- おいしそうな料理(ステーキ、パスタ、寿司など)
正解の数がどれだけ増えたかは、次のとおりです。
- 子犬・子猫:約16%増
- 成犬・成猫:約1%増
- 料理:約1%増
料理の写真も、見た人からとても気持ちのいい写真だと評価されていました。それでも成績はほとんど変わっていません。ですから、「いい気分になったから成績が上がった」という単純な話ではなさそうです。
また、この作業では、子犬・子猫を見た人は答えるペースも速くなっていました。実験1では時間をかけるようになっていたのに、ここでは速くなっている。正確になった理由は、ゆっくりやったことだけではなさそうです。
実験3:全体より細部に目が行く(大学生36人)
3つ目の実験では、小さな文字をたくさん並べて、大きな文字の形を作った図を使いました。たとえば、小さな「H」を並べて大きな「L」の形にしたような図です。この図を見せて、決められた文字があるかどうかを答えてもらいます。
こうした図では、多くの人は大きな形のほうに先に気づき、小さな文字に気づくのは少し遅れます。心理学ではよく知られた傾向です。
子犬・子猫の写真を見たあとは、この「大きな形に先に気づく」傾向が弱まる様子が見られました。小さな文字のほうにも、目が向きやすくなったということです。
研究チームはここから、かわいいものを見ると注意の向く範囲が狭くなり、細かいところに目が行きやすくなる、と考えています。
なぜそうなるのかは、まだ決まっていない
では、なぜかわいいものを見るとこうなるのか。研究チームは2つの説を並べて挙げていて、どちらが正しいかは決めていません。
- かわいいと感じたときの「近づきたい」という前向きな気持ちが、注意の範囲を狭める
- 幼いものを世話したいという気持ちが働き、慎重になる(シャーマンらの考え方に近い)
いま分かっているのは、かわいい写真を見たあとに作業が丁寧になり、細部に目が向きやすくなった、という結果までです。
効果が出なかった研究もある(2022年)
2022年、イスラエルの研究者ジヴとフォックスが、同じように写真を見せても作業の成績は変わらなかった、という研究を発表しました。
参加者は、オンラインで集めた98人です。パソコンで、反応の速さを測る作業を2種類やってもらいました。画面に出た図形や文字を見て、決められたキーをできるだけ速く押す作業です。そのうち1つは、途中で答え方のルールが切り替わる作業でした。
1回目と2回目の作業の間に、子犬・子猫か、成犬・成猫の写真7枚を見て並べてもらっています。
2回目の成績は、どちらのグループも同じくらい上がっていました。同じ作業を2回やれば慣れるので、その分だけ上がったということです。写真の種類による差はありませんでした。
研究チームは、効果が出なかった理由として、こんな可能性を挙げています。
- この研究の作業は、手先の慎重さではなく、すばやく反応する力を測るものだった
- 見た人が感じたかわいさに、子犬・子猫と成犬・成猫で思ったほど差がつかなかった。かわいさの差が小さければ、写真の違いによる効果も出にくくなる
- もともと正解率が9割前後と高く、それ以上伸びる余地が少なかった
全体では差がありませんでしたが、細かい結果がひとつあります。ペットを飼っている人だけを取り出して見ると、ルールが切り替わる作業に限って、子犬・子猫を見たあとに反応が速くなっていました。
ただし、これは最初から調べる予定だった比較ではなく、後から分けて見たものです。探索的な分析なので、偶然の可能性を否定できません。参考程度の話です。
どこまで期待していいか
アメリカ・日本・イスラエルの研究を並べると、こう整理できます。
効果が出やすそうな作業
- ピンセット作業のような、手先を慎重に動かす作業
- 数字を数える、見比べるといった、細部を丁寧に見る作業
効果がはっきりしない作業
- とにかく速く反応することが大事な作業
注意したい点もあります。
- 参加者の数は、どの研究も数十人〜100人ほどです。日本の実験は大学生(48人・48人・36人)、効果が出なかった研究はオンラインで集めた98人でした。会社員が実際の仕事で試した研究はありません。
- 参加者が見た写真は数枚で、日本の実験では時間にして1分半ほどでした。見たあと効果がどのくらい続くかは、どの研究も調べていません。
- 入戸野らの研究チームは、論文の中で「オフィスワークや運転に役立つかもしれない」と書いています。ただ、これは今後の可能性として述べたもので、実際に試した結果ではありません。
ですから、「見れば必ずミスが減る」とは考えないほうがいいでしょう。細かい作業の前に何度か試してみて、自分に効くかどうかを確かめる。そういう使い方をおすすめします。
仕事で試すなら
細かい作業の直前に見る
経費の精算、見積書の数字のチェック、データの入力など、ひとつずつ確認していく作業の前がおすすめです。
日本の実験では、7枚の写真を好きな順に並べ替えてもらい、それに1分半ほどかかっていました。これを目安に、スマホで数枚の写真をじっくり見てから作業に入ってみてください。
写真は幼い動物を選ぶ
研究で効果が出たのは、子犬・子猫の写真です。同じ犬や猫でも、成犬・成猫では伸びが小さくなりました。実験1では約12%(子犬・子猫は約44%)、実験2では約1%(子犬・子猫は約16%)です。
料理の写真もほとんど効果がありませんでした。自分が好きなものなら何でもいい、というわけではなさそうです。研究で使われたのに近い、子犬や子猫のような幼い動物の写真を選ぶのが無難です。
あらかじめ何枚かお気に入りの写真をスマホのアルバムにまとめておくと、すぐ見られます。
SNSで探し始めない
見るたびにSNSで写真を探していると、気づけば10分、20分たっていた、ということになりがちです。
実験で見ていたのも、決まった数枚だけでした。見る写真はアルバムに決めておき、見終わったらすぐ作業に戻りましょう。
自分に効くか確かめる
効果が出なかった研究もあるので、自分に合うかどうかは試してみないと分かりません。
たとえば1〜2週間、見直しの前に写真を見る日と見ない日を作ります。そして、その日の作業で後から見つかったミスの数をメモしておき、見た日と見ない日で比べます。
差を感じなければ、無理に続ける必要はありません。
あわせて読みたい
作業の合間に緑を眺める休憩については、次の記事で紹介しています。
集中・仕事の効率化の記事はこちらにまとめています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- スマホに、自分が『かわいい』と思う子犬・子猫の写真を数枚ためておく
- 数字チェックや見直しなど、正確さがほしい作業の直前に1分半ほど眺める
- 眺めたらすぐ作業に入る。長続きする効果とは言えないので『直前』がコツ
- アイデアを広げる作業には使わない。細かく詰める作業の日に使い分ける
- 効かなくても気にしない。再現しなかった研究もあるので、数回試して判断する
出典・参考
- Nittono, H., Fukushima, M., Yano, A., & Moriya, H. (2012). The Power of Kawaii: Viewing Cute Images Promotes a Careful Behavior and Narrows Attentional Focus. PLoS ONE, 7(9), e46362.(日本の大学生132人・3実験)journals.plos.org
- Sherman, G. D., Haidt, J., & Coan, J. A. (2009). Viewing cute images increases behavioral carefulness. Emotion, 9(2), 282-286.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Ziv, G., & Fox, O. (2022). Viewing Cute Images Does Not Affect Performance of Computerized Reaction Time Tasks. Frontiers in Psychology.(98人・差は出なかった研究)frontiersin.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。