忙しいときほど時間の感覚が狂う——見積もりが甘くなるもう1つの理由
Focus / Research Digest

忙しいときほど時間の感覚が狂う——見積もりが甘くなるもう1つの理由

忙しいときに「まだ10分くらい」と思ったら30分たっていた。117件の実験をまとめたメタ分析は、頭を使う作業が重いほど、時間を測っている最中は経過が短く感じられやすいと示しています。研究の範囲と、時計に頼る具体的な対策をまとめました。

「この資料は30分で仕上げよう」と時計を気にしながら書き進めて、そろそろ30分かなと顔を上げたら、もう45分たっていた。そんな経験はないでしょうか。

頭の中ではまだ30分。でも実際は45分。つまり、経った時間を実際より短く感じていたことになります。

これは気のゆるみのせいではありません。考えることが多い、作業が難しい、いくつものことに同時に気を配っている。そんなふうに頭が忙しいときほど、時間を短く感じやすいことが、心理学の研究で分かっています。

この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて紹介します。そのあとで、日常で試せる対策をまとめます。

先に要点

  • 時間を気にしながら作業していると、頭が忙しいほど、経った時間を短く感じる
  • 時間を気にしていなかった場合は、あとで思い返したときに、逆に少し長く感じることがある。ただしこれは、途中で何度も中断が入ったときや、1分以上の時間で見られた小さな傾向
  • 暗算をしながら頭の中で時間を数えると、暗算の成績が落ちた、という実験もある
  • 研究で調べられているのは主に数秒から数十秒の短い時間で、時計やタイマーを使う対策そのものは試されていない。ただ、結果から考えると、時間は自分の感覚より時計に任せたほうがよさそう

117件の実験をまとめて見直した研究

中心になるのは、アメリカとイスラエルの心理学者3人が2010年に発表した論文です。1906年から積み重なってきた時間の感じ方の実験117件を集めて、「頭が忙しいと時間の感じ方はどう変わるのか」を、まとめて見直しました。1つの実験だけでは偶然の結果もありえますが、数多くの実験を並べると、全体としての傾向が見えてきます。

この研究では、実験を2種類に分けて比べています。

  • 時間を気にしながら作業する実験:参加者は最初に「作業が終わったら、どれくらい時間が経ったか答えてもらいます」と言われている
  • 時間を気にしていない実験:参加者は何も知らされずに作業をして、終わってから急に「さっきの作業、どれくらいの時間だったと思いますか」と聞かれる

仕事でいえば、前者は「30分で仕上げよう」と時間を意識しながら進めている状態です。後者は、時間のことは考えずに作業して、あとで「さっきのあれ、どのくらいかかったっけ」と思い返す状態に近いでしょう。

頭の忙しさと時間の感じ方の関係を表した図。時間を気にしながら作業する実験では、頭が忙しいほど短く感じ、時間を気にしていない実験では、頭が忙しかったほど長く思い出されていた
時間を気にしている実験と、気にしていない実験では、ずれの向きが逆だった(それぞれ別の実験・別の参加者の結果で、同じ人が両方を体験したわけではない)

時間を気にしながら作業すると、頭が忙しいほど短く感じる

時間を気にしながら作業する実験では、頭が忙しいほど、経った時間を実際より短く感じていました。差ははっきり出ていましたが、極端に大きいというほどではありません。

とくに差がはっきりしたのは、次のような作業です。

  • 見たり聞いたりするだけでなく、自分で答えを出したりボタンを押したりする作業
  • いくつものことに同時に気を配る作業(たとえば、画面の2か所を同時に見張る)
  • 難しい作業

難しさの違いでいうと、実際の時間を100としたとき、難しい作業をしていた人は約78、簡単な作業をしていた人は約90と答えていました。どちらも実際より短く感じていますが、難しいほうがずれが大きかったわけです。

研究者たちは、こう考えています。人が一度に向けられる注意には限りがある。作業に注意を取られるほど、時間のほうには注意が向かなくなる。だから、経った時間を少なく見積もってしまう。

時間を気にしていないと、あとで逆に長く思い出すことがある

時間を気にしていない実験では、向きが逆でした。頭が忙しかった時間ほど、あとで少し長く思い出されていたのです。ただ、こちらの差は小さなものでした。

しかもこの傾向は、いつも出るわけではありません。作業の途中で中断が入るなどして時間が区切られた場合や、1分以上の時間の場合に見られたものです。1分に満たない短い時間では、差は見られませんでした。

研究者たちによると、あとで思い出せる出来事が多いほど、その時間は長く感じられるそうです。

ここからは研究の結果ではなく、私たちの推測です。電話や声かけで何度も手が止まった日は、夜に振り返ると「長い一日だった」と感じやすいのかもしれません。ただ、実験で扱ったのは数秒から数分ほどの短い時間が中心です。それに、「最中は短く感じる」のは時間を気にしていた場合の結果で、「あとで長く思い出す」のは気にしていなかった場合の結果です。2つは別々の実験から出たもので、同じ一日に両方が起きると研究が示したわけではありません。

頭の中で時間を数えると、考える作業がはかどらない

もう1つ紹介したいのが、アメリカの心理学者が1997年に発表した実験です。

参加者は「2秒経った」「5秒経った」と思ったところでボタンを押します。時計を見ずに、頭の中だけで時間を数えるわけです。それと同時に、別の作業もしてもらいました。画面上を動く的を追いかける、たくさんの記号の中から決められたものを探す、暗算をする、のどれかです。どの作業にも、簡単な版と難しい版がありました。

結果はこうでした。

  • 別の作業をしながらだと、ボタンを押すのが本来より遅くなったり、毎回ばらついたりした
  • 同時にする作業が難しいほど、そのずれは大きくなった
  • 暗算は、時間を数えながらだと成績が落ちた。一方、的を追う作業と記号を探す作業は、ほとんど影響を受けなかった

「5秒経った」と思って押したのが実際には5秒より後だった、ということは、頭の中の時計がゆっくり進んでいたということです。2010年の研究と同じく、時間を短く感じていたことになります。

最後の結果は、時間を数えることが、作業の側にも影響したことを示しています。頭の中で時間を気にし続けると、暗算のような考える作業のほうも、はかどらなくなることがあるわけです。

研究から言えること、言えないこと

ここまでの結果を日常に当てはめる前に、知っておいてほしいことがあります。

  • 調べられているのは、ごく短い時間です。 実験で扱った時間は3秒以上で、多くは数十秒以内でした。1分以上を扱った実験もありますが、上限は論文から確認できていません。何時間もかかる仕事や、何日も続くプロジェクトで同じことが起きるかは分かっていません
  • 「作業時間の見積もり」を調べた研究ではありません。 調べたのは、経った時間をどう感じるかです。タイトルの「見積もりが甘くなる」は、研究から直接分かったことではなく、私たちの推測です。時間を気にしながら作業していると経過を短く感じるなら、「まだ時間はある」と思いやすくなるのでは、という考えです
  • 頭を忙しくするものなら何でも同じ、というわけではありません。 時間を気にしながら作業する実験でも、「内容を覚えておくように」と言われたかどうか、見慣れたものを扱ったかどうかでは、はっきりした差は出ませんでした。複数の作業を行き来することも、差を生んでいません。ただしこれについては、調べた実験の数が少なかったせいかもしれない、と研究者たちは書いています
  • 作業の直後に答えた場合の結果です。 時間を気にしながら作業する実験でも、作業が終わってから数十秒から数分たって答えた場合は、頭の忙しさによる差は見られませんでした

一方で、年齢による違いは見られませんでした。目で見る作業でも耳で聞く作業でも、似たような結果でした。研究者たちは、目や耳の働きの問題ではなく、注意をどこに向けるかの問題だと考えています。

日常で試せる対策

ここからの対策は、研究で効果が確かめられたものではありません。研究の結果から考えて、試してみる価値がありそうだと私たちが考えたものです。

考えの出発点はシンプルです。時間を気にしながら頭を使っているとき、自分の時間の感覚は短めにずれやすい。それなら、時間のことは自分の感覚に任せず、時計に任せてしまう。

1. 経過はタイマーに数えてもらう

「そろそろ30分かな」と自分で気にするのをやめて、タイマーをかけます。

うまくいけば、時間を短く感じるずれに振り回されずに済みます。加えて、頭の中で時間を数えなくてよくなります。実験では、時間を数えながらだと暗算の成績が落ちました。資料づくりのような仕事でも同じことが起きるかは分かりませんが、時間を数える役目を手放しておけば、その心配もなくなります。

会議でも同じです。残り時間が見えるタイマーを置いておけば、話しながら時間を気にしなくて済みます。

2. 難しい作業では、時計を見るタイミングを先に決めておく

実験では、作業が難しいほど時間の感覚のずれが大きくなる傾向がありました。

そこで、「1章を書き終えたら時計を見る」のように、作業のひと区切りごとに時計を見ると決めておきます。夢中になっていても、区切りが来れば自然に時間を確かめられます。

3. かかった時間を記録する

作業を始めた時刻と終えた時刻をメモしておきます。

何回か続けると、「30分くらいのつもりが、実際は45分かかっていた」というような、自分のずれ方の癖が見えてきます。次に似た作業の時間を見積もるときは、感覚ではなくこの記録をもとにします。

見積もりが甘くなる理由は、時間の感覚以外にもあります。それについては計画錯誤の記事で詳しく紹介しています。

4. 一日の振り返りは、感覚ではなく記録で

電話や声かけ、通知などで何度も手が止まった日は、振り返ったときの感覚が実際とずれているかもしれません。「今日はずいぶん働いた」と感じても、それが実際の作業時間と合っているとは限りません。

振り返るときは、3の方法でメモした時刻を見るほうが確かです。

なお、ここまでの話は「時間をどう感じるか」についてです。作業を中断したり行き来したりすると、作業そのものがどれだけ遅れるかは別の問題で、作業切り替えのコストの記事で紹介しています。

5. 締め切りは時刻で決める

「あと1時間くらいで終わらせる」ではなく、「15時までに終わらせる」と、時計の時刻で決めます。こうすれば、時間の感覚がずれていても、時計を見るだけで残りが分かります。

自分で締め切りを決めるときのコツは、自分で決めた締め切りの記事にまとめています。

まとめ

時間を気にしながら作業していると、頭が忙しいほど、経った時間を短く感じやすい。117件の実験をまとめた研究では、全体としてそういう傾向が出ていました。ただし、時間を気にせず作業して、あとから振り返った場合には、逆に少し長く思い出されることもあります。

調べられているのは、主に数秒から数十秒の短い時間です。長い仕事にそのまま当てはまるかは、まだ分かっていません。

だからこそ、時間のことは自分の感覚ではなく、時計とタイマーに任せてみる価値はありそうです。効果が研究で確かめられた方法ではありませんが、手間はほとんどかかりません。

集中や仕事の進め方についてのほかの記事は、集中・仕事の効率化のページから読めます。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 忙しい日の時間感覚は短めにずれる前提で、見積もりに余白を足す
  2. 集中して作業するときは、開始時刻をメモして、時計かタイマーに経過を数えさせる
  3. 「あと少し」と感じたら、感覚で決めず時計を見る
  4. 同時に抱える作業を減らす(優先順位をつけて、今やらないことを紙に出す)

出典・参考

  1. Block, R. A., Hancock, P. A., & Zakay, D. (2010) How cognitive load affects duration judgments: A meta-analytic review. Acta Psychologica, 134(3), 330-343.(117件の実験を統合。時間を測ると知っている場面では、認知負荷が高いほど主観の時間÷実際の時間の比が下がると報告)montana.edu
  2. Brown, S. W. (1997) Attentional resources in timing: Interference effects in concurrent temporal and nontemporal working-memory tasks. Perception & Psychophysics, 59(7), 1118-1140.(2秒または5秒を作り出す課題に、追跡・視覚探索・暗算を同時に課すと、時間の産出が長く、または不安定になると報告)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。