誘惑は我慢でなく「段取り」でかわす—if-thenを衝動対策に使う
夕食後つい甘いものに手が伸びる、仕事中にSNSを開いてしまう。その場の我慢に頼らず、「もし〜したくなったら代わりに〜する」を先に決めておく実行意図(if-then)の応用を、平日の場面でまとめました。
夕食のあと、なんとなく戸棚を開けて甘いものに手が伸びる。仕事中、少し詰まると気づけばSNSを開いている。夜、あと一本だけと動画を再生して、時計は1時を回っている。
どれも「やめよう」と思っているのに、その場になると手が動いてしまう。
多くの人はこれを「我慢が足りないから」と考えます。でも、その場の我慢だけで毎回勝とうとするのは、しんどいものです。疲れている時ほど、勝てません。
そこで発想を変えます。衝動を我慢でねじ伏せるのではなく、「もし〇〇したくなったら、代わりに△△する」と先に決めておく。その場の意志力に頼らず、段取りで衝動をやり過ごす方法です。
行動を「始める」ためのif-thenプランニングと、道具は同じです。今回はそれを裏返して、「望まない衝動をかわす」側に使います。
「我慢」ではなく「代わりの一手」を決める
もとにあるのは、心理学者ピーター・ゴルヴィツァーらの**実行意図(implementation intention)**です。いわゆる if-then プランニングのことです。
もともとは「もし状況Yになったら、行動Xをする」と、望む行動の合図を先に決めておく道具でした。これを、望まない衝動のほうへ向けます。
形はこうです。
「もし〇〇したくなったら、代わりに△△する」。
「もし夕食後に甘いものが欲しくなったら、代わりに歯をみがく」。「もし仕事中にSNSを開きたくなったら、代わりに水を一杯飲む」。合図と、その時の代わりの一手を、事前に一文で固定します。
なぜ「我慢する」と決めるだけでは弱いのか。
アドリアーンセらの研究(2011年)が、この点を実験で確かめています。if-then は、つい出てしまう習慣を消し去るのではありません。その習慣が持つ「先手」をなくすように働きます。
慣れた行動は、考える前に手が出ます。いわば競走で数歩前からスタートしている状態です。「代わりに△△する」と決めておくと、その差が縮まり、別の行動を選び直す余地が生まれます。
だから決めるのは、「我慢する」ではなく具体的な「代わりの行動」です。ここが肝心です。
ただし、効果は控えめに見ておくのが誠実です。
同じ研究者らが23件の実験をまとめた分析では、if-then で不健康な食べ方を減らす効果は中くらいでした(効果量 d=.29)。望ましい行動を増やす効果(d=.51)よりは小さい。魔法のスイッチではありません。
衝動を我慢で受け止めるのをやめ、段取りで受け流す。この発想は習慣化の歩き方全体に通じます。
「気をつける」だけでは崩れる理由
「今日から間食に気をつける」「だらだらスマホを見ない」。よくある決め方です。
でも、これらにはその場でやる具体的な代わりの行動がありません。合図も、置き換える一手も、あいまいなままです。
衝動が一番強く出るのは、たいてい疲れている時です。残業明けの夜、昼の疲れがたまった午後。判断力が落ちた瞬間ほど、慣れた行動が先に手を出します。
そこで「どうしよう」と考え始めても、もう遅い。だから代わりの行動は、頭が回らない自分でも実行できるくらい、具体的で手近にしておきます。
コツは3つです。
- 合図は、実際に衝動が出る場面に固定する(×「夜」→〇「夕食を食べ終えたら」)
- 代わりの行動は、その場ですぐできる小さなものにする(歯みがき・水・立ち上がる)
- 「我慢する」ではなく「代わりに□□する」と、動作で書く
下の図が、「我慢するだけ」と「代わりを先に決める」の違いです。
違いは、誘惑が来る前に次の一手が決まっているかどうかだけです。
実践:場面別の一文
自分の生活で衝動が出やすい場面を1つ選び、そこに一文を用意します。
間食・食べすぎ
- もし夕食後に甘いものが欲しくなったら、代わりに歯をみがく
- もし小腹がすいてお菓子に手が伸びたら、代わりに白湯かお茶を一杯飲む
スマホ・SNS
- もし仕事中にSNSを開きたくなったら、代わりにその場で伸びを一回する
- もしスマホを手に取ったら、代わりに今の作業の次の一手を口に出す
夜更かし
- もし「あと一本」と動画を再生したくなったら、代わりに画面を消して歯みがきに立つ
- もしベッドで動画を見たくなったら、代わりにスマホを部屋の外の充電器に置く
書くときは、代わりの行動を「小さく・すぐできる」ものにします。
大きな置き換え(甘いもの→30分の運動)は、その場のハードルが高くて続きません。歯みがき、水、立ち上がる。それくらいで十分です。
まずは1場面、1文から。うまくいったら次の場面に増やしてください。
うまくいかないとき・向いていない人
決めたのに手が動かない時は、たいてい代わりの行動が重すぎるか、合図があいまいかのどちらかです。
代わりの一手をもっと小さくし、合図を「必ず起きる具体的な場面」に寄せてください。
そもそも、この方法が効きにくい場面もあります。
先ほどの研究では、if-then が働くには「本当はそちらを選びたい」という気持ちが要ると分かっています。心の底ではまだやめたくない衝動には、一文を書いても効きにくい。
まず「自分はこれを減らしたいのか」を確かめるほうが先です。
衝動が強すぎて一手ではかわせない時は、そもそも手が届かなくする工夫と組み合わせます。お菓子を買い置きしない、アプリをホーム画面から消す——この環境で悪い習慣を減らすやり方と併用すると、無理が減ります。
この方法は、意志を強くする道具ではありません。
その場の我慢に賭けるのをやめ、「来たらこうする」を先に決めておく。衝動と正面から戦わずに、そっと横へ受け流すための段取りです。
まずは今日、いちばん困っている衝動を1つ選んで、「もし〜したくなったら、代わりに〜する」を一文だけ書いてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 減らしたい衝動を1つだけ選び、それが一番出やすい具体的な場面(合図)を書き出す
- 「もし〇〇したくなったら、代わりに△△する」の形で、その場ですぐできる小さな代わりの行動を1つ決める
- 書いた一文を、衝動が起きる場所(戸棚・机・ベッド脇)の目に入るところに置く
- 1週間試して手が動かなければ、代わりの行動をさらに小さくするか、合図をより具体的な場面に寄せる
出典・参考
- Adriaanse, M. A., Vinkers, C. D. W., De Ridder, D. T. D., Hox, J. J. & De Wit, J. B. F. (2011) Do implementation intentions help to eat a healthy diet? A systematic review and meta-analysis of the empirical evidence. Appetite, 56(1), 183-193.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Adriaanse, M. A., Gollwitzer, P. M., De Ridder, D. T. D., de Wit, J. B. F. & Kroese, F. M. (2011) Breaking Habits With Implementation Intentions: A Test of Underlying Processes. Personality and Social Psychology Bulletin, 37(4), 502-513.journals.sagepub.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。