貧乏ゆすりは無理に止めなくていい——動くほど、記憶課題の成績が上がった研究
Focus / Research Digest

貧乏ゆすりは無理に止めなくていい——動くほど、記憶課題の成績が上がった研究

地味で頭を使う作業中、貧乏ゆすりやペン回しが止まらず自分を責めていませんか。ADHDの子どもを対象にした研究では、体の動きが増えるほど記憶課題の成績が上向きました。大人の研究とメタ分析もあわせ、動きを無理に止めない工夫を整理します。

地味な入力作業や、細かい書類の見直し。気づくと、貧乏ゆすりが止まらない。

「じっとして」「集中していない証拠だ」。そう言われた記憶がある人もいるはずです。

落ち着きがないのは、自分の意志が弱いせいだと感じていませんか。

でも、ある研究では、体の動きが増えるほど、記憶を使う課題の成績が良くなっていました。

動くほど、記憶課題の成績が上がった子どもたちの研究

心理学者ダスティン・サーバーらは、2015年にこの現象を調べました。掲載誌は Journal of Abnormal Child Psychology です。

対象は8〜12歳の男子52人。ADHDと診断された29人と、そうでない23人に分かれます。

全員が4回に分けて、声に出さず数字や単語を覚える、地味なワーキングメモリ課題に取り組みました。

研究者は、課題中の体の動きの大きさを観察し、その回ごとの成績と照らし合わせました。

結果は、2つのグループで分かれました。ADHDの子どもたちは、動きが増えた回ほど成績が良くなっていたのです。

基準の水準まで届いたわけではありません。それでも、確かな伸びでした。

一方、ADHDでない子どもたちは逆でした。動きが増えた回のほうが、成績はやや下がっていたのです。

研究者たちはこう読み解きます。ADHDの子どもにとって体を動かすことは、気が散っている証拠ではなく、頭を働かせるための調整かもしれない、と。

ただし対象は52人と少なく、8〜12歳の男子に限られます。あなたやお子さんに同じだけ当てはまるとは限りません。

大人でも、頭を使うほど自然と体は動く

この反応は、子どもだけの話ではありません。

心理学者ケイトリン・フデックらは2014年、大人を対象に同じ問いを調べました。掲載誌は Journal of Attention Disorders です。

対象は、ADHDのある成人20人とない成人15人、合わせて35人。体の動きを客観的に測る機器(アクチグラフ)で、実際の動きを記録しました。

参加者は、何もしない条件と、記憶を使う条件の両方に取り組みます。

結果、両方のグループとも、記憶を使う条件のほうが、体の動きが増えていました。とくにワーキングメモリの一部の働き(情報を一時的に保持し操作する処理)では、ADHDのある人とない人とで、動きの差が大きく出ていました。

つまり、頭を使う場面で体が動くのは、ADHDのある人に限った反応ではありません。程度の差はあれ、誰の脳にも起きている調整だと考えられます。

63件の研究をまとめても、同じ傾向

1つの研究だけでは心もとない、という人のために、もう一つ挟みます。

心理学者マイケル・コフラーらは2016年、63件の研究・参加者合計4,642人をまとめてメタ分析をしました。掲載誌は Clinical Psychology Review です。

分かったのは、頭を使う負荷が高い課題ほど、動きの増え方(効果量)が大きいことです。

負荷が低い課題では0.36、負荷が高い課題では1.14。記憶を使う課題(ワーキングメモリ)に絞ると1.35、実行機能を使う課題全体では1.39まで上がりました。

下の図が、その差です。

63件の研究をまとめたメタ分析の棒グラフ。負荷が低い課題では動きの効果量が0.36、負荷が高い課題では1.14、ワーキングメモリの課題では1.35と、頭を使う負荷が高いほど効果量が大きかったことを示す。
図1: 頭を使う負荷が高いほど、動きの効果量は大きかった(当サイト作成・出典はKofler et al. 2016)

見てのとおり、負荷が上がるほど棒は高くなっています。刺激の少ない静かな環境ほど、この傾向はさらに強く出ました。

研究者たちは、これは「多動性はどんな場面でも出る欠陥」という見方より、「頭に負荷がかかると体を動かして調整する」という見方に合うと結論づけています。

ただしこれは観察研究の積み重ねです。動きが成績を直接良くするという因果関係まで、証明したわけではありません。

日本の生活での使い方——止めるより、静かに動く

会社員なら、経費精算や請求書の突き合わせ。地味で、頭を使う作業です。

学生なら、計算問題や暗記の確認。個人開発者なら、細かいコードの見直し。

こういう場面で足がゆれたりペンが動いたりするのは、サボりの合図ではありません。脳が負荷と付き合っている合図かもしれません。

無理に止めようと力を入れると、その分の意識が「止めること」に取られます。動きを止めるより、静かな動き方に変えるほうが、作業に意識を戻しやすくなります。

今日から試す「静かな動き方」

やることはシンプルです。動きを消すのではなく、迷惑にならない形に変えます。

  1. 体が動いても、まず自分を責めない。頭を使っているサインかもしれないと考え直す
  2. 周りの迷惑にならない静かな動きに変える(机の下で足を軽く動かす、ペンを持つ、姿勢を変える)
  3. 完全に静止しようと力まない。力むこと自体が新しい負荷になる
  4. 動きが急に増えたら、休憩のサインとして扱う
  5. 集中や落ち着きのなさが仕事や生活に大きく響くなら、自己判断せず専門家に相談する

動きが増えた回だけ、いったん短い中断を挟んでみるのも一手です。

貧乏ゆすりは、気合が足りない証拠ではありません。

次に地味な作業で体が動き出したら、止めようとする前に、静かな動き方に変えてみてください。集中を仕組みで守る発想は集中の技術にまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 体が動いても、まず自分を責めない。頭を使っているサインかもしれないと考え直す
  2. 周りの迷惑にならない静かな動きに変える(机の下で足を軽く動かす、ペンを持つ、姿勢を変える)
  3. 完全に静止しようと力まない。力むこと自体が新しい負荷になる
  4. 動きが急に増えたら休憩のサインとして扱い、短い中断を挟む
  5. 集中や落ち着きのなさが仕事や生活に大きく響くなら、自己判断せず専門家に相談する

出典・参考

  1. Sarver, D. E., Rapport, M. D., Kofler, M. J., Raiker, J. S., & Friedman, L. M. (2015) Hyperactivity in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD): Impairing deficit or compensatory behavior? Journal of Abnormal Child Psychology, 43(7), 1219-1232.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Hudec, K. L., Alderson, R. M., Kasper, L. J., & Patros, C. H. (2014) Working memory contributes to elevated motor activity in adults with ADHD: An examination of the role of central executive and storage/rehearsal processes. Journal of Attention Disorders, 18(4), 357-368.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  3. Kofler, M. J., Raiker, J. S., Sarver, D. E., Wells, E. L., & Soto, E. F. (2016) Is hyperactivity ubiquitous in ADHD or dependent on environmental demands? Evidence from meta-analysis. Clinical Psychology Review, 46, 12-24.(63件・4,642人の統合、PMC全文公開)pmc.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。