ノイズキャンセリングで成績は変わらなかった——下がったのは「わずらわしさ」
Focus / Research Digest

ノイズキャンセリングで成績は変わらなかった——下がったのは「わずらわしさ」

オープンオフィスでノイキャンを着けると集中できる気がする。でも2本の小規模な研究では、課題の成績に差は見られませんでした。変化があったのは、話し声のわずらわしさとプライバシー感。期待の置き方と使いどころをまとめました。

午後、締め切り前の資料づくりに集中したい。なのに、斜め後ろの雑談や電話の声が、次々と耳に入ってくる。

そんなとき、ノイズキャンセリングのヘッドホン(以下、ノイキャン)を着けると、すっと静かになって集中できる気がする。

でも、その「はかどっている感じ」は、本当に成績にあらわれているのでしょうか。

研究を見ると、答えは少し意外でした。作業の成績に差は出ず、変化があったのは「わずらわしさ」のほうでした。

成績に差は出ず、「うるささ」は下がった

ドイツのフラウンホーファー建築物理研究所のミュラーらが2022年に学術誌 Frontiers in Built Environment で発表した研究があります。

実験室にオープンオフィスの話し声を再現し、参加者に数字を順番どおり覚える課題を出しました。並んだ9個の数字を、そのままの順で思い出す課題です。

条件は「静か」「話し声のみ」「話し声+ノイキャン」などで、2つの実験(それぞれ21人と57人)で比べました。

結果は、ノイキャンの有無で課題の成績にはっきりした差が出ませんでした。この実験では、着けても覚えられる数は増えていません。

一方、主観の受け止めには違いが出ました。ノイキャンを着けたときは、話し声のわずらわしさが下がり、声が遠くに感じられたそうです。プライバシー感(=まわりに聞かれていない感覚)や、音環境の心地よさも高めでした。

面白いのは、「自分は集中しやすい」という感覚も高まっていた点です。感覚と実際の成績は、必ずしも並びませんでした。

著者らは、サンプルが小さいこと、実験室での結果であること、数字を覚える課題が実際のオフィス仕事のすべてを表すわけではないことを挙げ、結果は慎重に読む必要があると述べています。

成績と受け止め方の違いを、下の図にまとめました。

ノイキャンで変わるものと変わらないものを2つのパネルで比べた棒グラフ。左のパネルは課題の成績(客観)で、ノイキャンなしとありの棒がほぼ同じ高さで、成績はほぼ変わらないことを示す。右のパネルはわずらわしさ(主観)で、ノイキャンなしの棒が高くありの棒が大きく低くなっており、わずらわしさがはっきり下がることを示す。下部に、成績は横ばいで、減るのは主観のわずらわしさだと示す
図1: 成績はほぼ同じで、わずらわしさの評価は下がった(当サイト作成)

別の研究でも、成績は動かなかった

もう一つの研究でも、似た傾向がみられました。フィンランドのホンギストらが2024年に学術誌 Building and Environment へ発表したものです。

54人が参加し、数字を順に覚える課題と、少し前に見た情報を覚えたまま、新しい情報と照らし合わせ続ける課題(Nバック)に取り組みました。ヘッドホンなし・ノイキャンあり・マスキング音あり、など5つの音の条件で比べています。

ここでも、ノイキャンの有無で成績に差は見られませんでした。心拍の細かな変動(体のストレスの目安)も、条件によって差はありませんでした。

違いが出たのは主観の部分です。話し声のわずらわしさが最も低かったのは、ノイキャンにマスキング音を足した条件でした。ただし、マスキング音そのものを少しうるさく感じる人もいました。

著者らは、ノイキャンだけを声対策の切り札にせず、部屋そのものの音環境も整えることが大切だと述べています。

職場での使い分け

研究で違いが出たのは、声のわずらわしさや居心地といった受け止めの部分でした。成績ではなく、そちらを目当てに使うのが自然です。

たとえば、隣の雑談が耳につく。電話の声が気になる。画面を見られている気がして落ち着かない。そんな「気疲れ」を薄めたい場面です。

じっくり考える作業では、ヘッドホン一つに頼らないほうが安心です。静かな会議室に移る、集中する時間帯を分ける、といった段取りと組み合わせてみてください。これは研究結果というより、使い方の提案です。

音の選び方は作業で変わります。無音がいいか、少しの環境音がいいかは環境音と集中の記事に、話し声などの割り込みが集中に与えるコストは割り込みのコストの記事にまとめました。

今日からできること

ノイキャンを使う場面を決め直すだけです。

  1. 期待を「成績アップ」でなく「わずらわしさ軽減」に置く
  2. 声や視線が気になる作業では、ノイキャンで話し声を薄める
  3. 深く考える作業は、静かな部屋や集中の時間帯とセットにする
  4. ノイキャンだけに頼らず、席の位置や部屋の音環境も見直す
  5. 効果を感じにくい日は、無理に着け続けず、一度外して比べる

成績ではなく、居心地に期待する

成績が伸びないと感じても、使い方が下手だからとは限りません。今回の2本の研究では、ノイキャンの有無で成績に差は見られませんでした。

一方、ミュラーらの研究では、話し声のわずらわしさが下がり、席まわりが静かに感じられるという結果が出ています。この手ごたえには、価値があります。

集中を段取りで守る工夫は集中の技術にまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 期待を「成績アップ」でなく「わずらわしさ軽減」に置く
  2. 声や視線が気になる作業で、ノイキャンを使って話し声を薄める
  3. 深く考える作業は、静かな部屋や集中の時間帯とセットにする
  4. ノイキャンだけに頼らず、席や部屋の音環境も見直す
  5. 効果を感じにくい日は、一度外して比べてみる

出典・参考

  1. Mueller, B. J., Liebl, A., Herget, N., Kohler, D., & Leistner, P. (2022). Using active noise-cancelling headphones in open-plan offices: No influence on cognitive performance but improvement of perceived privacy and acoustic environment. Frontiers in Built Environment, 8.frontiersin.org
  2. Hongisto, V., Radun, J., Tervahartiala, I-K., Kontinen, V., & Keränen, J. (2024). Do active noise-cancelling headphones influence performance, stress, or experience in office context? Building and Environment.sciencedirect.com

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。