行き詰まったら、粘らず離れる——「軽い作業」を挟むと答えが戻る
Focus / Research Digest

行き詰まったら、粘らず離れる——「軽い作業」を挟むと答えが戻る

考えても答えが出ない。そんなときは粘るより、いったん離れるほうが解けることがあります。2つの研究が示すのは、休憩中に「軽い単純作業」を挟むと発想の行き詰まりが戻りやすいこと。上手な離れ方を、限界も添えてまとめます。

企画書のタイトルが決まらない。同じ画面を30分見つめて、同じ言葉ばかりが浮かぶ。

粘るほど、頭は同じところをぐるぐる回ります。

そんなときは、いったん席を離れたほうがいいです。しかも「何をして離れるか」で、戻ってきたときの解けやすさが変わります。

「離れると解ける」を研究が確かめた

心理学では、これをインキュベーション(孵化)と呼びます。問題をいったん脇に置くと、あとで解きやすくなる現象です。

多くの実験の結果をまとめて分析した研究が、2009年に Psychological Bulletin という学術誌に載りました。ウート・シオとトム・オルメロッドによるものです。

分かったのは、いったん離れると、問題が解ける割合が上がりやすいことです。とくに効果が大きかったのは、答えが一つに決まらない「発想を広げる課題」でした。

離れているあいだの過ごし方も関係します。難しい別の作業に切り替えると、効果は小さくなりました。楽にできる作業は、言葉を使う問題では、ただ休むよりも強い効果が出ています。ただし、これは課題の種類によって変わります。

もう一つ、条件を細かく分けた実験があります。2012年に Psychological Science へ載った、ベンジャミン・ベアードらの研究です。

たとえば、レンガの使い道をできるだけ多く挙げる、といった課題を使いました。参加者を4つに分け、休憩中の過ごし方を変えます。難しい作業・軽い作業・ただ休む・休憩なしの4通りです。

軽い作業をした人だけが、休憩の前に一度考えた問題で成績を伸ばしました。その伸びは、休憩中にぼんやり考えごとをしていた人ほど大きかったそうです。

ただし、この研究には限界があります。伸びたのは前に触れた問題だけで、初めて見る問題では差が出ませんでした。対象は学生が中心で、1つの研究の結果にすぎません。

インキュベーションは、実験の組み方で結果がばらつくことも報告されています。離れて必ず解けるわけではありません。向く場面を選んで試すとよい方法です。

休憩中の過ごし方を3つ並べると、こうなります。

行き詰まった問題を寝かせるとき、休憩中に何をするかを3つ比べた図。難しい別の作業に切り替えると解けやすさは低い、何もせず休むだけはほどほど、歩く・片づけなど軽い作業がもっとも解けやすい。軽い作業のカードにおすすめの印が付いている
図1: 軽い単純作業を挟んだときが、いちばん解けやすい(相対的なイメージ・当サイト作成)

効いたのは軽い作業です。離れているあいだに頭を軽く空けておくと、解けやすさが上がります。

上手な「離れ方」は、頭を使わない用事

会社員なら、見出しや構成、ネーミングで手が止まったとき。その場で粘らず、コピーを取りに行く、お茶を淹れる、机まわりを片づける。頭を強く使わない用事がちょうどいいのです。

個人でものづくりをする人なら、設計や機能のアイデアで詰まったとき。皿を洗う、洗濯物をたたむ、少し歩く。手は動かしても、頭は使わずに済む作業です。

向かないのは、スマホでSNSやニュースを追うことです。情報が次々に入ってきて、ぼんやり考える時間がなくなってしまいます。同じ休憩でも、効果は変わります。

歩くことには、発想を広げる効果もあります。くわしくは行き詰まったら歩くにまとめました。

ふだんは、作業中に気が散ると集中も満足感も下がります(心がよそへ行くと集中も満足感も下がる)。ただ、行き詰まったときにあえて離れて、ぼんやり考えるのは役に立ちます。ふだんは避けたい脱線が、ここでは味方になります。

ただし、これは答えを広げたい場面向けです。計算・校正・入力のように答えが一つに決まる作業は、離れても効果は期待できません。その場合は、座ってそのまま進めましょう。集中を仕組みで守る工夫は集中の技術にまとめています。

今日から試す「詰まったら10分、軽い作業で離れる」

手順は短く済みます。手が止まったら、粘らずに離れます。

  1. あと少しで出そうだと思って10分たっても進まなければ、席を離れる
  2. 課題を一言だけメモに残し(「タイトル、あと一歩」)、画面を閉じる
  3. 10〜15分、頭を強く使わない用事をする(散歩・片づけ・皿洗い・給湯室へ)。スマホの情報収集は避ける
  4. 課題は忘れてかまいません。思い出そうとせず、ふと浮かんだことだけメモします
  5. 戻ったら、まず案を出す作業から始めます。案を選んだり直したりするのは、あとにします
  6. 合わなければ、離れる時間や作業の中身を自分で調整する

粘りすぎず、早めに席を離れるのが一番のコツです。「詰まったら軽い作業で離れる」と先に決めておくと、切り替えに迷いません。

答えが出ないときは、粘るよりも、少し離れてみるほうがいいかもしれません。今日行き詰まったら、まず10分だけ、軽い用事で席を離れてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 「あと5分で出そう」と思ってから10分進まなければ、そこを離れる合図にする
  2. 課題を一言メモに残し、画面を閉じる
  3. 10〜15分、頭を強く使わない用事をする(散歩・片づけ・皿洗い)
  4. スマホでの情報収集は避ける。心がさまよう余地を残す
  5. 戻ったら案出しから再開。比較・校正は落ち着いてから進める

出典・参考

  1. Baird, B., Smallwood, J., Mrazek, M. D., Kam, J. W. Y., Franklin, M. S., & Schooler, J. W. (2012) Inspired by Distraction: Mind Wandering Facilitates Creative Incubation. Psychological Science, 23(10), 1117-1122.(PubMed 抄録・PMID 22941876)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Sio, U. N., & Ormerod, T. C. (2009) Does incubation enhance problem solving? A meta-analytic review. Psychological Bulletin, 135(1), 94-120.(多数の実験をまとめたメタ分析・全文PDF)gwern.net

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。