うっかりミスの原因は2種類——「スリップ」と「思い込み」は対策が違う
Focus / Research Digest

うっかりミスの原因は2種類——「スリップ」と「思い込み」は対策が違う

メールの誤送信も、そもそもの判断ミスも、まとめて「うっかり」で片づけていませんか。人のミスには、実行でつまずくスリップと、判断そのものが誤る思い込みの2種類があり、直し方が違います。自分を責めずに減らす、見分け方と手順をまとめました。

送るはずのない相手にメールを送ってしまった。

上司に「なんでこんなミスを」と言われ、自分でも「次はもっと気をつけよう」と思う。でも、しばらくするとまた似たことが起きる。

気をつけているのに減らないのは、意志が弱いからではありません。

じつは「うっかりミス」には種類があり、種類ごとに効く対策が違います。同じ気合いで全部を防ごうとするから、抜けが残るのです。

この記事は、ミスを2つに分けて、それぞれに合った止め方をまとめたものです。

ミスには「実行のミス」と「判断のミス」がある

人のミスの分け方を整理したのが、心理学者ジェームズ・リーズンです。

リーズンは著書『Human Error』(1990年・ケンブリッジ大学出版)で、人の誤りをおおきく2種類に分けました。

ひとつはスリップ(やり損ない)。やろうとしたことは正しいのに、実行の途中で手が滑るミスです。宛先を1つ下の名前で選んでしまう、保存を忘れて閉じる、といった類です。計画は合っている。つまずくのは実行の段階です。

もうひとつがミステイク(思い違い)。手順はきちんとこなしているのに、そもそもの判断や思い込みが間違っているミスです。古い情報を正しいと信じて進める、手順の前提を勘違いしている。実行は計画どおりでも、計画そのものが外れています。

同じ「失敗」でも、つまずいた場所が違う。ここが出発点です。

人を責めても、ミスは減らない

リーズンは2000年、医学誌 BMJ の記事で、ミスへの向き合い方を2つに整理しました。

ひとつは、ミスをした個人の不注意や気のゆるみを責める見方。もうひとつは、人は誰でも間違えるものと考え、間違いを生みやすい仕組みのほうを直す見方です。

リーズンが有効だとしたのは後者、仕組みに目を向ける見方でした。

この記事の元になった BMJ の記事は、事故や医療の現場を分析して組み立てた考え方の枠組みで、特定の効果を測った実験ではありません。数字で「何割減る」と示すものではない点は、はじめに断っておきます。

医療や安全の現場の話でもあるので、そのまま自分の仕事に当てはめず、考え方の地図として受け取ってください。

つまずいた場所が違えば、直し方も違う

なぜ分けるかというと、対策がまるで逆になるからです。

下の図が、2種類のミスと、それぞれに効く対策です。

うっかりミスを2種類に分けて対策を並べた対比図。左のスリップ(うっかり)は、計画は正しいのに実行で手が滑るミスで、例は宛先の選び間違いや保存忘れ。効く対策は仕組みで防ぐこと(チェックリストや確認画面)で、注意をもっとしても減らないと注記。右の思い込み(ミステイク)は、実行は計画どおりでも判断そのものが誤るミスで、例は古い情報を正しいと思う・手順の前提を勘違いする。効く対策は前提を疑うこと(確認・第三者の目・情報の更新)で、丁寧にやるほど気づけないと注記。
図1: スリップは仕組みで、思い込みは前提の確認で減らす(当サイト作成)

スリップ(やり損ない)には、注意力を上げようとしても効きません。集中していても手は滑るからです。

効くのは仕組みのほう。送信前に宛先を出す確認画面、持ち物の定位置、手順を1行ずつ消していくチェックリスト。判断を挟まず自動で引っかかる関所を、作業の途中に置きます。

いっぽう思い込み(思い違い)には、確認画面は役に立ちません。本人は正しいと信じて操作しているので、確認欄も自信をもって「はい」を押してしまうからです。

効くのは前提を疑う仕掛けです。着手する前に「今回の前提はこれで合っているか」を一度口に出す。使う情報の日付を見る。詰まったら、詳しい人に前提だけ見てもらう。

丁寧に進めるほど自分では気づけないので、外からの目を1つ入れます。

ここで大事なのは、リーズンの言う「人ではなく仕組みを直す」という向きです。「気をつける」で減らないミスを、気合いの問題にしない。自分を責める発想から降りる考え方は、先延ばしは怠けではなく「感情」の問題にも通じます。

今日からできる、ミスの見分けと止め方

やり方は、起きたミスを分けて、片方ずつ対策を当てるだけです。今日から試せる手順を挙げます。

  1. 起きたミスに「やることは合っていたか」と問う。 合っていたのに失敗したならスリップ(やり損ない)。判断ごと外していたなら思い込み(思い違い)。まずこの1問で仕分けます
  2. スリップには関所を置く。 よくやる手違いを1つ選び、その直前に自動で引っかかる仕掛けを作る。送信前の確認、保存の癖づけ、チェックリスト。注意を増やすのではなく、注意しなくても止まる形にします
  3. 思い込みには「前提の読み上げ」を足す。 大きめの作業の前に、前提を一度声に出すかメモに書く。「宛先はA社、締切は金曜、この手順でいい」。ズレていれば、口に出した時点で気づきやすくなります
  4. 穴を1枚にしない。 大事な作業は、確認の層を2つ重ねる。自分の見直し+誰かの一読、のように別々の穴を並べる。1枚の穴を運悪く通り抜けても、次の層で止まります

4つを一度にやる必要はありません。効くのは1番の仕分けです。

次にミスをしたら、叱る前に「これはスリップか、思い込みか」と1問だけ立ててみてください。

判断のミス(思い込み)そのものを掘り下げたい人は見積もりはなぜいつも甘いのかも合わせてどうぞ。集中を仕組みで守る考え方は集中・生産性の歩き方にまとめています。

ミスを種類で見分けられるようになると、同じ失敗を責め続ける時間が減ります。「自分はダメだ」ではなく「ここに関所を1つ足そう」と考えられる分だけ、明日の仕事が少し軽くなります。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. ミスが起きたら「やることは合っていたか」を先に問う。合っていたのに失敗=スリップ、判断ごと外していた=思い込み
  2. スリップには、注意ではなく仕組みを当てる(送信前の確認画面・チェックリスト・持ち物の定位置)
  3. 思い込みには、確認を当てる(着手前に前提を口に出す・情報の日付を見る・詳しい人に一度見てもらう)
  4. ミスが起きたとき、まず人ではなく手順のどこに穴があったかを探す

出典・参考

  1. Reason, J. (2000) Human error: models and management. BMJ, 320(7237), 768-770.(PMC 掲載の全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Reason, J. (1990) Human Error. Cambridge University Press.(スリップ・ラプス・ミステイクの分類の原典)doi.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。