時間の見積もりが甘いのを直す——『過去の実績』で測る
仕事の時間見積もりが毎回甘くなるのはなぜか。研究は、人が過去の実績ではなく頭の中の段取りで測るからだと示します。鉄道の予測や卒論の実験を手がかりに、過去の実際の所要時間から見積もる『外側の視点』の使い方をまとめました。
金曜に終わるはずの資料が、月曜の朝もまだ途中でした。見積もったときは、2日あれば足りると思っていた。
見積もりの甘さは、やる気や段取りの問題に見えます。でも手前にある原因は、見積もりの「作り方」のほうです。
頭の中で手順を一つずつ並べて、「これくらい」と足していく。この自然なやり方そのものが、時間を短く見せます。
なぜ段取りを数えると甘くなるのか
1994年、ビューラーらの実験があります。心理学部で卒業論文を書く4年生37人に、論文がいつ終わるかを予想してもらいました。
「最もありそうな完成日」の予想は、平均で33.9日後。ところが実際に終わったのは、平均55.5日後でした。3週間以上のずれです。
「すべて順調にいけば」の予想(平均27.4日)までに書き終えられた人は、1割ほどにとどまりました。多くが、自分に都合のよい筋書きで時間を測っていたことになります。
この「自分の作業を短く見積もる」傾向は「計画錯誤(planning fallacy)」と呼ばれます。人は見積もるとき、過去に似た作業がどれだけかかったかよりも、これからの段取りに目を向けると、研究チームは説明しました。
ただし対象は、卒論という一度きりの大きな課題に取り組む学生です。日々の業務にそのまま当てはまる数字ではなく、傾向として受け取ってください。計画錯誤のしくみは見積もりが甘くなる心理でくわしく扱っています。
「外側の視点」で測るという考え方
では、どう測ればいいのか。手がかりが、大きな事業の世界にあります。
フリウビヤ(2006)は、鉄道や道路などインフラ事業の予測を大量に集めました。コストの予測は、鉄道で平均+44.7%、道路で+20.4%ずれていました。しかもこの精度は、70年間ほとんど改善していません。
プロが何十年かけても、案件の中身を積み上げる見方では当たらない。そこで彼が勧めたのが「外側の視点(outside view)」です。
やり方は単純です。目の前の案件の中身を数えるのをいったん止め、似た過去の案件が実際どうなったかの分布を見る。その分布の中に、今回を置きます。
もとになっているのは、カーネマンらの計画錯誤の研究です。インフラの数字そのものは個人の仕事には使えませんが、「自分の段取りより、似た実例の実績を信じる」という発想は、机の上の仕事にも持ち込めます。
2つの測り方のちがい
左のように段取りを積み上げると、うまくいく前提の時間が並びます。右のように過去の実績を並べると、つまずいた回も自然に入ります。土台にする数字が変わる、というのがこの手法の芯です。
自分の仕事に落とす手順
外側の視点を、毎日の見積もりに移します。特別な道具はいりません。
- 似た仕事を3つ思い出す(1分)。今回と近い作業が、前は実際どれだけかかったか。「予定」ではなく「実際」の時間を拾います
- 幅の、真ん中より少し上を取る。3つが2日・3日・5日なら、今回は3〜4日に置く。いちばん早かった2日に引っ張られないようにします
- 「今回は特別」と思ったら、一度止まる。前の見積もりのときも、同じ期待を持っていたはずです。その分を少し割り引きます
- 実績が思い出せないなら、今日から記録する。作業の開始と終了の時刻をメモするだけ。それが次回の参照先になります
記録そのものが見積もりの材料になります。手ざわりは記録するだけで行動が変わるの考え方と同じで、過去の自分のデータを味方につける発想です。
うまくいかないときと、この方法の限界
効きにくい場面もあります。
- 前例がない仕事 → 参照する実績がなく、分布を作れません。調べ物・資料づくり・打ち合わせなど、見覚えのある部分に分解して、部分ごとに実績を当てます
- 毎回ちがう仕事に見える → 人は目の前の案件を「特別」と感じがちです。フリウビヤは、外側の視点が最も効くのは初めて手がける非定型の案件だと述べています。ただし、そうした案件ほど実例が少なく、個人の仕事では参照できる実績がそろわないこともあります
そして、これは精度を保証する魔法ではありません。研究が示したのは大規模事業や学生の課題での傾向で、あなたの業務で何%良くなるとは誰にも言えません。できるのは、見積もりの出発点を願望から実績へ移すことです。
今日の最初の一歩
次に時間を見積もる場面が来たら、手を動かす前に一つだけ試してください。
「この種の仕事、前は実際どれくらいかかった?」と自分に聞く。思い出せなければ、いま取りかかる仕事の開始時刻をメモするところから始めます。
中断が見積もりを崩すしくみはわずかな中断がミスを生む、作業の切り替えで失う時間はタスク切り替えの代償で扱っています。集中を保つほかの工夫は集中の歩き方からどうぞ。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 見積もる前に、似た仕事が前に何日かかったかを3つ思い出す
- 思い出せないときは、作業の開始と終了の時刻を今日から記録する
- 見積もりは過去実績の幅の『真ん中より少し上』に置く
- 『今回は特別うまくいく』と思ったら、前も同じく思ったと考えて割り引く
出典・参考
- Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994) Exploring the "planning fallacy": Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366-381.(卒論の完成予測が平均33.9日に対し実際は平均55.5日と、自分の作業時間を短く見積もると報告)bear.warrington.ufl.edu
- Flyvbjerg, B. (2006) From Nobel Prize to Project Management: Getting Risks Right. Project Management Journal, 37(3), 5-15.(内側の視点ではなく過去の類似案件の分布で予測する『参照クラス予測=外側の視点』を提唱。インフラ事業のコスト予測が鉄道で平均+44.7%ずれると報告)arxiv.org
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。