蛍光ペンで線を引くほど覚える、は思い込み——「引いて終わり」をやめる一手間
Learning / Research Digest

蛍光ペンで線を引くほど覚える、は思い込み——「引いて終わり」をやめる一手間

色とりどりに線を引いた教科書。勉強した達成感はあるのに、いざとなると出てこない。線引きは「引いて終わり」だと記憶にほとんど効かず、引きすぎるとむしろ要点どうしのつながりを見えにくくする、という研究レビューがあります。線を「自己テストの入口」に変える手順にまとめました。

教科書やテキストに、蛍光ペンで線を引く。大事なところが色づいて、ページがだんだん埋まっていく。

引き終えると、勉強した達成感があります。

なのに、テストや説明の場面になると、線を引いたはずのところが出てこない。

その線は、覚えた印ではなく、「見た」印なのかもしれません。

線を引いても、成績はほとんど変わらなかった

心理学者のダンロスキーらが2013年に、代表的な10の学習法を大きく見直しました。700本を超える研究を調べた大規模なまとめです。

線引き(マーカー・下線)は、いちばん評価の低い部類に入りました。原文では「驚くほど有用性が低い」と評価されています。

著者ら自身の解説には、線引きについてこう書かれています。単純で速い。しかし成績の向上には、ほとんどつながらない。

効きめの小ささは、相手を選びませんでした。空軍の訓練生でも、子どもでも、大学生でも、線引きは成績を押し上げていません。

題材も選びません。航空力学でも、古代ギリシャの学校でも、タンザニアの話でも、結果は同じでした。

そして、ここが見落とされがちな点です。線を引くことが、かえって邪魔になる場合があります。

ある研究では、教育を学ぶ大学生が下線を引くと、歴史の教科書から「推論する(書かれていないことを読み取る)」力が下がりました。

理由はこう説明されています。線引きは、一つひとつの項目に注意を集めてしまう。そのぶん、項目どうしのつながりから目がそれる、というのです。

もちろん、線引きが「効果ゼロ」というわけではありません。対象の多くは学生や実験室での課題で、効き方には個人差があります。断定ではなく、傾向として受け取るのが妥当です。

別の大規模な分析でも、向きは同じでした。2021年に242の研究・約17万人分をまとめた研究では、効果が大きいのは日を分けた復習(分散学習)と、自分でテストする練習でした。線引きは、その下のほうです。

下の図が、「引いて終わり」と「引いた線を問いに変える」の違いです。

線引きの2つの使い方を左右で比べた図。左は『線を引いて終わり』で、テキストのほとんどの行が蛍光ペンで黄色く塗りつぶされ、ページが黄色で埋まっている。下に『× 印がついただけ』とある。右は『線を入口にする』で、1〜2か所だけを黄色く引き、その線から矢印が『?(隠して思い出す)』と書かれた自己テストのカードへ伸びている。下に『○ 問いに変える』とある。下部の帯に『線を引く手は「印をつける作業」』『印を問いに変えたとき、記憶が動きだす』と結論が書かれ、引きすぎは要点を埋もれさせ、線は自己テストの入口にして初めて記憶に効くことを対比している
図1: 線を「引いて終わり」にせず、思い出す問いに変える(当サイト作成)

見てのとおり、変わるのは引く「量」と、引いた「あと」です。線そのものを、覚える作業と勘違いしないことが起点になります。

資格の勉強も、仕事のインプットも、同じ落とし穴

資格の勉強、仕事で読む資料、学生のテスト対策。どれも「テキストに線を引く」が中心になりがちです。

線を引くと、ページに色がつき、手を動かした分だけ進んだ気がします。

でも、色がついたのは紙のほう。頭の中は、まだ変わっていないかもしれません。

やっかいなのは、引きすぎるほど逆効果になりやすいことです。大学生の多くは、テキストを塗りすぎる傾向があります。

ページの大半が黄色くなると、どこが要点で、要点どうしがどうつながるのかが、かえって見えなくなります。

とはいえ、線引きそのものが悪いわけではありません。問題は、「引いて終わり」にしていることです。

研究者は、線引きを「旅の出発点」と表現しています。引いた場所を、あとで自己テストの問題や暗記カードに変えるなら、線はちゃんと役に立ちます。

線引きや読み返しが「思ったより効かない」全体像は効果が薄い学習法の一覧に、スラスラ読める感覚のワナはわかったつもりの正体にまとめました。

今日からできる「線の引き方」

道具は、いつもの蛍光ペン1本だけ。変えるのは、引く量と、引いたあとの一手間です。

  1. 線は1ページ2〜3か所まで。全部を引かない
  2. 引くのは読み終えたあと。一番大事な一文だけに絞る
  3. 引いた場所は、あとで隠して「思い出す問題」にする
  4. 章の終わりに本を閉じ、線を引いた要点を何も見ずに書き出す
  5. 同じ範囲を、数日おいてもう一度思い出す

「思い出す」を軸にした勉強法は本を閉じて思い出す勉強法に、復習の間隔のあけ方は間隔をあけた復習にまとめました。

引いた要点どうしのつながりは、「なぜそうなるのか」を声に出すと見えてきます。これは「なぜ?」で理解を深める学び方が参考になります。

線は、勉強の入口にする

最後に、ひとつだけ。

線を引いた瞬間は、まだ勉強のスタート地点です。ゴールは、その線を見ずに思い出せること。

引いて安心したくなったら、本を閉じて、いま引いた一文を口に出してみてください。出てこなければ、そこがまだ覚えていないところです。

学び方そのものを育てる話は、学びの柱でもまとめています。

まずは次のページ、線を引く前に「ここは後で自分に質問できるか」と一度考えてみてください。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 線は1ページ2〜3か所まで。全部を引かない
  2. 引くのは読み終えたあと。一番大事な一文だけに絞る
  3. 引いた場所は、あとで隠して「思い出す問題」にする
  4. 章の終わりに本を閉じ、線を引いた要点を何も見ずに書き出す
  5. 同じ範囲を、数日おいてもう一度思い出す

出典・参考

  1. Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013) Improving Students' Learning With Effective Learning Techniques. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58.psychologicalscience.org
  2. Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013) What Works, What Doesn't. Scientific American Mind, 24(4), 46-53.(上記レビューの著者自身による解説記事)wcer.wisc.edu
  3. Donoghue, G. M., & Hattie, J. A. C. (2021) A Meta-Analysis of Ten Learning Techniques. Frontiers in Education, 6, 581216.frontiersin.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。