難しい仕事は頭が冴える時間帯に——集中力は一日で波がある
夕方は頭が回らないのに、朝いちばんは難所を片づけられる。冴えには一日の波があります。自分のピーク時間に難しい仕事、谷の時間に単純作業を置く『時間割』の作り方を、時間帯と認知の研究からまとめました。
夕方、大事な資料に取りかかる。でも頭がぼんやりして、さっきまで解けていたことが進まない。
逆に、朝いちばんで難所をすっと片づけられた日もある。同じ自分なのに、時間によって頭の働き方が違う。
これは気合いの差ではなく、頭の冴えに一日の波があるからかもしれません。その波に仕事の重さを合わせると、同じ努力が届きやすくなります。
冴えのピークは人によってずれる
心理学者のシンシア・メイとリン・ハッシャーは、1998年にこの現象を実験で調べました。掲載誌は JEP: Human Perception and Performance です。
二つの実験で、頭の「切り替え」や「余計な反応の抑え込み」を調べています。どちらも、意識して踏ん張る種類の課題です。
分かったのは、こうした抑えのはたらきは、その人が冴えるピーク時間に一番よく効くということでした。原文はこう述べています。
Inhibitory control is greatest at optimal times for both age groups.(抑制のはたらきは、どちらの年齢層でも最適な時間に最大になる)
ここで大事なのが、ピークが来る時刻は人によってずれる点です。多くの若い人は夜型で、冴えるのは夕方から夜。多くの高齢の人は朝型で、冴えるのは午前。だから同じ時刻でも、頭が動く人とそうでない人がいます。
この「ピーク時間と作業時刻が合うと成績が上がる」現象は、synchrony effect(シンクロニー効果)と呼ばれます。
ただし、全部がピークで良くなるわけではない
同じ研究チームは2005年に、記憶でこれを確かめています。掲載誌は Psychological Science です。
夜型の若い人と朝型の高齢者を、ピーク時か谷の時間に分けてテストしました。人数は実験1が84人、実験2が90人。朝は8〜9時、夕方は17〜18時に測っています。
覚えた単語を狙って思い出す課題は、予想どおりピーク時のほうがよくできました。
ところが、意識せずに出てくるタイプの記憶では逆でした。谷の時間のほうが成績が高かったのです。
つまり、頭のすべての働きが同じ時間に山になるわけではありません。ピークが得意なのは、集中して踏ん張る種類の作業です。
2007年のレビュー(掲載誌 Cognitive Neuropsychology)は、多くの研究を見渡してこうまとめています。時間帯は注意・段取り・記憶など幅広い課題の成績を左右し、その効きは「ピーク時間と作業時刻が合っているか」に強く依存する、と。
ただし注意も要ります。これらは実験室の課題で、参加者も学生と高齢者に偏っています。効きには個人差があり、あなたの複雑な仕事にそのまま当てはまるとは限りません。
下の図が、一日の冴えの波と、仕事の置き方のイメージです。
見てのとおり、山がいつ来るかは人によって違います。狙いは、その山に難しい仕事を寄せることです。
会社員と個人開発者の、一日の組み方
会社員なら、午前がピークの人が多いはずです。ならば、頭を使う企画・資料づくり・込み入った判断は午前に寄せます。
メール返信、経費入力、ファイル整理といった単純作業は、昼過ぎの眠くなる時間に回す。ここは多少ぼんやりしていてもこなせます。
夜型の個人開発者なら、逆の設計になります。難しい設計やコードは夕方から夜に。午前は環境整備やタスクの棚卸しなど、軽い作業にあてる。
避けたいのは、一番冴える時間を会議や雑務で埋めてしまうことです。ピークは、他の時間では代えのきかない資源です。
集中を仕組みで守る発想は集中の技術でもまとめています。
手順:自分のピーク時間の見つけ方
やることは二段階です。まず自分の山と谷を知り、次に仕事を割り当てます。
- 1週間、2〜3時間おきに「今の頭の冴え」を10段階でメモする(起きてから寝るまで)
- 数字が高く出る時間帯が、あなたのピーク。低い時間帯が谷です
- 朝型か夜型か迷うなら、休みの日に自然に眠くなる・目覚める時刻もヒントになる
- ピークの1〜2時間を、一番難しい仕事のために空けておく
- 谷の時間に、返信・入力・整理などの単純作業をまとめて置く
コツは、完璧な時間割を作ろうとしないことです。まず一番大事な仕事ひとつを、ピークに移すだけで十分です。
そもそも朝の目覚めが安定しない人は、体内時計を整えるのが先です。朝の光を浴びる習慣が土台になります。
効きにくい・向いていない場面
この考え方が万能ではない場面もあります。
- 勤務時間や締め切りが決まっていて、時間を動かせないとき。動かせる小さな仕事から試す
- ひらめきや連想が要る作業は、むしろ谷の時間が向く場合もある(先ほどの逆説)
- 睡眠不足のときは、ピークも谷も全体に沈む。時間割より先に睡眠を整えるほうが効く
- 効きには個人差がある。一週間試して変化がなければ、無理に合わせなくてよい
作業の合間の立て直しには、短い中断や、集中がそれるマインドワンダリングの対処もあわせてどうぞ。
頭が回らない時間に難所をぶつけて、自分を責める必要はありません。まずは明日、一番大事な仕事を、あなたの冴える時間にひとつ動かしてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 1週間、2〜3時間おきに「今の頭の冴え」を10段階でメモする
- 数字が高い時間帯=あなたのピーク。低い時間帯=谷と見なす
- ピークの1〜2時間を、一番難しい仕事のために空けておく
- 谷の時間に、返信・入力・整理などの単純作業をまとめる
- 一週間試して変化がなければ、無理に合わせなくてよい
出典・参考
- May, C. P., & Hasher, L. (1998) Synchrony effects in inhibitory control over thought and action. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 24(2), 363-379.(PubMed 抄録)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- May, C. P., Hasher, L., & Foong, N. (2005) Implicit memory, age, and time of day: Paradoxical priming effects. Psychological Science, 16(2), 96-100.(PMC 全文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Schmidt, C., Collette, F., Cajochen, C., & Peigneux, P. (2007) A time to think: Circadian rhythms in human cognition. Cognitive Neuropsychology, 24(7), 755-789.(PubMed 抄録)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。