早食いをやめると、食べ過ぎが減る——満腹の合図は少し遅れて届く
定食を10分でかき込み、あとから「食べすぎた」がやってくる。食べる速さを変えた22件の実験をまとめた解析では、ゆっくり食べた条件のほうが食べる量が少なく、しかも空腹感は変わりませんでした。満腹ホルモンの仕組みと、今日からペースを落とす小さな工夫を、研究の限界も添えてまとめました。
「もう食べ終わったの?」。定食屋で、向かいの同僚はまだ半分なのに、自分の皿はもう空。
早食いは、気づかないうちに身についています。10分もかけず、かき込むように平らげてしまう。
そして食べ終えたあとになって、じわっと「食べすぎたかも」がやってくる。
満腹の合図は、いつも少し遅れて届きます。
急いで食べるほど、多く食べてしまう
食べる速さを変えると、食べる量はどう変わるのか。それを実験でまとめたのが、ロビンソンらの研究です(2014年、栄養学の専門誌に発表)。
食べるペースを実験的に速くしたり遅くしたりした研究を、22件集めて解析しました。
結果は一方向でした。ゆっくり食べた条件のほうが、同じ食事でも食べる量は少なくなっています。差は中くらいで、偶然とは考えにくい大きさでした。
面白いのは、そのときの空腹感です。ゆっくり食べても、食後の空腹感は増えませんでした。3時間半あとまで追っても、変わりません。
つまり、ひもじさを我慢して減らしたのではない、ということです。同じくらいの満足感のまま、量だけが自然に減っていました。
ただし、研究ごとのばらつきは大きく、著者も「日常で続けられるペースの落とし方は、これからの課題」と書いています。
なぜ、ゆっくりだと止まれるのか
カギは、満腹を伝える体の信号です。
コッキノスらは、17人の健康な男性に、同じアイスクリーム(675キロカロリー)を食べてもらいました(2010年、内分泌の専門誌)。
一度は5分で。別の日は30分かけて。中身も量も同じです。
すると、30分かけたときのほうが、満腹を伝えるホルモン(PYYとGLP-1)が多く出ました。
これらは腸から出て、脳に「もう十分」と伝える信号です。分泌には少し時間がかかります。
下の図が、5分と30分でのその差です。
見てのとおり、中身は同じでも、30分かけたほうが満腹の信号は強く出ています。
だから5分で食べ終えると、信号が届く前に完食してしまう。ゆっくり食べれば、途中で「もういい」が間に合います。
このペースの差は、体型とも関わっているようです。早食いと肥満の関係を調べた23件の観察研究をまとめると、早食いの人はゆっくりの人より、平均してBMIが1.8ほど高い傾向がありました。
ただし、これは観察研究です。早食いが体重を増やすと証明したものではなく、逆に太りやすい人が早食いになりやすい可能性も残ります。合う食べ方には個人差もあります。
昼の「かき込み」から変える
会社員の昼を思い浮かべてください。休憩は短く、机の前で定食やコンビニ飯をかき込む。5分から10分で完食、が珍しくありません。
これは早食いが起きやすい典型です。急いでいる、よく噛まない、画面を見ながら手が止まらない。
ここでいきなり「1食30分」を掲げると、続きません。研究が示すのは、極端に速いのを少しゆるめるだけで差が出る、という向きです。
だから狙うのは「いつもより数分長く」。噛む回数を少し増やすだけでも、入口としては十分です。
食べる前のひと呼吸から整えたい人は、いただきますの小さな儀式とも相性がいいはずです。
今日から試す「ペースを落とす」手順
やることは、食べる速さに小さなブレーキをかけるだけです。全部やる必要はありません。1つで十分です。
- ひと口ごとに箸を置く。 口に入れたら、箸をいったんテーブルに戻す。飲み込んでから、また持つ。それだけで手が止まります。
- 最初の3口だけ、数えて噛む。 20〜30回を目安に。ずっとは大変なので、出だしの数口でいい。
- 1食に20分の目安を置く。 スマホのタイマーでも、時計をちらっと見るだけでも。速すぎる日に気づけます。
- ながら食べを1食だけやめる。 画面を消すと、手の速さは自然に落ちます。
- 汁物や野菜から、ゆっくり口をつける。 噛む必要があるものが、ペースメーカーになります。
まずは1日1食、いちばん急ぎがちな昼食あたりから。1週間だけ試してみてください。
体を動かす側からも整えたいなら、「1日1万歩」に縛られないや座りっぱなしを「2分の歩き」で区切るが参考になります。どちらも「今より少しだけ」という、同じ考え方です。
向いていない人・注意したいこと
ここで紹介したのは「食べる速さと、食べる量・体重の関連」です。体重が必ず減ることや、病気の予防を約束するものではありません。効果には個人差があります。
飲み込みに不安のある人(嚥下しにくい持病がある人など)は、噛む回数や食事時間を無理に増やさないでください。食事を人に急かされる環境なら、まずその環境のほうを見直すのが先です。
食べることに強い不安がある、食事の量や体重が頭から離れない。そんな悩みがあるときは、ペースの工夫より先に、医師や専門の窓口へ相談してください。
ゆっくり食べるのは、我慢の練習ではありません。満腹の合図が届くのを、少しだけ待つ工夫です。
体の小さな整え方は、健康の柱でもいくつか扱っています。
まずは次の一食、最初のひと口だけ、いつもよりゆっくり噛んでみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- ひと口ごとに箸を置き、飲み込んでから次のひと口を運ぶ
- 最初の3口だけ、20〜30回を目安に数えて噛む
- 1食に20分の目安を置き、時計をちらっと見る
- いちばん急ぎがちな1食で、画面を消して食べる
- 飲み込みに不安がある人・食事量が頭から離れない人は、医師や専門の窓口に相談する
出典・参考
- Robinson, E., Almiron-Roig, E., Rutters, F., de Graaf, C., Forde, C. G., Tudur Smith, C., Nolan, S. J., & Jebb, S. A. (2014) A systematic review and meta-analysis examining the effect of eating rate on energy intake and hunger. American Journal of Clinical Nutrition, 100(1), 123-151.ora.ox.ac.uk
- Kokkinos, A., le Roux, C. W., Alexiadou, K., Tentolouris, N., Vincent, R. P., Kyriaki, D., Perrea, D., Ghatei, M. A., Bloom, S. R., & Katsilambros, N. (2010) Eating slowly increases the postprandial response of the anorexigenic gut hormones, peptide YY and glucagon-like peptide-1. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 95(1), 333-337.europepmc.org
- Ohkuma, T., Hirakawa, Y., Nakamura, U., Kiyohara, Y., Kitazono, T., & Ninomiya, T. (2015) Association between eating rate and obesity: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Obesity, 39(11), 1589-1596.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。