覚えることが多すぎて頭に入らない——情報は「意味の塊」にまとめると残る
8桁の確認コードも、初めての電話番号も、覚えたそばから抜けていく。原因は記憶力ではなく、覚える単位の多さかもしれません。人が一度に扱える情報の数はもともと少ない、という研究をもとに、バラバラの情報を意味の塊にまとめて覚える手順にまとめました。
新しいサービスの登録で、8桁の確認コードが届く。入力画面に切り替えた数秒で、もう思い出せない。
電話番号、宅配の問い合わせ番号、初めての住所。覚えることが一度に増えると、頭からこぼれていきます。
これは記憶力のせいではありません。人が一度に扱える情報の数は、もともとかなり少ないのです。
一度に覚えられるのは、意外と少ない
心理学者のミラーが1956年に有名な論文を出しました。題は「マジカルナンバー7±2」です。
人が一度に思い出せる情報は、だいたい7個前後。多くて9個、少なければ5個ほどだと報告しました。
数字でも単語でも、この「7前後」の壁はあまり変わりません。桁数の多い番号が覚えにくいのは、この上限を超えるからです。
その後、研究はさらに進みます。2001年、カウワンという研究者が、もっと厳しい条件で数え直しました。
頭の中で復唱したり語呂で補ったりするのを止めると、素で保てる数は4個前後まで下がる、と報告しています。
つまり、何もしなければ一度に扱えるのは4〜7個ほど。ここは実験室での平均的な傾向で、個人差もあります。断定ではなく、目安として受け取るのが妥当です。
バラバラだと入らない。「意味の塊」にまとめる
ここで鍵になるのが「チャンク化」です。バラバラの情報を、意味のあるまとまりに束ねる方法です。
ミラー自身も、この束ね直しを解決策として挙げていました。覚える「単位」を減らせば、同じ上限でも中身を増やせるからです。
例を見てみます。「09012345678」という11桁。1桁ずつだと覚える単位は11個で、上限を超えます。
でも「090・1234・5678」と区切れば、単位は3個です。電話番号を無理なく覚えられるのは、はじめから塊で見ているからです。
この束ね方を極端まで鍛えた実験があります。エリクソンらが1980年に報告したものです。
ごくふつうの大学生が、数字の記憶を練習しました。数字を「陸上の記録タイム」の形に置き換えて、塊にしていったのです。
「3492」なら「3分49.2秒、マイル走の世界記録なみ」という具合です。この工夫を続けた結果、一度に覚えられる数字は7個から79個まで伸びました。
ただし、ここまでには230時間を超える練習がかかっています。塊にする発想が効くとしても、桁外れの量は一朝一夕ではありません。
日本の暮らしでの使い方
チャンク化は、特別な訓練がなくても今日から使えます。じつは私たちは、無意識にもう使っています。
郵便番号を「123-4567」と3桁と4桁で見る。カード番号を4桁ずつ読む。どれも塊にする工夫です。
覚えにくいものは、自分で区切りを作ります。会議のパスワードや口座番号なら、3〜4文字ずつに切って、語呂や見慣れた並びに変える。
買い物リストも同じです。「牛乳・卵・パン・バター」を「朝食セット」とひとまとめにすれば、覚える単位が4個から1個に減ります。
手順の丸暗記にも効きます。長い操作を「準備・実行・確認」の3段階に束ねると、順番が頭に残りやすくなります。
今日から試す「3〜4個で区切る」覚え方
やり方はシンプルです。覚えたいものを、意味のあるまとまりに切るだけです。
- 覚えたい数字や文字を、3〜4個ずつに区切る(電話番号を3ブロックで見る要領)
- 区切りに意味やイメージを足す(語呂・年号・見慣れた並びに変える)
- 一度に扱う塊は4つ前後まで。多ければ、塊をさらに上のまとまりに束ねる
- 何も見ずに、塊ごとに口へ出して思い出す
- 翌日にもう一度、同じ区切りで思い出して抜けを埋める
覚えた塊を思い出す練習を挟むと、定着はさらに強くなります。やり方は思い出す練習が参考になります。
向かない場面と、覚えておきたい限界
チャンク化にも苦手があります。まず、意味の区切りが見つけにくいものです。
でたらめな記号の羅列や、初めて見る外国語の単語は、束ねる手がかりが少なく、塊を作る一手間がかかります。
このやり方で数字を79個まで覚えた大学生も、アルファベットの記憶は6個ほどのままでした。ある分野で作った塊の技は、別の分野へそのまま移らないのです。
もう一つ。塊にする工夫そのものに、少し頭を使います。慣れるまでは、ふつうに覚えるより手間に感じるかもしれません。
それでも、覚える「単位」を減らす発想は、多くの場面で効きます。
「覚えることが多すぎる」と感じたら、量を減らす前に、区切り方を変えてみてください。
11個の数字も、3つの塊なら手に負えます。同じ頭のまま、扱える量が変わります。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 覚えたい数字や文字を、3〜4個ずつに区切る
- 区切りに意味やイメージを足す(語呂・年号など)
- 一度に扱う塊は4つ前後まで。多ければ上のまとまりに束ねる
- 何も見ずに、塊ごとに口へ出して思い出す
- 翌日にもう一度、同じ区切りで抜けを埋める
出典・参考
- Miller, G. A. (1956) The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information. Psychological Review, 63(2), 81-97 — 一度に思い出せる情報はおよそ7±2個。小さな単位を意味のある塊に束ね直す(recoding)ことで実質的に扱える量が増えると論じた原典(全文)psychclassics.yorku.ca
- Cowan, N. (2001) The magical number 4 in short-term memory: a reconsideration of mental storage capacity. Behavioral and Brain Sciences, 24(1), 87-114 — 復唱や語呂による補いを止めると、素の状態で保てるのは平均約4個の塊だと報告(PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Ericsson, K. A., Chase, W. G. & Faloon, S. (1980) Acquisition of a memory skill. Science, 208(4448), 1181-1182 — ふつうの大学生が数字を陸上の記録タイムの塊に置き換える練習で、一度に覚えられる数字を7個から79個へ伸ばした(230時間超の練習。PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。