見積もりはなぜいつも甘いのか——計画錯誤という誰にでもあるクセ
Focus / Research Digest

見積もりはなぜいつも甘いのか——計画錯誤という誰にでもあるクセ

「この資料、1時間で終わる」が半日かかる。締切前に限って予定が押す。見積もりが甘くなるのは段取りが下手だからではなく、計画錯誤という誰にでもある思考のクセです。作業を分けて見積もる・過去の実績を基準にするなど、今日から狂いを減らすコツをまとめました。

「この資料、1時間で終わります」。そう見積もって手をつけたのに、気づけば半日が過ぎていた。

締切のある予定ほど、なぜか後ろへ後ろへずれていく。

見積もりが甘くなるのは、段取りが下手だからではありません。人の頭には、時間を短く見積もるクセが組み込まれています。

この記事は、そのクセ(計画錯誤)の正体と、今日から狂いを減らすコツをまとめたものです。

見積もりは「最悪の想定」より甘い

心理学者のビューラー、グリフィン、ロスは1994年、この見積もりの甘さを実験で確かめました。掲載誌は Journal of Personality and Social Psychology です。

心理学を学ぶ大学生に、卒業論文をいつ書き終えるか予測してもらいました。

「すべて順調にいけば」の楽観シナリオは平均27.4日。「すべてが最悪なら」の悲観シナリオでも、平均48.6日でした。

ところが実際にかかったのは、平均55.5日。いちばん悲観的な見積もりすら、現実に届いていません

予測どおりに書き終えた学生は、およそ3割だけでした。

下の図が、その見積もりと実際のズレです。

卒論にかかった日数を、学生の楽観シナリオ・悲観シナリオの見積もりと、実際にかかった日数で比べた横棒グラフ。楽観の見積もりは平均27.4日、悲観の見積もりでも平均48.6日だが、実際には平均55.5日かかった。いちばん悲観的な見積もりの棒すら、実際の55.5日を示す赤い線の手前で止まっている。
図1: 楽観も悲観も、実際の日数より手前で止まっている(当サイト作成)

見てのとおり、楽観も悲観も、実際の日数より手前で止まっています。最悪を想定したつもりでも、まだ甘い。

おもしろいのは、この甘さが自分の作業のときだけ出ることです。同じ課題でも、他人にかかる時間を見積もると、ここまで楽観的にはなりませんでした。

研究チームの説明はこうです。自分事だと「うまくいく筋書き」を思い描き、過去に似た作業で手間取った経験を脇に置いてしまう。

ここで一つ注意です。これは大学生の卒論という特定の課題での結果で、数字はそのまま自分の仕事に当てはまるわけではありません。断定ではなく、目安として受け取ってください。

「1時間で終わる」がなぜ狂うのか

研究の舞台は卒論ですが、仕組みは平日の仕事でも同じです。

「この資料、1時間で終わる」と見積もるとき、頭の中では最短ルートだけが再生されています。

実際には、途中で参考資料を探し、体裁を整え、差し戻しが入り、メールに呼ばれる。この寄り道が、見積もりから抜け落ちます。

しかも作業を行き来すること自体にも、見えない時間がかかります(この仕組みはマルチタスクは速くないで扱っています)。

だから直し方も根性ではありません。抜け落ちる寄り道を、先に見積もりへ組み込むだけです。

今日からできる、見積もりの3つのコツ

見積もりは、勘ではなく手順で立てます。今日から試せる3つを挙げます。

  1. 作業を細かく分けて見積もる。 ひとかたまりで「半日」と見ず、「資料集め30分・下書き40分・体裁20分」と分けて足す。作業を部品に分けて見積もると、予測が現実に近づくと報告されています(Kruger & Evans 2004)
  2. 過去の「実際にかかった時間」を基準にする。 これから頑張る自分ではなく、前に似た作業で本当に何時間かかったかを思い出す。他人の見積もりが甘くなりにくいのは、あなたの実績を冷静に見ているからです
  3. バッファを持つ。 分けて足した合計に、さらに2〜3割を上乗せしておく。想定外は「たまに」ではなく「毎回」起きる前提で置いておきます

3つを一度に完璧にやる必要はありません。効くのは1番です。

次に「1時間で終わる」と思ったら、その作業を3つに分けて、それぞれに時間をつけてみてください。

見積もった時間を守る仕掛けは締切は自分で細かく刻むも合わせてどうぞ。集中を仕組みで守る考え方は集中・生産性の歩き方にまとめています。

見積もりのズレが縮むほど、一日の予定は現実の形に近づきます。夕方に「今日も終わらなかった」とため息をつく回数が、少しずつ減っていきます。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 「1時間で終わる」と思った作業を、3つ以上の小さな工程に分けて、それぞれに時間をつける
  2. その作業に前回いちばん近いものが、実際に何時間かかったかを思い出して基準にする
  3. 分けて足した合計に、さらに2〜3割のバッファを上乗せする
  4. 終わったあとに、見積もりと実際の差を一度だけメモして次に使う

出典・参考

  1. Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994) Exploring the "Planning Fallacy": Why People Underestimate Their Task Completion Times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366-381.(MIT 掲載の全文PDF)web.mit.edu
  2. Kruger, J. & Evans, M. (2004) If you don't want to be late, enumerate: Unpacking reduces the planning fallacy. Journal of Experimental Social Psychology, 40(5), 586-598.doi.org

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。