中断した作業に戻れないのは記憶が薄れるから——再開の手がかりを残す
Focus / Research Digest

中断した作業に戻れないのは記憶が薄れるから——再開の手がかりを残す

ちょっと呼ばれて数十秒で戻ったのに、次に何をするか思い出せない。中断後の最初の一手が遅れる現象を、大学生375人・1万3千回超の中断で調べた研究があります。著者は、進めていた作業の文脈が記憶から薄れ、組み立て直すのに時間がかかるためと説明します。戻る前に次の一手を書き残す、小さな手がかりの置き方をまとめます。

メールを書いている途中で、同僚に「ちょっといい?」と呼ばれる。用件は30秒で終わり、席に戻る。

画面を見て、手が止まります。自分が次に何をしようとしていたのか、すぐに出てきません。

この数秒の空白には、記憶のしくみが関わっています。

数秒の中断で、頭の中で何が起きるか

2007年に心理学者の Altmann と Trafton が発表した研究があります。 掲載誌は Psychonomic Bulletin & Review です。

参加者はミシガン州立大学の学部生375人。画面上で、判断を続ける少し複雑な課題に取り組みます。作業の途中でときどき別の画面に切り替わり、数十秒の中断が入ります。

集めた中断は1万3千回を超えます。測ったのは、中断から戻って最初の操作までの時間。これを resumption lag(再開の遅れ)と呼びます。

いちばん遅いのは、中断から戻った最初の一手でした。元の速さに戻るまでには10手ほど、時間にして約15秒かかり、中断1回あたり4〜5秒ほどの余分が積み上がります。

著者はこれを、記憶の組み立て直しで説明しています。

作業中の頭には、目標・次の手順・さっきの結果といった「いまの文脈」が保たれています。中断が入ると、そこから意識が離れて薄れていきます。

戻ったあとは、その要素を一つずつ記憶から呼び戻して組み立て直す。だから最初の一手は遅く、呼び戻すにつれて速くなる、という説明です。

中断から作業に戻るまでの流れの図。①作業が中断される。②次に何をするかというゴールの記憶が薄れ、戻った直後の反応が遅くなる。③中断の前後に、次の一手を一行メモしたり最後に触れた場所に戻ったりして手がかりを残すと、薄れた文脈を組み立て直しやすくなると考えられる。
図1: 中断→記憶が薄れる→手がかりで組み立て直す、の流れ(当サイト作成)

図のように、つまずくのは戻った直後の一手です。手がかりは、その一手を軽くする置き方です。

ただ、そのまま当てはめられる範囲は限られます。実験室での課題で、参加者は大学生だけ。課題は事前に練習済みで、測ったのも「反応の速さ」です。仕事のミスや成果を直接調べたものではありません。

数値がそのまま職場に当てはまるわけではない。それでも、短い中断で次の一手の記憶が薄れ、戻るのに時間がかかる傾向は確かです。

数秒の中断で手順を取り違える話はわずかな中断でも手順ミスが増えるで、切り替えのあと集中が戻りにくい話は注意残余で扱いました。

仕事では、中断はもっと長い

現場のデータでも、同じ向きが見えます。

プログラマの作業を調べた Parnin と Rugaber の研究(2011年)では、中断された作業にすぐ戻れることはまれでした。1分以内に手を動かし始められた場面は1割ほどで、多くは元の文脈を思い出すために、あちこちの画面を見て回っていました。

そこで開発者がよく使っていたのが、手がかりを残す工夫です。次にやることをメモに書く。最後に触れた場所を開いたままにする。こうして、戻ったときに探し直す手間を減らしていました。

実験室の課題は数十秒で戻れますが、仕事の中断はもっと長く、抱える文脈も大きくなります。離れる前に残す一行は、その分だけ効いてきます。

会社員の一日も、似た形です。資料作成の途中でチャットに答え、見積もりの入力中に電話を取る。そのたびに「どこまでやったか」が薄れ、戻ってから探し直すことになります。

今日から置ける、再開の手がかり

研究が確かめたのは「中断で文脈が薄れ、戻るのに時間がかかる」ところまでです。以下は、その結果をもとにした置き方。負担が小さいので試しやすいはずです。

  1. 離れる前に、次の一手を一行書く。 「次: 見積書の金額欄」程度でかまいません。所要10秒です。やりかけが気になって集中が削がれる話はやりかけを書き出すでも扱いました。この一行は、再開の目印にもなります。
  2. 画面とカーソルを、そのままにして離れる。 開いている行や位置が、戻ったときの目印になります。閉じたり片づけたりしないほうが、思い出しやすいでしょう。
  3. 戻ったら、まずメモか画面を見る。 すぐ手を動かさず、数秒だけ「どこまで進めたか」を読み返します。先に思い出す時間を取れば、最初の一手で迷いにくくなります。

中断そのものを減らす工夫も合わせられます。通知をまとめて見る設定にしておくと、作業を離れる回数が減ります。

呼ばれたときに「いまの一行を書き終えてからでもいい?」と一言返す方法もあります。区切りまで進めてから離れると、戻る場所がはっきりします。

離れる前の、一行から

呼ばれて離れる前に、次の一手を一行だけ書く。所要10秒です。戻ったら、まずその一行を見てから手を動かします。

この一行があれば、「どこからだっけ」と固まる時間が縮みます。メール作成中なら、書きかけの文末に「次: 結びの一文」と残して席を立つだけでも十分です。ほかの集中の工夫は集中・仕事の記事一覧にまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 離れる前に、次の一手を一行だけ書く(例:「次 見積書の金額欄」)。所要10秒
  2. 開いている画面・カーソルの位置を、そのままにして離れる
  3. 戻ったら、まずそのメモか画面を見てから手を動かす
  4. そもそもの中断を減らすため、通知はまとめて見る設定にする

出典・参考

  1. Altmann, E. M., & Trafton, J. G. (2007) Timecourse of recovery from task interruption: Data and a model. Psychonomic Bulletin & Review, 14(6), 1079-1084.(中断後の再開の遅れ=resumption lag を375人・1万3千回超の中断で測定。戻った直後の一手が最も遅く、約15秒かけて元の速さに戻る。原因は作業の文脈を記憶から組み立て直すため、と説明)interruptions.net
  2. Parnin, C., & Rugaber, S. (2011) Resumption strategies for interrupted programming tasks. Software Quality Journal, 19(1), 5-34.(現場のプログラマは中断された作業にすぐ戻れることがまれで、1分以内の再開は約1割。メモや最後に触れた場所など「手がかり」を使って文脈を思い出していた、という観察研究)link.springer.com

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。