成長マインドセットは特効薬ではない——効果は小さい。では何が学びを伸ばすか
Learning / Research Digest

成長マインドセットは特効薬ではない——効果は小さい。では何が学びを伸ばすか

「やればできる」と信じれば成績は伸びる。成長マインドセットはそう語られがちです。でも大規模研究では、効果は総じて小さいと分かってきました。誇張せず本当のところを整理し、では何に時間を使えば学びが伸びるのか、確かめられた学び方へつなぎます。

「自分には才能がないから」。そう言って、資格試験のテキストを途中で閉じたことはありませんか。

あるいは、子どもや後輩に「やればできるよ」と声をかけたこと。

能力は努力で伸ばせると信じれば、勉強も仕事の覚えも伸びる——。成長マインドセット(そう考える姿勢)は、その期待とともに広まりました。

でも、大きな研究がそろって、話は少し変わりました。効果は「ある」けれど、思っていたより小さいのです。

がっかりに聞こえるかもしれません。でも、そこから「では何に時間を使うか」がはっきりします。

大規模研究が示したのは「効果は小さい」

まず、数字から見ます。

2018年、Siskらは成長マインドセットの研究をまとめ、2つのメタ分析(複数の研究を統合して全体の傾向を見る手法)を行いました。掲載誌は Psychological Science です。

1つ目は「マインドセットと成績の関係」。273件の効果量、36万人あまりのデータを集めました。結果、両者の結びつきは弱いものでした。

2つ目は「マインドセットを教える介入で成績が上がるか」。43件の研究、5万7千人あまりを統合しています。

介入の効果量は d=0.08。統計の世界では「とても小さい」部類で、目安の「小」(0.2)にも届きません。

下の図が、その小ささのイメージです。

学習効果の大きさをものさしで表した図。左から小(0.2)・中(0.5)・大(0.8)の目盛りがあり、成長マインドセット介入の実測 d=0.08 は『小』にも届かない左端に置かれている。右には『信じれば大きく伸びる』というよくある期待が示され、下の帯に『成績がふるわない子・恵まれない環境では相対的に効きやすい』とある
図1: 期待と、実際に測れた効果の大きさ(当サイト作成)

見てのとおり、「信じれば大きく伸びる」という期待と、実測のあいだには開きがあります。

ゼロではありません。でも、特効薬と呼べる大きさではないのです。

効いたのは、限られた場面だった

ただし「まったく無意味」ではありません。効く相手と場面が、絞られていました。

Siskらの分析でも、成績がふるわない子や、恵まれない環境の子には、相対的に効きやすい兆しが見えています。

これを丁寧に確かめたのが、2019年に Yeager らが Nature に発表した全米規模の実験です。

全米の公立高校65校から、9年生を1万2千人あまり集めました。介入は25分のオンライン学習を2回、合わせて1時間足らずです。

結果、成績がふるわなかった生徒の評定平均(GPA)が、主要教科で平均0.10ポイント上がりました。難しい数学の授業を選ぶ割合も増えています。

しかも、どの学校でも同じではありませんでした。「挑戦を後押しする雰囲気」がある学校ほど、効果が続いたのです。

Yeager はこう言います。「介入は種まきのようなもの。豊かな土でこそ実る」。

つまり、成長マインドセットは万能の特効薬ではありません。

でも、資格の勉強でつまずいた時期や、受験前の踏ん張りどころ。そんな場面で周りが挑戦を後押ししてくれるなら、「やればできる」は意味のある一押しになります。ただし、それ単体では小さな効果です。

では、その期待を何に振り向けるか

「信じるだけ」に大きく賭けていた分は、効くと分かっている学び方に回せます。

一つは、テキストを閉じて思い出す練習です。単語帳を眺め直すより、答えを隠して思い出した回数が記憶を決めます(思い出す練習)。

もう一つは、復習の間隔をあけること。試験前夜に詰め込むより、日を分けたほうが残ります(分散学習)。

簿記の仕訳や英文法を「なぜそうなるか」自分の言葉で説明するのも効きます(自己説明)。まちがえたら、そこを直す練習に変えます(誤りから学ぶ)。

どれも、信念に頼らず、多くの人に効く土台です。効く・効かないの一覧は効果的な学習法に、似た通説の検証は学習スタイル神話にまとめました。

今日からできること

考え方を1つ、行動を3つ。

  1. 「信じれば伸びる」に賭けすぎない。 マインドセットは土台であって、特効薬ではないと知っておく
  2. テキストを閉じて、思い出せるか自分にテストする。 単語や要点を、白紙に書き出すだけ
  3. 試験対策は、日を分ける。 前夜にまとめず、同じ2時間を3日に割る
  4. 机の周りから「諦めの言い訳」を1つどける。 スマホを別室に置くなど、続けられる環境にしておく

まずは「やればできる」と念じる5秒を、思い出す練習の1問目に使ってみてください。そのほうが、伸びは確かです。

学び方を仕組みで選ぶ考え方は学び方の歩き方にまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 「信じれば伸びる」に賭けすぎない。マインドセットは土台で、特効薬ではないと知る
  2. テキストを閉じ、思い出せるか自分にテストする(白紙に書き出す)
  3. 試験対策は前夜にまとめず、日を分けて復習する
  4. 机の周りから「諦めの言い訳」を1つどける(スマホを別室に置く等)

出典・参考

  1. Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018) To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement? Two Meta-Analyses. Psychological Science, 29(4), 549-571.journals.sagepub.com
  2. Yeager, D. S., et al. (2019) A national experiment reveals where a growth mindset improves achievement. Nature, 573, 364-369.doi.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。