小さな用事をすぐ片づけると集中が切れる——「早すぎる着手」を書き出しで防ぐ
Focus / Research Digest

小さな用事をすぐ片づけると集中が切れる——「早すぎる着手」を書き出しで防ぐ

作業中に浮かんだ小さな用事を、つい先に片づけていませんか。バケツを遠くまで運んだ実験から、すぐ動きたくなる心理と、集中を切らさず頭を軽くする1行メモの手順をまとめました。

集中して作業しているとき、ふと小さな用事が頭に浮かぶ。「あのメール、返しておかなきゃ」。

気になって、つい手を止めて先に片づける。すっきりする。でも元の作業に戻ると、なぜか調子が戻らない。

こんな経験はないでしょうか。

このすぐ片づけたくなる気持ちには、「プリクラスティネーション」という名前がついています。そして、ときに集中のじゃまになります。

遠くまで運んでも「手前のバケツ」を選ぶ

心理学者デビッド・ローゼンバウムらは2014年、こんな実験をしました(Psychological Science 誌)。

参加者に、通路の手前と奥に置いた2つのバケツのうち1つを持ち上げ、通路の反対側の端(ゴール)まで運んでもらいました。

奥のバケツはゴールに近い位置にあります。だから奥を選べば、持って歩く距離は短くて済みます。

ところが多くの人は、手前のバケツを取りました。わざわざ長い距離を運ぶことになるのに、です。

手前のバケツなら、持ち上げるという最初の動作を、いますぐ済ませられるからです。

研究チームはこの行動を「プリクラスティネーション(precrastination)」と名づけました。先延ばし(procrastination)の逆で、必要以上に早く片づけようとすることです。いわば「早すぎる着手」です。

研究チームはこう考えました。「まだ運んでいないバケツ」を覚えておくこと自体が、頭には小さな負担になる。だから人は、多少よけいに歩いてでも、気になるものを早く手に取って「とりかかり済み」にしたがるのだ、と。

頭に負担があると、早く手をつけやすくなる

続きの研究もあります。別の研究グループが2019年に、似た「物を運ぶ課題」を使い、頭に別の負担をかけた人と、そうでない人を比べました。

頭に負担をかけたグループは、条件によっては、手前の物を先に取りやすくなりました。

一方、同じ研究で、水を入れたこぼれやすいカップを運ばせたときは、手前を取る傾向は見られませんでした。つまり、状況によって結果は変わります。

ただ、読むときに気をつけたい点があります。

まず、どちらの実験も大学生が対象で、全員が手前を選んだわけではありません。また、海外で行った実験なので、日本の職場にそのまま当てはまるとは限りません。

次に、こうした実験の読み解き方には、別の意見もあります。心理学者のミヒャエル・リヒターは2015年に、「どちらが楽かを見積もっただけ」「動くこと自体がごほうびになっている」といった、これまでの考え方でも説明できると述べました。やる気や、その課題のおもしろさといった別の理由も考えられる、ということです(Frontiers in Psychology 誌)。

つまり、「早く片づけたくなる傾向がある」ところまでは確かですが、その理由も、どこまで当てはまるかも、まだ議論の途中です。身近な話として読むのがちょうどいいでしょう。

机の前の「手前のバケツ」

話を机の前に戻します。深い作業の最中に浮かぶ小さな用事は、あの「手前のバケツ」によく似ています。すぐ手に取れて、その場では気が済むからです。

すぐ片づければ、頭は軽くなります。その代わり、集中はそこで途切れます。

しかも、用事を済ませて元の作業に戻っても、さっきの用事のことがしばらく頭に残ります(こうした残りを、研究では「注意残余」と呼びます)。頭を元に戻すのに、また時間がかかります。

「すぐ済ませた」つもりが、中断とやり直しで、かえって手間取る。遠回りをしている点では、バケツの実験と似ています。

では、集中を切らさずに頭を軽くするには、どうすればいいのでしょうか。

頭に浮かぶ小さな用事への2つの向き合い方を対比した図。左「今すぐ対応する」は深い作業を止めて着手し、頭は軽くなるが集中が途切れ、やり直しで手間が増える。右「書き出して後回し」は1行メモして手放し、頭は軽くなり、しかも集中は続いてあとでまとめて処理できる。
図1: 「頭を軽くする」ことは、実行しなくても書き出しで果たせる(当サイト作成)

すぐ対応するのも、書き出すのも、狙いは「頭を軽くする」ことです。違うのは、集中が途切れるかどうかだけです。

頭が求めているのは、用事を済ませること自体より、覚えておく負担から解放されることかもしれません。

それなら、いま実行しなくてもかまいません。書き出して頭の外に預ければ、負担は下ろせます。

用事が頭から離れない理由と対処は、こちらの記事で書いています。

今日から試す「浮かんだら、先に書く」

やることは一つです。作業中に用事が浮かんだら、手をつける前に1行だけメモに書きます。

紙でもスマホのメモでも構いません。「メールに返信」「〇〇に連絡」。それだけ書いて、作業に戻ります。

「いつやるか」を一言そえると、あとで戻ってきやすくなります。

  • 浮かんだら、すぐ動かず、メモに1行だけ書く(数秒で済む)
  • 「11時に」「昼休みに」と、いつやるかを一言そえる
  • 急ぎでない用事はためておき、作業の区切りでまとめて片づける

作業を切り替えるたびに失う時間については、こちらの記事にまとめています。

もちろん、10秒で返せる一言や、放っておくと事故になる用事は、先に片づけたほうが早いです。

見分けるコツは、一呼吸おいて「これは急ぎか、それとも早く楽になりたいだけか」と自分に聞くことです。後者なら、書いて手放します。

念のため付け加えると、ここで紹介した研究が確かめたのは「人は早く片づけたがる」という傾向までで、メモの効果そのものを調べたわけではありません。書き出すのは、その衝動とうまくつき合うために試せる、ひとつの工夫です。

集中を守るためのほかの方法は、集中の技術で紹介しています。

次に用事が浮かんだら、手をつける前に1行だけ書いてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 用事が浮かんだら、すぐ動かず、メモに1行だけ書く(5秒)
  2. メモに「いつやるか」を短くそえる(例:「11時に」「昼休みに」)
  3. 急ぎでない用事は、作業の区切りまでメモにためておく
  4. 区切りがきたら、たまった用事をまとめて片づける
  5. 「今すぐやらないと落ち着かない」と感じたら、急ぎかどうか一呼吸おいて確かめる

出典・参考

  1. Rosenbaum, D. A., Gong, L., & Potts, C. A. (2014). Pre-Crastination: Hastening Subgoal Completion at the Expense of Extra Physical Effort. Psychological Science, 25(7), 1487-1496.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Fournier, L. R., Coder, E., Kogan, C., Raghunath, N., Taddese, E., & Rosenbaum, D. A. (2019). Which task will we choose first? Precrastination and cognitive load in task ordering. Attention, Perception, & Psychophysics, 81(2), 489-503.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  3. Richter, M. (2015). Commentary: Pre-crastination — hastening subgoal completion at the expense of extra physical effort. Frontiers in Psychology, 6:1269.pmc.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。