描いて覚えると記憶に残りやすい——書き写すより思い出せる
資格や仕事の暗記で、テキストを何度書き写しても本番で出てこない。覚えたい言葉を簡単な絵にすると、書き写すより記憶に残りやすいと分かっています。大学生を対象にした実験では、描いた単語は書いた単語の約2倍思い出せました。上手さは要りません。今日から使える描いて覚えるコツを手順にまとめました。
資格の勉強で、テキストの用語を何度も書き写す。ノートのページは埋まっていきます。
なのに試験本番、肝心の言葉がどうしても出てこない。
足りないのは書いた回数ではなく、覚え方の入り口かもしれません。
覚えたいことを「簡単な絵」に描くと、書き写すより記憶に残りやすい。心理学の研究がそう示しています。
描いた単語は、書いた単語の約2倍思い出せた
この効果を確かめた研究があります。カナダの大学で行われた、ワメスらの2016年の実験です。
対象は大学生でした。実験1では、30人と25人が参加しています。
やり方はこうです。画面に「りんご」のような単語が次々と出ます。1つにつき40秒。合図に従って、その単語を簡単な絵に描くか、何度も書き写すかします。
そのあと少し時間をおいて、何も見ずに思い出せる単語を書き出しました(自由再生テスト)。
結果は、はっきりしていました。描いた単語のほうが、書いた単語の約2倍も思い出せたのです。
下の図が、その差です。
見てのとおり、同じ40秒でも、描いたほうが残った量は大きい。
この研究は7つの実験を重ねています。描く時間を4秒に削っても、覚える単語を増やしても、描く強みは消えませんでした。
「描く」は「書き写す」とも「図を見る」とも違う
気をつけたいのは、これが二つの似た話と別ものだという点です。
一つは、手書きノート。手で書くこと自体は学びを助けます。ただしこの研究が比べたのは、その中の「書き写し」と「描く」で、勝ったのは描くほうでした。
もう一つは、言葉に図を添える二重符号化。こちらは教科書の図など、できあいの図を見て使う話です。
描いて覚える効果の核は、そこにありません。自分の手で、ゼロから描いて作り出す。ここが違います。
同じ研究では、用意された絵を「見る」より、頭の中で「思い浮かべる」より、自分で「描く」ほうが強く残りました。
なぜ描くと残るのか
描く動作には、3つの作業が同時に入ります。
言葉の意味を考える。形をイメージする。手を動かして線を引く。この3つが一度に、一つの記憶へ束ねられます。
書き写しは、目でなぞって手を動かすだけ。意味を考えなくても進みます。ここが分かれ目です。
しかも、絵の上手さは関係ありません。
同じ研究チームの2018年の総説では、画力や「絵を思い浮かべる力」の差と、成績のあいだに目立った関係は見られませんでした。線が下手でも、記号のような絵でも効きます。
目的は作品ではなく、思い出す手がかりだからです。
今日から試す「1語1スケッチ」
やり方はかんたんです。上手に描く必要はありません。
- 覚えたい用語を1つ選ぶ(所要10秒)
- 本を閉じ、その意味を表す簡単な絵を1つ描く(30秒〜1分)
- 棒人間・丸・矢印だけでいい。関係やしくみを線でつなぐ
- 描き終えたら、その絵を見ずにもう一度描けるか試す
- 次の日に、何も見ずに同じ絵を思い出して描く
コツは、抽象的な言葉を「たとえ話の絵」にすることです。
「需要と供給」なら、両側から引っぱり合う2本の手。「複利」なら、転がって大きくなる雪だるま。意味を一度かみくだくほど、記憶に残ります。
ただし、限界もあります。研究で使われたのは「りんご」のような描きやすい単語が中心で、テストも学習の直後が多めでした。長く抽象的な文章にそのまま効くかは、まだ分かっていない部分があります。
それでも、入り口は今日つくれます。まずは1語だけ、意味を絵にしてみてください。
「覚えられない」の多くは、記憶力ではなく覚え方の問題です。学び方そのものを鍛える話は、学びの柱でも続けています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 覚えたい用語を1つ選ぶ(所要10秒)
- 本を閉じ、その意味を表す簡単な絵を1つ描く(30秒〜1分)
- 棒人間・丸・矢印だけでいい。関係やしくみを線でつなぐ
- 描き終えたら、その絵を見ずにもう一度描けるか試す
- 次の日に、何も見ずに同じ絵を思い出して描く
出典・参考
- Wammes JD, Meade ME, Fernandes MA (2016) The drawing effect. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69(9), 1752-1776 — 7つの自由再生実験で、描いた単語は書いた単語より確実に多く思い出せた(PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Wammes JD (2017) On the mnemonic benefits of drawing(博士論文・上記2016年研究の全文)— 実験1は大学生30人と25人、1語40秒、描いた語は書いた語の約2倍を自由再生uwspace.uwaterloo.ca
- Fernandes MA, Wammes JD, Meade ME (2018) The Surprisingly Powerful Influence of Drawing on Memory. Current Directions in Psychological Science, 27(5), 302-308 — 描く効果は再現性が高く、意味・映像・手の動きの符号統合で説明。画力とは無相関(総説・全文PDF)hsredesign.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。