いつもの塩を「減塩塩」に替えるだけ——2万人の試験で脳卒中と死亡が減った
味つけを変えずに減塩する手があります。ふつうの食塩を、ナトリウムを減らしてカリウムを加えた「減塩塩」に替えるだけ。約2万人を追った試験では、脳卒中・心血管の病気・死亡がいずれも1割前後低いという結果でした。合う人・避けたい人と、始め方をまとめます。
健康診断で「塩分は控えめに」と言われた。味噌汁を薄くして、漬物を我慢して、醤油をひとふり分だけこらえる。
でも、味気ない食事は長続きしません。数日でもとに戻ってしまう。
減塩がつらいのは、たいてい「量を減らす」からです。
もし、味つけはそのままで、塩の中身だけを替える方法があるとしたら。
約2万人を追いかけた大きな試験が、その「替えるだけ」を調べています。
「減らす」より「替える」——2万人の試験が示したこと
手がかりは、Nealらが2021年に発表した研究です。掲載誌は New England Journal of Medicine でした。通称 SSaSS(ソルト・サブスティテュート・アンド・ストローク・スタディ)と呼ばれます。
対象は中国の農村600の村、あわせて2万995人。規模の大きな試験です。
参加したのは、脳卒中の経験があるか、60歳以上で血圧が高い人たち。もともと心臓や血管のリスクが高い層でした。
村ごとに2つのグループに分け、片方には「塩化ナトリウム75%+塩化カリウム25%」の減塩塩を配りました。もう片方は、いつもどおりのふつうの塩(塩化ナトリウム100%)です。
そのまま平均で約4.7年、追いかけました。
結果はこうです。減塩塩を使ったグループでは、次の3つがいずれも1割前後低いという関連が見られました。
- 脳卒中(発生率の比 0.86)
- 心臓や血管の重い病気(同 0.87)
- あらゆる原因の死亡(同 0.88)
味つけを変えず、塩の中身を替えただけのグループで、この差が出た、ということです。
ただし、受け取り方には注意がいります。
これは無作為に割りつけた試験(RCT)なので、観察研究より一歩踏み込めます。それでも、対象は「高血圧や脳卒中歴のある高齢者」で、場所は中国の農村でした。
どちらのグループか参加者にわかる形(オープンラベル)で行われ、血中のカリウム濃度を毎回測ってもいません。
だから「誰にでも同じだけ効く」とは言えません。数字は「この集団で見られた差」として読むのが妥当です。
裏づけはもう一つあります。15か国・34の試験(合計3万7千人あまり)をまとめた分析でも、減塩塩に替えると血圧が平均で下がっていました。下がり幅は、上(収縮期)でおよそ4.4〜4.6mmHgでした。
血圧が下がる方向の変化は、複数の国の試験で共通して見られています。
ただし、死亡や心血管の病気が減るという効果のほうは、主に中国で行われたSSaSSの結果が支えています。中国以外の試験には死亡のデータがそろっておらず、中国の人以外にも同じだけ当てはまるとまでは、まだ言いきれません。
日本の食卓に置き換える
日本の食事は、もともと塩分が多くなりがちです。
味噌汁、漬物、干物、醤油、ラーメンやうどんの汁。どれもおいしいけれど、塩分が積み重なります。
ここで「全部やめる」のは、つらくて続きません。だからこそ「替える」が効いてきます。
カリウムを加えた減塩塩は、日本のスーパーでも手に入ります。パッケージに「塩化カリウム」や「カリウム」と書かれたタイプです。
味はふつうの塩とほぼ同じです(人によっては、わずかな苦みを感じることもあります)。同じ量のまま、いつもの料理に使えます。
下の図が、ふつうの塩と減塩塩の違いです。
見てのとおり、違いは中身だけです。ナトリウムが減り、その分カリウムが増えています。
つまり、我慢を足さずに、いつもの一手間を置き換えるだけで済みます。
意志の力で塩を減らし続けるのは大変です。でも、袋を一つ替えるだけなら、気力に頼らずに続けられます。
今日から試す手順
むずかしく考える必要はありません。まずは1袋の置き換えから始めます。
- 食卓塩か調理塩のどちらかを、カリウム入りの減塩塩に替える
- 味つけは変えない。今までと同じ量で使う
- 塩分の多い一皿を一つ減らす(味噌汁を1日1杯に、麺の汁は残す)
- まず2〜3週間続けて、体調に無理がないか確かめる
ポイントは、一度に全部を変えないことです。
「まず調理塩だけ」でも、日々の塩分は着実に入れ替わります。
ただし、その前に必ず読んでほしい注意があります。次の章です。
避けたい人・気をつけたい人
減塩塩の「カリウム」は、多くの人には問題になりません。でも、体質や持病によっては、体にたまって危険になることがあります。
カリウムは、腎臓の働きが落ちていると排出されにくくなります。増えすぎると、高カリウム血症といって、不整脈などの原因になります。
次に当てはまる人は、自己判断で使わないでください。使う前に、主治医か薬剤師へ相談してください。
- 腎臓の病気(慢性腎臓病)がある人、透析を受けている人
- 血中カリウムを上げやすい薬を使っている人(ACE阻害薬・ARBなどの降圧薬、スピロノラクトンなどのカリウム保持性利尿薬、カリウム製剤)
- 過去に「カリウムが高い」と指摘されたことがある人
参考までに、SSaSS の試験自体も、重い腎機能の低下がある人や、カリウム保持性利尿薬・カリウム製剤を使う人は、初めから対象に含めていません。ですから、そうした条件のある人に、あの結果をそのまま当てはめることはできません。
なお、ACE阻害薬やARBを使っている人も血中カリウムが上がりやすいので、上のリストに入れています。こちらは試験の除外条件というより、一般的な注意として確認してください。
使ってみて、だるさ・手足のしびれ・動悸などを感じたら、いったんやめて受診してください。
この方法は、治療の代わりにはなりません。
すでに高血圧などの治療を受けている人が、自己判断で薬を中止・調整する根拠にはなりません。持病や服薬がある人は、必ず主治医に確認してから始めてください。
血圧そのものへの、運動からのアプローチは壁スクワットと血圧の話にまとめています。食べ方のちょっとした工夫は食べる順番で血糖をゆるやかにする話もどうぞ。
無理なく体を整える小さな習慣は、健康の柱でもいくつか扱っています。
今日は、塩の袋を一つ手に取って、裏の表示を見るところから。ただし、合う体と合わない体があります。持病や薬がある人は、その一言を主治医に確かめてからにしてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 食卓塩・調理塩を一つ、カリウム入りの減塩塩に替える
- 味つけは変えなくてよい。同じ量のまま使える
- 味噌汁・漬物・麺の汁など、塩分の多い場面を一つ減らす
- 腎臓病の人、血圧・心臓の薬を飲む人は、始める前に主治医か薬剤師へ相談する
- だるさ・手足のしびれ・動悸などが出たら、使用をやめて受診する
出典・参考
- Neal, B., Wu, Y., Feng, X., et al. (2021) Effect of Salt Substitution on Cardiovascular Events and Death. New England Journal of Medicine, 385(12), 1067-1077.(SSaSS。中国農村600村・2万995人〈脳卒中歴または60歳以上で高血圧の高リスク層・平均65歳〉を対象にしたクラスター無作為化試験。塩化ナトリウム75%+塩化カリウム25%の減塩塩を通常の食塩と比較し、平均4.74年追跡。脳卒中の発生率比0.86、主要心血管イベント0.87、死亡0.88(いずれも減塩塩群で低い)。高カリウム血症による重篤有害事象は有意に増えず(発生率比1.04)。重度の腎臓病の人・カリウム保持性利尿薬やカリウム製剤を使う人は対象から除外。血中カリウムの継続測定はしていない)nejm.org
- Comparative effects of salt substitutes on blood pressure, cardiovascular events and mortality: a systematic review and network meta-analysis. BMC Medicine (2026).(15か国・34の無作為化試験・3万7063人をまとめたネットワークメタ分析。カリウムを含む減塩塩への置き換えで、収縮期血圧が平均4.4〜4.6mmHg低下。全死亡・心血管死・非致死性心血管イベントの低下とも関連するが、死亡への効果は主にSSaSS〈中国・n=20,995〉が牽引しており、中国以外の試験には死亡データがないため、中国人以外への一般化可能性は限定的と抄録に明記)link.springer.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。