覚えたつもりが本番で出てこない——「あとで人に教える」と思って読むだけで残り方が変わる
Learning / Research Digest

覚えたつもりが本番で出てこない——「あとで人に教える」と思って読むだけで残り方が変わる

テストのために読むと、内容が断片のまま抜けていく。同じ文章でも「あとで誰かに教える」と思って読むと、要点を軸に整理されて残りやすくなります。学習心理学の研究をもとに、教えるつもりで学ぶ勉強法を今日から試せる手順にまとめました。

参考書を最後まで読んで、内容は頭に入った気がする。ところが試験本番になると、覚えたはずの答えが出てこない。

読む時間は足りていたはずなのに、なぜ抜けてしまうのか。

原因は読む量ではなく、読むときの心構えかもしれません。同じ文章でも「あとで人に教える」と思って読むと、残り方が変わってきます。

「教えるつもり」で読むと、よく残る

心理学者のネストイコらのグループが、2014年に学習の実験を行いました。

大学生を2つのグループに分けます。同じ文章を渡し、一方には「あとで別の学生に教える準備」として、もう一方には「あとでテストを受ける準備」として読ませました。

実際には、全員がテストを受けます。教えた人は1人もいません。心構えだけを変えた実験です。

実験1では、56人が約1,500語の文章を10分読みました。すると教えるつもりの群のほうが、思い出せた量が多く、内容も要点ごとに整理されていた、と報告されています。

短い記述式のテストでも、教えるつもりの群のほうが成績が良い傾向でした。続く実験2(44人)でも、文章の要点を問う設問で教える群が有利でした。

ここで気をつけたいのは、これが実験室での平均的な傾向だという点です。対象はアメリカの大学生、教材は短い文章でした。効果には個人差があり、断定ではなく「そういう傾向がある」として受け取るのが妥当です。

下の図が、2つの心構えで読んだときの、頭の中の違いです。

同じ文章を2つの心構えで読んだときの頭の中を比べた図。左は「テストのために読む」で、事実A・B・C・Dの4つの箱が線でつながらずバラバラに散らばっている様子。右は「教えるつもりで読む」で、頂点に『要点』の箱があり、そこから理由・具体例・つながりの3つの箱へ線が下りて整理された構造になっている様子を示している
図1: テスト目的だと断片で残り、教えるつもりだと要点を軸に整理される(当サイト作成)

見てのとおり、違いは知識が散らばったままか、要点を軸に組み上がるかです。

なぜ、渡すつもりだと組み立つのか

人に教えるには、全部を丸ごと渡すわけにいきません。

まず「何がいちばん大事か」を決める。次に、それをどんな順で、どんな例で伝えるかを組む。読みながら、頭が自然にこの作業を始めます。

テストのために読むときは、答えになりそうな断片を拾って終わりがちです。要点を選ぶ手前で止まってしまう。

教える相手を思い浮かべた研究は、ほかにもあります。チェイスらは2009年、教える相手役のキャラクターを使った学習で、子どもたちがどう変わるかを調べました。

対象は小学5年生と中学2年生。相手役に教えるつもりで取り組んだ子は、学習に長く時間をかけ、成績もよく伸びた、と報告されています。もともと成績が低めの子ほど、変化が大きかったといいます。

この「教える側になると学びが深まる」現象は、プロテジェ効果と呼ばれています。

会社員でも学生でも使える

資格の勉強をしている会社員を思い浮かべてください。テキストを開く前に、こう決めるだけです。「これは、あとで後輩に説明する」。

読み方が変わります。線を引く場所より、「まず何を伝えるか」を探しながら読むようになります。

技術書を読む個人開発者も、教科書に向かう学生も同じです。実際に教える相手は、いなくてかまいません。頭の中に「聞き手」を1人置くだけで十分です。

一つ注意点があります。要点を選ぶには、ある程度その分野の土台がいります。まったくの入門段階では、まず基本をひと通り読んでから試すと、詰まりにくくなります。

今日から試す「教えるつもり読書」

やり方はかんたんです。道具もいりません。

  1. 読む前に「あとで誰かに教える」と一度決める(所要5秒)
  2. ひと区切り読んだら、要点を1つ選ぶ
  3. その要点を、声に出して30秒教えてみる(理由と具体例を1つずつ添える)
  4. うまく教えられない所に印をつけ、そこだけ読み直す

コツは、すらすら言える所ではなく、口ごもる所を探すことです。教えられない場所が、まだ分かっていない場所です。

全部の項目でやる必要はありません。今日は1つの要点を、誰かに教えるつもりで声に出すところから始めてください。

思い出す力そのものを鍛える発想は、本を閉じて思い出す勉強法にまとめました。「なぜ?」を自分に問う近い方法は、自分の言葉で説明する学び方が参考になります。学び方を育てる話は、学びの柱でも扱っています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 読む前に「あとで誰かに教える」と一度決めてから読み始める
  2. ひと区切り読んだら要点を1つ選び、口頭で30秒教えてみる
  3. 教えるつもりで、理由と具体例を1つずつ言い添える
  4. うまく教えられない所に印をつけ、そこだけ読み直す

出典・参考

  1. Nestojko, J. F., Bui, D. C., Kornell, N., & Bjork, E. L. (2014) Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages. Memory & Cognition, 42(7), 1038-1048.profiles.wustl.edu
  2. Chase, C. C., Chin, D. B., Oppezzo, M. A., & Schwartz, D. L. (2009) Teachable Agents and the Protégé Effect: Increasing the Effort towards Learning. Journal of Science Education and Technology, 18(4), 334-352.eric.ed.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。