速読で読書スピードは上がるのか——速さと理解は引き換えだった
Learning / Research Digest

速読で読書スピードは上がるのか——速さと理解は引き換えだった

参考書が読み終わらない、積読が減らない。速読アプリや講座を試す前に知りたいのは、読む速さと理解は引き換えという事実です。数十年の読書研究をもとに、速読の限界と、遠回りでも確実に速くなるコツを整理しました。

資格試験の参考書を開くのは、たいてい夜11時を過ぎてから。今日も3ページ進んだところで、同じ行を二度読んでいたことに気づきます。この章にかかりきりで、もう2週間になります。

机の上には、読みかけの本が5冊。「速読さえ身につけば、この山を一気に片づけられるのに」。そう思って、速読アプリや講座に目がいく。

でも、読む速さは本当に何倍にもなるのでしょうか。読書の研究をたどると、見えてくるのは「速さと理解は引き換え」という関係でした。

速く読むほど、理解は落ちる

2016年、レイナーら5人の心理学者が、何十年ぶんの読書研究をまとめた論文を出しました。テーマは「速読は本当にできるのか」です。

結論は、速く読むほど理解が落ちる、ということでした。

英語圏では、ふつうの黙読はおよそ毎分250語です。速読をうたう講座やアプリは、これを2〜3倍の毎分500〜750語まで上げられると宣伝します。

でも、その速さで元と同じだけ理解できるかというと、難しい。論文はそうまとめています。

横軸が読む速さ(右ほど速い)、縦軸が理解の深さ(上が深い)を示す曲線グラフ。左上に『ふつうの黙読・毎分250語ほど・理解が深い』の青い点、右下に『速読・飛ばし読み・毎分500〜750語・理解が浅い』の橙色の点があり、左上から右下へ下がる曲線で、速さを上げるほど理解が下がる引き換えの関係を描いている。数値は英語の読書の目安
図1: 速さを上げるほど、理解は下へ。両立できる「うまい速読」はなかった(当サイト作成)

ただ、この研究の対象は英語の読書です。数字は英語の語数なので、日本語では目安程度に受け取ってください。

速さと理解の関係にも個人差があります。あくまで全体の傾向として読んでください。

なぜ、速さには天井があるのか

では、なぜ理解を保ったまま速くするのが難しいのでしょうか。わけは、目の動き方にあります。

文字を読むとき、目は滑らかに動いているように感じます。でも、実際の目は、文字の上を飛んでは止まる動きをくり返しています。

はっきり見えているのは、いま目を止めた所のごく狭い範囲だけ。だから少しずつ読み進め、必要なら前に戻ります。

この、読んだ箇所へ視線を戻す動きを「戻り読み」と呼びます。自分ではほとんど意識していませんが、同じ行をもう一度読んでしまうのも、戻り読みの一つです。

2014年、ショッターらが、この戻り読みの役割を確かめる実験をしました。

速読アプリには、単語を画面に一つずつ出しては消していく方式のものがあります。実験でも同じように、一度読んだ単語をすぐ隠し、前に戻れない状態で文章を読ませました。

その結果、前に戻れないと、内容の理解が下がりました。戻り読みは、理解を支えているのです。

単語を次々消していく速読アプリは、まさにこの戻り読みをなくすことで速さを稼いでいます。実験は人工的な設定なので、市販のアプリがそっくり同じとは言い切れません。それでも、戻り読みを封じる仕組みである以上、理解が浅くなりやすい点は心に留めておいたほうがよさそうです。

「速く読む」で本当にできること

読む速さを上げる方法が、まったくないわけではありません。ただし、2〜3倍といった魔法のような伸びではなく、天井の範囲での地道な底上げです。

先ほどのレイナーらの論文によると、読む速さを左右するのは、語彙などの言葉の力です。

見慣れた言葉ほど、すっと読めます。たくさんの文章に触れて言葉に慣れておくと、読むのが速くなります。

目的で読み方を変える

読む目的によって、読み方そのものを変えるのも効きます。使い分けの具体例を挙げます。

  • 会議前の資料は、要点だけ知りたいなら、見出しと最初の一文だけ拾う飛ばし読みで十分
  • 新書や実用書で知識を身につけたいときは、速さを捨て、気になった段落は読み返す
  • 契約書や重要な書類は、そもそも速く読もうとせず、何度でも読み返す

使い分けをせず、すべてを同じ速さで読もうとすると無理が出ます。

自分の読む速さを知りたいなら、英語圏の「毎分250語」を当てはめるより、実際に計ってみるのが役立ちます。いつも読む新書や実用書を1章、時間を計って読んでみてください。

「10分で8ページ」のように、かかった時間とページ数を控えておきます。これがあなたの「ふつうの速さ」です。これを2〜3倍にする——同じ10分で20ページ以上を、同じだけ理解しながら読む——のがどれだけ無茶か、見当がつくはずです。

読んだ内容を頭に残したいなら、速く読むことより、本を閉じて思い出すほうが助けになります。その理由は、別の記事にまとめています。

今日から試す「速さと理解の使い分け」

  1. 読む前に「ざっと把握」か「しっかり理解」かを、10秒で決める
  2. 資料は見出しと各段落の最初の一文だけ拾えば、把握には足りることが多い
  3. 新書や契約書のようにしっかり理解したい文書は、急がず読み返す
  4. 速く読みたい分野があるなら、その分野の文章を数多く読んで言葉に慣れる
  5. 大事な範囲は読み終えたら、本を閉じて要点を思い出す

1冊の中でも、前半はざっと読み、大事な章はじっくり読んで構いません。

速読アプリを買う前に、まず「これは飛ばしていい文か、じっくり読む文か」を分けてみてください。

ほかの学び方は学びのページにまとめています。

Try Today今日からやるチェックリスト

  1. 読む前に「ざっと把握」か「しっかり理解」かを決める(10秒)
  2. 把握でいい資料は、見出しと各段落の最初の一文だけ拾う
  3. 理解したい教材は速さを捨て、戻って読み直すのを我慢しない
  4. 速く読みたいなら、同じ分野の文章を数多く読んで言葉に慣れる
  5. 大事な範囲は読んだあと、本を閉じて要点を思い出す

出典・参考

  1. Rayner, K., Schotter, E. R., Masson, M. E. J., Potter, M. C. & Treiman, R. (2016) So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help? Psychological Science in the Public Interest, 17(1), 4-34.(PubMed 抄録・2026-08-20 到達。速さと理解のトレードオフ、毎分約250語を2〜3倍(500〜750語)にしつつ理解を保つのは難しい、語彙と練習でわずかに速くなる、との記述を確認)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  2. Schotter, E. R., Tran, R. & Rayner, K. (2014) Don't Believe What You Read (Only Once): Comprehension Is Supported by Regressions During Reading. Psychological Science, 25(6), 1218-1226.(PubMed 抄録・同一DOI 10.1177/0956797614531148。読んだ語をすぐ隠して読み返せなくすると理解が下がる、戻り読みは理解を支える、RSVP型の速読アプリの成立性に疑問、との結果を確認)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。