記憶術「場所法」で暗記量が2倍以上——覚え方を変えれば記憶力は後からついてくる
資格の用語も人の名前も、覚えたそばから抜けていく。原因は記憶力の才能ではなく、覚え方かもしれません。世界の記憶力チャンピオンが使うのは「場所法」という古い技術です。未経験の人が40日練習しただけで、思い出せる単語が26個から62個へ増えた実験もあります。今日から自宅の間取りで試せる手順にまとめました。
資格の勉強で用語を覚える。会議で会った人の名前を覚える。
なのに、覚えたそばから抜けていく。「自分は記憶力が悪い」と、つい思ってしまいます。
でも、世界の記憶力チャンピオンたちを調べると、意外な事実が見えてきます。
彼らの強みは、生まれつきの記憶力ではありません。覚え方でした。
記憶力チャンピオンは「特別な脳」ではなかった
記憶力を競う大会があります。数百桁の数字や、大量の単語を順番どおりに覚えて競う世界です。
その上位者を調べた研究があります。マグワイアらが2003年に発表したものです。
脳の画像や知能テストで、チャンピオンと一般の人を比べました。すると、チャンピオンの脳は構造が特別なわけでも、知能が飛び抜けて高いわけでもありませんでした。
違ったのは、覚えるときの「やり方」です。
大半のチャンピオンが、同じ古い技術を使っていました。「場所法」です。覚えたいものを、頭の中でよく知った場所に順番に置いていく方法です。
置いている最中、彼らの脳では空間や道順をつかさどる領域が働いていました。つまり「暗記」を「場所をたどる作業」に変えていたのです。
未経験の人でも、40日で暗記量が2倍以上に
「それは才能のある人の話では」と思うかもしれません。そこを確かめた研究があります。
ドレスラーらの2017年の実験です。まず記憶力アスリート23人と、年齢や知能をそろえた一般の人23人を比べました。
さらに、記憶術の経験がない51人を集めました。この人たちを3グループに分けます。場所法を練習するグループ、単純な暗記を練習するグループ、何もしないグループです。
練習は40日間。1日30分だけです。
結果は、はっきりしていました。
72個の単語のうち、練習前に思い出せたのは平均26個でした。
場所法を練習したグループは、練習後に62個まで伸びました。35個ほどの上乗せです。一方、単純な暗記の練習では11個、何もしない人は7個の上乗せにとどまりました。
しかも、効果は続きました。4か月後、練習をやめていても、場所法のグループは練習前より22個以上多く思い出せたのです。
数字を覚えるコツを変えただけ。それで、思い出せる量が2倍以上になりました。
覚えるものを、自宅の間取りに置く
やり方の芯は、図のとおりです。すでによく知っている場所を「置き場」に使います。
日本の生活なら、材料はいくらでもあります。
自宅の間取り。玄関を出てから駅までの通勤路。毎朝のコンビニの棚。どれも、目をつぶっても歩ける道です。
たとえば買い物リスト。玄関に牛乳、廊下にたまご、台所に食パン。頭の中で家を歩けば、メモを見なくても順に浮かびます。
英単語や資格の用語も同じです。意味を短い場面にして、順路の各地点に置いていきます。
スピーチの流れも置けます。話す要点を、部屋から部屋へ順番に配置する。話しながら家の中を歩けば、次に言うことが自然と出てきます。
コツは、置く映像を大げさにすることです。牛乳が玄関いっぱいにあふれる。たまごが廊下で山積みになる。ふつうの光景より、変な光景のほうが強く残ります。
今日から試す「自宅ツアー暗記」
まずは短い順路で試してください。
- 自宅で毎日通る順路を決める(玄関→廊下→台所→机など5〜10か所)
- 覚えたいことを1つずつ、その場所に「見える映像」で置く
- 映像は大げさ・変なほどよい(牛乳が玄関であふれる等)
- 順路を頭の中で歩き、置いた物を順に思い出す
- 翌日も同じ順路を歩いて、抜けた場所だけ置き直す
思い出す練習そのものが記憶を強くします。順路を歩いて答え合わせをする流れは、思い出す練習とも重なります。覚えた翌日・翌週にもう一度歩けば、分散学習の効果も乗ります。
ただし、限界もあります。実験で覚えたのは単語のリストが中心でした。長い文章の理解や、意味のつながった知識まるごとに、そのまま効くとは限りません。
数字の羅列や抽象的な言葉は、いったん「絵になる場面」に変える一手間が要ります。この変換が、慣れるまでは少し面倒です。
それでも、入り口は今日つくれます。まずは買い物リストひとつを、家の中に置いてみてください。
「覚えられない」の多くは、記憶力ではなく覚え方の問題です。学び方そのものを鍛える話は、学びの柱でも続けています。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 自宅で毎日通る順路を決める(玄関→廊下→台所→机など5〜10か所)
- 覚えたいことを1つずつ、その場所に「見える映像」で置く
- 映像は大げさ・変なほどよい(牛乳が玄関であふれる等)
- 順路を頭の中で歩き、置いた物を順に思い出す
- 翌日も同じ順路を歩いて、抜けた場所だけ置き直す
出典・参考
- Dresler M, et al. (2017) Mnemonic Training Reshapes Brain Networks to Support Superior Memory. Neuron, 93(5), 1227-1235 — 記憶力未経験者51人が40日の場所法トレーニングで、思い出せる単語が平均26個から62個へ増え、4か月後も高水準を保った(PubMed要旨)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Maguire EA, Valentine ER, Wilding JM, Kapur N (2003) Routes to remembering: the brains behind superior memory. Nature Neuroscience, 6(1), 90-95 — 記憶力チャンピオンの優位は知能や脳構造の差ではなく、大半が空間戦略(場所法)を使い、脳の空間記憶の領域が働いていたnature.com
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。