暇な作業ほど気が散る——脳に「空き容量」があると、注意は勝手にそれる
データ入力や単純作業ほど、なぜかスマホに手が伸びる。その背景には、脳に残る「空き容量」があるかもしれません。注意の負荷研究をもとに、退屈な作業を気が散りにくくする工夫をまとめました。
午後3時、伝票の入力を続けていると、気づけばスマホに手が伸びている。データ入力や資料の体裁直しなど、頭を使わない単純作業のときほど、なぜか指が画面へ向かいます。
これを「自分の集中力のなさ」と責める人は多いと思います。でも、簡単な作業ほど気が散るのには、脳の仕組みの側に理由があるかもしれません。
カギは、作業に残った「空き容量」です。
簡単な作業ほど気が散る、という研究
心理学者ニリ・レイヴィは、注意についての「負荷理論(load theory)」を唱えています。
気が散るかどうかは、今の作業が脳をどれだけ使っているかで決まる、という考え方です。
レイヴィらは2009年、これを実験で確かめました(掲載誌は Cognition)。
参加者に画面上の課題をやってもらい、2種類の負荷で比べます。片方はひと目で済む簡単な課題(低負荷)、もう片方はよく見ないと解けない課題(高負荷)です。
同時に、関係のない邪魔な刺激を混ぜます。さらに時々「いま課題と無関係なことを考えていたか」も尋ねました。
作業の負荷を上げると、外からの邪魔にも、頭の中の雑念にも、引っぱられにくくなりました。
この2009年の実験では、邪魔な刺激による反応の乱れが、低負荷で約38ミリ秒ありました。
それが高負荷ではほぼ消えています。無関係な考えごとも、実験差はありますが、おおむね6割前後から5割前後へ減りました。
理由についてレイヴィは、脳の処理容量の有限さを挙げています。難しい作業で容量を使い切ると、邪魔なものを処理する余力が残りません。外の刺激も、浮かぶ雑念も同じです。
裏を返せば、簡単な作業では容量が余り、その空きへスマホや考えごとが入り込みます。
ただし、大事な但し書きがあります。効くのは目や手が作業に没頭する「知覚の負荷」です。
ただし「記憶の負荷」は一枚岩ではありません。Konstantinouらによる2014年の実験を見てみます。
覚えた映像をただ保つだけの負荷は、知覚の負荷と同じく気を散りにくくします。一方、頭の中で言葉をくり返し唱えるように保持し続ける負荷が高いと、かえって気が散りやすくなると報告されています。
整理すると、負荷は種類で向きが変わります。目や手を作業に使う知覚の負荷は、上げるほど気が散りにくい。一方、頭の中で用事を唱え続けるような負荷は、抱えるほど気が散りやすい。
だから狙いはこうです——手を動かす負荷は足し、頭に抱えっぱなしの用事は減らす。このあとの工夫は、この二方向に沿っています。
この2009年の研究は、4つの実験(分析対象は73人、募集を含めても74人)という小さな規模です。実験室の課題で確かめたもので、オフィスの仕事そのものを試したわけではありません。傾向として受け取るのが妥当です。
なぜ「暇な作業」がいちばん危ないのか
下の図が、空き容量と気の散りやすさの関係です。
見てのとおり、容量に空きがあるほど、注意はそのすきから漏れていきます。
一日でいちばん気が散りやすいのは、実は、頭を使わない退屈な作業をしている時間です。忙しくて手いっぱいのときより、手が空いているときのほうが危ない。
会社員なら、伝票の入力や資料の体裁直し。個人開発者なら、単純なリネームやコピペ。学生なら、答え合わせや書き写しです。
どれも脳に空きが多く、その空きがスマホや考えごとを呼び込みます。「暇だからつい触る」感覚には、こうした裏づけがありました。
今日から試す「すきを埋める」工夫
やることは一つです。気が散りやすい簡単な作業に、あえて歯ごたえを足して、脳の空きを埋めます。
- 単純作業はタイマーで制限時間を決め、速さの勝負にする(例:15分)
- 「もう少し丁寧に」と仕上がりの基準を上げ、目と手を作業で埋める
- 似た作業はまとめて一気に片づけ、手を止めない
- 頭の中で用事を抱えない。気になることは紙に書き出して手放す
- 騒がしい場所では、簡単な作業より没頭できる作業を先に持ってくる
1〜3は「知覚の負荷」を上げる工夫です。作業そのものに没頭できると、割り込みが入る余地が減ります。
4は逆に「記憶の負荷」を下げる工夫です。頭の中の用事は容量を食うのに気を散らせるので、外に出して身軽にします。書き出す効き目は心配ごとは書き出すでも扱っています。
同じ「気が散る」でも、対処は一つではありません。すでにさまよった心を今へ戻すコツは心がよそへ行くときに、前の作業を引きずるときの手当ては注意残余にまとめています。この記事は、そもそも散りにくいように作業の側を変える方法です。
この研究自体は、こうした仕事術を試したわけではありません。示されたのは「作業の負荷が上がると気が散りにくい」ところまで。工夫はそこから導いたもので、効果を保証するものではありません。
合わなければ、無理に続けなくて大丈夫です。集中を仕組みで守る発想は集中の技術でもまとめています。
次に退屈な単純作業に向かうとき、まずはタイマーを15分にセットして、速さの勝負にしてみてください。脳の空きが埋まると、スマホは少し遠くなります。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 経費精算や議事録の清書など『退屈で簡単な作業』ほど気が散ると知っておく
- 単純作業はタイマーで制限時間を決め、速さの勝負にする(例:伝票入力を15分で)
- 雑になりがちな作業は、あえて仕上がりの基準を上げる(誤字ゼロで一度で終える)
- 頭の中で用事を抱えず、気になることは紙に書き出して手放す
- 騒がしい場所では、簡単な作業より没頭できる作業を先にやる
出典・参考
- Forster, S., & Lavie, N. (2009) Harnessing the wandering mind: The role of perceptual load. Cognition, 111(3), 345-355.(PMC 掲載の本文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
- Konstantinou, N., Beal, E., King, J-R., & Lavie, N. (2014) Working memory load and distraction: dissociable effects of visual maintenance and cognitive control. Attention, Perception, & Psychophysics, 76(7), 1985-1997.(PMC 掲載の本文)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。