渇望は我慢より『観察』——衝動サーフィンで欲求と行動を切り離す
Habits / Research Digest

渇望は我慢より『観察』——衝動サーフィンで欲求と行動を切り離す

「食べたい」「見たい」を我慢で抑えるほど、かえって欲求に振り回される。渇望を消そうとせず、上がって下がる波として観察すると、欲求と行動のつながりがほどけていく。マインドフルネス訓練の研究をもとに、衝動サーフィンのやり方をまとめました。

残業帰りの一杯、夜更けのお菓子、寝る前のスマホ。「あと一本」「もう一口」。だめだと分かっていても、欲求が湧くと気づけば手が伸びている。

我慢で抑え込もうとすると、かえってそのことで頭がいっぱいになる。

でも、欲求そのものと戦わない道があります。消そうとせず、ただ観察して通り過ぎるのを待つ。衝動サーフィンと呼ばれる方法です。

渇望と行動は「切り離せる」——喫煙の研究から

喫煙者33人の、日々の記録を分析した研究があります。エルワフィらの2013年の報告です。全員が4週間のマインドフルネス訓練を受け、渇望と喫煙を毎日ノートに記録しました。

訓練の前は、渇望が強い日ほど本数が増えるという結びつきが、そこそこ強くありました(相関 r=0.582)。ところが訓練の後、この結びつきはぐっと弱まりました(r=0.126)。とくに、日常のすきま時間に短く実践した人ほど、弱まり方が大きかったのです(p=0.03)。

渇望が消えたわけではありません。渇望は湧いても、それが吸う行動に直結しなくなった。研究者はこれを「渇望と喫煙の切り離し(decoupling)」と表現しています。

この訓練はもともと、ブリューワーらの2011年のランダム化比較試験の一部です。喫煙者88人を、マインドフルネス訓練と、一般的な禁煙プログラムに振り分けました。訓練群のほうが本数の減りは大きく(p=0.001)、17週後の禁煙率も高いという結果でした(31%対6%、p=0.012)。

ただし対象は喫煙という依存行動で、人数も33人と多くありません。ここで見えたのは「渇望を観察する実践が、渇望と行動の結びつきを弱めることがある」という手がかりです。だれに対しても同じ結果を約束するものではありません。

「我慢」でも「置き換え」でもない、観察という第三の道

残業帰りにコンビニでつい買うお菓子、通勤電車で開くスマホ、夜に止まらないSNSの通知。日常の欲求も、渇望が湧いて行動に流れる点は同じです。

ただし今回の研究が調べたのは喫煙です。同じ原理が期待できますが、間食やスマホで直接確かめられたわけではありません。そこは差し引いて読んでください。

そのうえで、衝動サーフィンの立ち位置がはっきりします。

欲求を力で抑え込む「我慢」とは違います。抑えるほど、その欲求が頭を占めるからです。

同じきっかけに別の動作をあてがう置き換えとも違います。置き換えは動作をすり替える方法、こちらは動作を起こさず眺める方法です。

来る前に段取りでかわすif-thenの構えとも役割が分かれます。あちらが「来る前の準備」なら、衝動サーフィンは「来てしまった後の対処」です。

やることは一つ。渇望を敵とみなさず、上がって下がる波として観察する。それだけです。

波に「乗る」4ステップ

まず、渇望がどう動くかを図で見ておきます。

渇望の強さを縦軸、時間の経過を横軸にとったグラフ。渇望は湧いてから数分〜十数分でピークに達し、そこで吸う・食べるなどの行動に出ると渇望と行動が結びつく。手を出さずに観察していると、波は自分で崩れて自然に引いていくことを示した図
図1: 渇望は上がって下がる一つの波。手を出さなければ、ピークを越えて自然に引く(当サイト作成)

図のとおり、渇望は湧いてから数分〜十数分で山を越え、手を出さなければ自分で引いていきます。この波を、消そうとせず乗り切ります。

やり方は次の4つです。強い欲求が来たタイミングで、その場で行います。

  1. 手を止めて、名前をつける。 「いま渇望が来た」と心の中でつぶやきます。反応と自分のあいだに、一拍の間ができます。
  2. 体を観察する。 喉、胸、手先。どこがどうムズムズするかを10秒ほど、実況するように見ます。
  3. 強さを数字にする。 いまの渇望を10点満点で見積もります。数字にすると、渦中ではなく外から眺める視点に切り替わります。
  4. ピークを待つ。 消そうとせず、波が下がるのを待ちます。数分すれば、たいてい山を越えます。越えてから、次の行動を静かに選びます。

最初はうまく波に乗れなくて当然です。1日1回、来た欲求で練習するうちに、間の取り方がつかめてきます。観察する力そのものを伸ばすには、集中力は鍛えられるで紹介した短い瞑想が土台になります。意志に頼らず欲求とつき合うコツは、習慣づくりの柱でもいろいろな角度からまとめています。

向いていない場合・注意

ここは大切な注意です。今回の研究が扱ったのは、ニコチン依存という医療の対象になることもある状態です。日常の軽い欲求そのものを測った実験ではありません。効き方には個人差があります。

アルコールや薬物、強い喫煙依存など、健康や生活に大きく関わる渇望を、この方法だけで何とかしようとしないでください。つらさが強い時は、一人で抱え込まず、専門家や医療機関に相談する選択を持っておいてください。

衝動サーフィンは、あくまで日々の小さな欲求と付き合うための、一つの見方です。

次に「あと一口」が来たら、手を出す前に10秒だけ観察してみてください。消さなくていい。ただ、波が過ぎるのを見送るだけです。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 欲求が来たら手を止め、心の中で「いま渇望が来た」と名前をつける
  2. 喉・胸・手先など、体のどこがどうムズムズするかを10秒だけ観察する
  3. 強さを10点満点で見積もり、上がって下がる波として眺める
  4. 消そうとせず、ピークが過ぎるまで数分待ってから次の行動を選ぶ
  5. 強い依存や生活への支障がある時は、一人で抱えず専門家に相談する

出典・参考

  1. Elwafi, H. M., Witkiewitz, K., Mallik, S., Thornhill, T. A., & Brewer, J. A. (2013) Mindfulness training for smoking cessation: Moderation of the relationship between craving and cigarette use. Drug and Alcohol Dependence, 130(1-3), 222-229.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Brewer, J. A., Mallik, S., Babuscio, T. A., et al. (2011) Mindfulness training for smoking cessation: Results from a randomized controlled trial. Drug and Alcohol Dependence, 119(1-2), 72-80.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。