運動すると記憶が残りやすい——学びと軽い有酸素運動をセットにするコツ
Learning / Research Digest

運動すると記憶が残りやすい——学びと軽い有酸素運動をセットにするコツ

参考書を閉じた数分後には、覚えたはずのことが抜けている。足りないのは勉強の量だけではないかもしれません。1回の有酸素運動が記憶の定着を後押しするという研究をもとに、学びと運動を同じ日に組み合わせる机まわりの手順にまとめました。

参考書を閉じた数分後、さっき覚えたはずの用語が思い出せない。

もう一度開いて確認する。また閉じると、また抜けている。

そんなとき、足りないのは勉強の量ではないかもしれません。覚えた知識を頭に刻む「そのあとの過ごし方」に、鍵があります。

覚えたあとの運動が、記憶を後押しした

デンマークなどの研究チームが2013年、それまでの実験をまとめて分析しました。テーマは「運動と記憶の関係」です。

集めたのは、1回きりの運動を調べた研究が29件、数週間以上の運動プログラムを調べた研究が21件です。

分かったのは、1回の有酸素運動が記憶を後押ししていたこと。効果の大きさ(効果量)は、短期の記憶で0.26、時間をおいた記憶で0.52でした。

0.5前後は「中くらい」の大きさとされます。劇的ではないものの、無視できない差です。

意外なことに、毎日の運動を続けるプログラムより、テスト前後の「1回」の運動のほうが、記憶への効き目ははっきり出ていました。

なぜ動くと残りやすいのか。運動で血流や、記憶に関わる脳の物質が増える――というのが今の見立てです。仕組みはまだ研究の途中です。

下の図が、覚えたあとの過ごし方による違いのイメージです。

覚えたあとに体を動かすと、後日の記憶が残りやすくなる 上段は「運動あり」。覚える(学習)のあとに軽い有酸素運動を20〜40分挟むと、後日も記憶が残りやすい。下段は「運動なし」。覚えたあとそのまま過ごすと、後日は記憶が抜けやすい。同じ学びでも、そのあと体を動かしたかどうかで、残りやすさが変わることを示した概念図。 覚えたあと、体を動かすと記憶が残りやすい 運動あり 覚える(学習) 軽い有酸素運動 20〜40分 後日も残りやすい 運動なし 覚える(学習) そのまま過ごす 後日は抜けやすい
図: 覚えたあとに軽い有酸素運動を挟むと、後日の記憶が残りやすくなる(研究の傾向をもとに当サイト作成)

見てのとおり、同じ学びでも「そのあと動いたか」で残りやすさが変わります。

タイミングも関わりそうだ、という研究

いつ運動するかを調べた研究もあります。オランダの研究チームが2016年に報告しました。

72人を3つのグループに分け、90組の「絵と場所」の組み合わせを、約40分かけて覚えてもらいます。

そのうえで、片方は覚えた直後に運動、別のグループは4時間後に運動、残りは運動なしで過ごしました。

2日後に思い出してもらうと、成績が良かったのは「4時間後に運動した」グループでした。直後に運動したグループは、運動なしと差がありませんでした。

ここから、運動が効くかどうかにはタイミングも関わりそうだ、と分かります。

ただしこれは72人の1つの研究です。どのくらい間をおくのが良いかは、まだはっきりしていません。

机に向かう時間に、運動を組み合わせる

この結果は、机に向かう時間の使い方を少し変えるだけで活かせます。

たとえば資格の勉強。夜に単語や条文を覚えたら、その日のうちに近所を早歩きで一周する。

学生なら、暗記科目のあとに部活や軽いランニングを挟む。在宅で学ぶ社会人なら、覚えたあとに散歩や自転車で買い物に出る。

ジム通いも、特別な器具もいりません。息が少し弾む程度の有酸素運動で十分です。

すぐあとでも、数時間おいてからでもかまいません。先ほどの研究では、少し間をおいたほうが良い結果でした。夕方に覚えて夜に運動、という組み方も試す価値があります。

大切なのは、「覚える」と「動く」を同じ日の近い時間に置くこと。別々の日にやるより、セットにするほうが狙いに合います。

今日から試す「覚える→動く」の手順

やることはシンプルです。学びと運動を、同じ日にセットで組むだけです。

  1. 覚えたい内容を、まとまった時間で学ぶ(暗記・音読・問題演習など)
  2. その日のうちに、20〜40分ほどの軽い有酸素運動を入れる(早歩き・軽いジョグ・自転車)
  3. 息が少し弾む程度でよい。へとへとになるまで追い込まない
  4. 運動のあと、覚えた内容を何も見ずに思い出してみる
  5. 夜はしっかり眠り、翌日にもう一度思い出して抜けを埋める

4の「思い出す」ひと手間は、それだけでも記憶を強くします。やり方は思い出す練習にまとめました。

5の睡眠も欠かせません。覚えた内容は、眠っているあいだに脳へ刻まれていきます。くわしくは眠りと学びを合わせて読んでみてください。

この方法が向かない場面と、知っておきたい限界

よいことばかりではありません。まず、体調と相談してください。

持病がある人や、久しぶりに運動する人は、無理のない強さから始めます。目的は記憶であって、追い込むことではありません。

効果の大きさも「中くらい」です。運動さえすれば覚えられる、という魔法ではありません。土台になるのは、やはり学ぶ中身と、くり返しです。

どのくらいの強さ・タイミングが最適かも、まだ研究の途中です。人による差もあります。

それでも、覚えたあとに体を動かすのは、お金も道具もいらない工夫です。散歩のついでに、試してみてください。

「覚えられない」と感じたら、机に向かう時間を増やす前に、体を動かす時間を足してみる。

学び方そのものを見直す話は、学びの柱でも続けています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 覚えたい内容を、まとまった時間で学ぶ(暗記・音読・問題演習など)
  2. その日のうちに、20〜40分ほどの軽い有酸素運動を入れる(早歩き・軽いジョグ・自転車)
  3. 息が少し弾む程度でよい。へとへとになるまで追い込まない
  4. 運動のあと、覚えた内容を何も見ずに思い出してみる
  5. 夜はしっかり眠り、翌日にもう一度思い出して抜けを埋める

出典・参考

  1. Roig, M., Nordbrandt, S., Geertsen, S. S., & Nielsen, J. B. (2013) The effects of cardiovascular exercise on human memory: a review with meta-analysis. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 37(8), 1645-1666 — 1回きりの有酸素運動を調べた研究29件と、継続的な運動プログラムを調べた研究21件をまとめて分析。1回の運動は記憶に中くらいの後押し(効果量は短期の記憶で0.26・時間をおいた記憶で0.52)、継続プログラムの効き目は小さめと報告(PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. van Dongen, E. V., Kersten, I. H. P., Wagner, I. C., Morris, R. G. M., & Fernández, G. (2016) Physical Exercise Performed Four Hours after Learning Improves Memory Retention and Increases Hippocampal Pattern Similarity during Retrieval. Current Biology, 26(13), 1722-1727 — 72人が90組の「絵と場所」の対応を約40分かけて学習。覚えた直後・4時間後・運動なしの3群を比べ、2日後の保持が良かったのは4時間後に運動した群。直後の運動は運動なしと差がなかった(PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。