引っ越し・転職の直後は、古い習慣がほどける—環境の変化を使う「習慣の断絶」
強い意志で習慣を変えようとして、いつも失敗する。実は引っ越しや転職で環境が変わると、古い習慣の引き金が消え、行動を選び直しやすくなると研究は示します。この「習慣の断絶」を、新生活の切り替え期に使う方法をまとめました。
ジムの会費を払ったのに、3日で足が向かなくなった。早起きも、家計簿も、いつも同じように続かない。
「自分は意志が弱いんだ」。そう自分を責めた経験は、ないでしょうか。
でも、思い出してみてください。引っ越しや転職をした直後は、前のダラけた習慣が、なぜか自然に消えていたはずです。
その「環境の変化」こそ、習慣を入れ替える好機だと研究は示しています。
研究が示すこと
習慣は「やる気」で動くのではありません。場所や時間、周りの人といった手がかりが引き金になります。
いつもの環境にいる限り、その手がかりが自動で古い行動を呼び出します。だから意志で止めようとしても、なかなか変わりません。
ここで役立つ研究が2つあります。順に見ていきます。
ひとつ目は、2005年に報告された研究です。掲載誌は『Journal of Personality and Social Psychology』(第88巻6号)。心理学の代表的な学術誌です。
ウッドらは、別の大学へ移る学生に注目しました。運動・新聞を読む・テレビを見るという3つの行動を調べます。
測ったのは、転校の1か月前と1か月後です。環境が変わる前後で、習慣がどうなるかを追いました。
分かったのは、こうです。習慣が転校後も続いたのは、行動する状況が変わらなかった時だけでした。
たとえば、前と同じように誰かと新聞を読む人は、その習慣を保ちました。逆に状況が変わると、習慣はほどけていきます。
しかも、いったん習慣が崩れると、行動は「その時の意図」に沿って動きやすくなりました。手がかりが消え、選び直す余地が生まれたのです。
見てのとおり、変化の直後は古い手がかりが消え、行動を選び直しやすくなります。
ふたつ目は、この考えを実際の生活で試した研究です。2016年、『Journal of Environmental Psychology』第45巻127〜134ページの報告です。
ヴァープランケンとロイは、住民800人を対象に実験をしました。半分は最近引っ越した人、残りは引っ越していない人です。
環境にやさしい行動をうながす案内を配り、8週間後に行動の変化を見ます。案内を受けない対照群とも比べました。
結果、案内が効いたのは、最近引っ越した人たちでした。しかもその効きやすさは、引っ越しからおよそ3か月の間に見られました。
環境が変わった直後には、新しい行動を受け入れる「窓」が開く。それを実際のデータが支えたわけです。
ここで限界も押さえます。ウッドの研究は自己申告に頼る調査で、人を無作為に引っ越させた実験ではありません。
ヴァープランケンらの研究も、対象は主に環境配慮の行動です。すべての習慣に同じだけ効くとは限りません。効き方には個人差があります。
変化の波は、暮らしの節目に来る
環境が大きく変わる時は、暮らしの中に何度も来ます。
引っ越し、転職、進学、部署の異動。どれも、いつもの手がかりがまとめて入れ替わる瞬間です。
たとえば引っ越し。新しい部屋には、前の習慣を呼び出すいつもの配置がありません。この隙に、始めたい行動を組み込みます。
転職も同じです。通勤路も昼休みの過ごし方も白紙になります。「昼は同僚とではなく一人で歩く」など、新しい型をここで置けます。
4月の新年度や部署異動も、周りの人と一日の流れが変わる節目です。古いパターンが薄れる、またとない切り替え期です。
ここで大事なのは、切り口を取り違えないことです。カレンダー上の区切りでやる気が上がる話はフレッシュスタート効果で扱いました。
今回はそれとは別です。物理的に環境が変わり、古い習慣の引き金そのものが消える。だから入れ替えやすい、という話です。
今日から試す手順
これから来る変化を、行き当たりばったりで迎えないための手順です。
- 引っ越し・転職・進学など、近いうちに来る変化を1つ書き出す。まだ予定がなければ、次の異動や新年度でかまいません
- その変化の直後を「習慣の入れ替え期間」と、先に決めておく。目安は変化からの数か月です
- 新しい環境で始めたい行動を、1つだけ選ぶ。あれもこれもと欲張らず、まずは1つに絞ります
- 新居や新しい職場では、家具・道具・アプリの配置を前とわざと変える。古い手がかりを、意図して残さないためです
- 始めた行動は、その場の合図に結びつけて固定する。やり方はif-thenプランニングが助けになります
変化の直後は、意志の力ではなく状況の力が働きます。古い習慣が勝手にほどける、その隙間を使うだけです。
変化がない時期は、環境を自分で動かす
とはいえ、引っ越しや転職は毎年あるものではありません。
大きな変化を待てない時は、身の回りの環境を自分で少し動かす手があります。物の配置や引き金を変え、古い手がかりを外していきます。
その具体的なやり方は環境設計で悪習慣を断つにまとめました。習慣を仕組みで支える考え方は習慣化の歩き方でも扱っています。
次に環境が変わる時が来たら、思い出してください。それは、面倒な引っ越し作業であると同時に、習慣を入れ替える数少ない好機です。
始めたい行動を1つだけ決めて、新しい環境にそっと置いてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 引っ越し・転職・進学など変化の予定を1つ書く
- 変化の直後を「入れ替え期間」と先に決める
- 新しい環境で始めたい行動を1つだけ選ぶ
- 新居では家具やアプリの配置を前と変える
出典・参考
- Wood, W., Tam, L., & Guerrero Witt, M. (2005) Changing circumstances, disrupting habits. Journal of Personality and Social Psychology, 88(6), 918-933.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Verplanken, B., & Roy, D. (2016) Empowering interventions to promote sustainable lifestyles: Testing the habit discontinuity hypothesis in a field experiment. Journal of Environmental Psychology, 45, 127-134.researchportal.bath.ac.uk
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。