「ながら作業」は集中力を壊す?——よく聞く話を研究で確かめた
Focus / Research Digest

「ながら作業」は集中力を壊す?——よく聞く話を研究で確かめた

動画を見ながら仕事、スマホを見ながらテレビ。「ながらは脳に悪い」とよく聞きます。本当に頭が鈍るのか、有名な研究とその後の検証を並べて確かめました。あわてる前に知っておきたい、低コストで確かな一手もまとめています。

動画を流しながら資料を作る。スマホを見ながらテレビを見る。気づけば、いくつもの画面を行き来しています。

「ながらは脳に悪い」「集中力が壊れる」。そんな言葉を、どこかで聞いたことがあるはずです。

本当に頭が鈍っていくのでしょうか。あわてる前に、研究が実際に何を言っているのかを確かめてみます。

有名な研究と、その10年後

きっかけは、2009年にスタンフォード大学などのチームが出した研究でした。

いくつものメディアを日常的に同時に使う人(ヘビーな「ながら」派)と、そうでない人を比べます。すると、ながら派のほうが、無関係な情報にひっぱられやすく、それをうまく振り払えない傾向が見られた、と報告されました。

この結果が「マルチタスクは脳に悪い」という形で、広く知られていきます。

ところが、話はここで終わりません。2021年に、その後の追試をまとめ直したメタ分析が出ます。

そこでの結論は、控えめなものでした。差はあっても小さく、しかも研究によってばらつく。とくに、元の研究に近いやり方で測ると、はっきりした差は出にくかった、とされています。研究者たちは「10年たっても、まだよく分かっていない」と正直に書いています。

2つの横棒を上下に並べた図。上の棒は『よく聞く《ながらは脳に悪い》の勢い』で、とても長い。下の棒は『研究で実際に確かめられた差』で、ずっと短い。世間で語られる話の大きさと、研究で確かめられた効果の大きさが一致していないことを表している
図1: 話の大きさと、証拠の重さは別もの(当サイト作成)

見てのとおり、世間で語られる勢いと、確かめられた差の大きさは、かなり違います。

何が言えて、何が言えないか

まず、言えないことから。「ながらをすると頭が悪くなる」とは、この研究からは言い切れません。

比べたのは「ながら派」と「そうでない人」の差です。もともとの性格や注意の特徴が違う可能性もあり、ながらが原因だと決めることはできません。

だからといって、好きなだけ画面を増やしてよい、という話でもありません。一度に複数のことをすると、切り替えのたびに時間と手間がかかるのは、別の研究でもたしかめられています。くわしくは切り替えのたびに脳に残るカスも参考になります。

強い言葉ほど、いったん保留して受け取る。それが、情報にふりまわされないコツです。

今日からできる、低コストな一手

証拠が強くないなら、無理に生活を変える必要はありません。ただ、ほとんど損のない一手だけ紹介します。

  1. 本当に集中したい作業は、他のメディアを閉じて1つだけにする
  2. スマホは手の届かない場所に置いてから、その作業を始める
  3. 「ながら」でよいのは、失敗しても困らない軽い作業に絞る

大事な作業のときだけ、画面を1つにする。これなら、たとえ研究の差が小さくても、失うものはありません。

気が散る環境そのものを整える発想は、集中の柱でまとめています。机まわりの視界を減らす工夫は、目に入るものを減らすも参考になります。

「ながらは悪」と決めつける前に、今いちばん大事な作業のときだけ、画面を1つにしてみる。そこから試してみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 本当に集中したい作業は、他のメディアを閉じて1つだけにする
  2. スマホは手の届かない場所に置いてから、その作業を始める
  3. 「ながら」でよいのは、失敗しても困らない軽い作業に絞る
  4. 『ながらは脳に悪い』という強い言葉は、いったん保留して受け取る

出典・参考

  1. Ophir, E., Nass, C. & Wagner, A. D. (2009) Cognitive control in media multitaskers. PNAS, 106(37), 15583-15587.web.stanford.edu
  2. Parry, D. A. & le Roux, D. B. (2021) 'Cognitive control in media multitaskers' ten years on: A meta-analysis. Cyberpsychology, 15(2).cyberpsychology.eu

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。