運動を2か月続けた人は、浪費や先延ばしも減っていた——小規模な研究が示す波及効果
運動はがんばっているのに、部屋は散らかったまま、浪費も止まらない。そう感じたことはありませんか。大学生24人を追った小規模な研究では、運動を続けた人ほど浪費・先延ばしも減っていました。ただし規模は小さく、後続のメタ分析では効果は控えめです。
ジムには週3で通えている。なのに、机の上は書類が積み上がったまま。夜になれば、また、いらないものをネットでポチっている。
そんな「片方だけがんばっている」感覚は、ありませんか。
運動が続いても、散らかりや無駄遣いまで直るわけではない。そう考えるのが自然です。
ところが、ある研究をたどると、話が違っていました。運動を2か月続けた人ほど、浪費も先延ばしも、部屋の乱れまで、自然と減っていたのです。
小規模な研究だが、運動を続けた人は無関係の行動まで変わっていた
2006年、オーテンとチェンという2人の研究者が、オーストラリアのマッコーリー大学で調査を行いました。24人という小規模な研究ですが、結果は具体的です。
対象は、ふだん運動をしていない大学生24人です(男性6人・女性18人、18〜50歳・平均24歳)。
3つのグループに分け、一部は運動前に2か月間の待機期間を置きました。
そのあと全員が、2か月間の運動プログラム(週3〜4回の有酸素運動や筋トレ)に参加しています。参加者は、ジムの会員費と引き換えに協力しました。
変化が表れたのは、運動期間だけでした。
喫煙する人では、1日あたりの本数が平均10本減りました。カフェインは週5杯、アルコールは週5杯ほど減っています(いずれも、もともとその習慣がある人だけを集計した数字です)。
それだけではありません。ジャンクフードが減って健康的な食事が増え、衝動買いや使いすぎが減り、かっとなる回数も減りました。約束をすっぽかす回数、先延ばしにする回数、皿を洗わずに溜め込む回数も減っています。
一方、歯のフロスと寝坊の回数には、はっきりした変化が見られませんでした。何もかもが良くなったわけではありません。
何もしない待機期間中は、こうした変化がいっさい起きていませんでした。
下の図が、この研究の骨組みです。
見てのとおり、待機期間には何も起きず、運動期間にだけ、関係のなさそうな行動まで変化が集まっています。
ここでもう一度、規模を確認しておきます。これは24人という小さな研究です。
しかも、測定する側がどの参加者がどちらの条件かを知った状態で調べており、盲検化はされていませんでした。
この2点は、著者自身が研究の限界として認めています。運動そのものが自制心を鍛えたのか、気分がよくなった影響なのか、著者たちも完全には切り分けられていません。
この結果は、後続の研究でも支持されているか
1つの小さな研究だけでは、心もとないと感じるかもしれません。
そこで、「自制心は練習で鍛えられるか」というテーマを、2017年にフリーゼらのチームが大きくまとめました。33件の研究・158の効果量を集めたメタ分析です。
結果は、小さめから中くらいの効果(効果量0.30)にとどまりました。加えて、無関係な行動にまで効果が広がるかどうかは、研究によってばらつきがあると報告されています。
つまり、「自制心の練習効果」自体はいくつもの研究で確認されています。ただし、オーテンとチェンの研究ほどはっきり無関係な行動まで変わる、とまでは言い切れません。
運動を続ければ誰でも生活全体が変わる、という保証ではありません。「そうなる場合がある」という段階の話として受け取ってください。
なぜ、運動と無関係の行動まで変わることがあるのか
はっきりした理由は、これらの研究だけでは分かりません。
ただ、著者たちはこう考えています。自制心は、使うと減る一方の電池ではなく、練習で鍛えられる部分もあるのではないか、と。
運動は、「今日はやめておこうかな」という誘惑に、毎回打ち勝つ場面の連続です。その練習が、買い物や勉強、片づけなど、まったく別の場面での自制にも及んだのかもしれません。
だとすれば、選ぶ習慣にはコツがあります。「やりたくないな」という気持ちを、毎回ひとつ乗り越える行動を選ぶことです。
散歩でも、皿洗いでも、家計簿でもかまいません。共通するのは、始める前にほんの少し、自分を押し出す必要があること。その小さな「今はやめておこう」を却下する回数が、練習量になります。
ただし、波及を当てにして始めるのは順番が逆です。フリーゼらのまとめが示すように、他の行動まで変わるかどうかは人によります。「1つ続いたら、おまけがつくかもしれない」くらいに構えておくほうが、がっかりせずにすみます。
日本の生活の場面に置き換えると
会社勤めなら、行きの電車を1駅手前で降りて歩く。合図は「改札を出たら」に固定します。週3回、平日の行きだけと決めると、迷う場面が減ります。
在宅が中心なら、始業のチャイム代わりに、パソコンを開く前の10分を散歩に当てる。「コーヒーを淹れる前に一周」と決めておくと、続けやすくなります。
運動でなくてもかまいません。夕食の食器はその場で洗う、帰宅したらまず洗濯物をたたむなど、「つい後回しにしがちな行動」を1つ選び、いつやるかまで決めておく。それが土台になります。
今日から試す「1つだけ選ぶ」手順
大事なのは、あれもこれも同時に変えようとしないことです。
- 今日、続ける習慣を1つだけ選ぶ(部屋の片づけと浪費対策を同時に始めない)
- 頻度を数字で決める(週3〜4回など。「できるだけ」にしない)
- 続けた日をカレンダーやアプリに記録する
- 最初の1か月は、他の行動を無理に変えようとしない
- 2か月続いたら、他の行動にも変化がないか振り返ってみる
1つの習慣に絞るほうが、あれこれ同時にがんばるより続きやすいという話は、小さく始める習慣づくりにもまとめています。すでにある行動にくっつけて始める方法は習慣スタッキングが参考になります。
誘惑と出会う回数そのものを減らす発想は「自分は意志が弱い」と責めていませんか、仕組みで習慣を支える発想は習慣づくりの柱でもまとめています。
まずは今日、続けたい習慣を1つだけ選んで、頻度を数字で決めてみてください。その1つが、思わぬところまで生活を整えてくれるかもしれません。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 続ける習慣を1つだけ選ぶ(欲張らない)
- 週3〜4回など、頻度を数字で決める
- 続けた日をカレンダーやアプリに記録する
- 最初の1か月は、他の行動を無理に変えようとしない
- 2か月続いたら、他の行動の変化も振り返ってみる
出典・参考
- Oaten, M., & Cheng, K. (2006) Longitudinal gains in self-regulation from regular physical exercise. British Journal of Health Psychology, 11(4), 717-733.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Friese, M., Frankenbach, J., Job, V., & Loschelder, D. D. (2017) Does Self-Control Training Improve Self-Control? A Meta-Analysis. Perspectives on Psychological Science, 12(6), 1077-1099.doi.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。