新しいことは、教わる前にまず自分で解く——遠回りに見えて理解が深く残る
参考書の解説を先に読むと、その場は分かった気になるのに、応用問題になると手が止まる。じつは教わる前に自分でひとしきり解いてもがくほうが、あとの理解と応用力は伸びやすい。53本の研究を集めた分析をもとに、教わる前の「もがく時間」の作り方を、効きにくい場面も添えてまとめました。
新しい範囲を勉強するとき、まず解説やお手本を読んでから問題に進む。ふつうの順番です。
読んでいる間は「なるほど」と分かった気になります。ところが、いざ応用問題になると手が止まる。
順番を逆にするだけで、この「分かったつもり」は減るかもしれません。教わる前に、自分でひとしきり解いてもがく。遠回りに見えて、あとの理解は深く残ります。
「解いてから習う」ほうが、応用に強かった
きっかけは、2008年に発表された実験です。カプアという研究者が、高校生(11年生)を2つのグループに分けて理科を学ばせました。
片方は、答えの決まっていない難しい問題を、まずグループで話し合って解きます。うまく解けなくてかまいません。
もう片方は、先に手順の整った問題に取り組みます。
最初のグループは、問題をうまく解けないまま、グループでの答えの質も低い状態でした。ところが、そのあと一人で受けた応用を含むテストでは、もう片方のグループより成績が良かったと報告されています。
うまくいかなかったはずの時間が、あとで効いてきた。研究者はこれを productive failure(生産的な失敗)と名づけました。
まとめて53本の研究でも、同じ傾向
同じ研究チームは2021年、過去の研究を集めて分析しました。1つの実験の結果が、どこまで広く成り立つのかを確かめる試みです。
53本の研究・166の比較を照らし合わせ、「解いてから習う」と「習ってから解く」のどちらが、あとの理解に効くかを調べたものです。
結果は、「解いてから習う」ほうがやや優勢でした。効果の大きさは中くらい。研究の狙いどおり丁寧に行われた場合は、差はもう少し大きくなっています。
同じ内容でも、もがくのを先にしたほうが、あとの応用に効きやすいという傾向でした。
ただし、いつでも効くわけではありません。同じ分析では、小学校の低〜中学年の子どもや、分野を問わない一般的なスキルの学習では、逆に「習ってから解く」ほうが良い傾向だったと報告されています。
もう一つ大事な条件があります。生産的な失敗は、もがいたあとにきちんと解説を受けるところまでで1セットです。研究でも、この流れが丁寧に設計された場合ほど、あとの効果は大きく出ていました。
なぜ遠回りが効くのか
はっきりした理由はまだ研究の途中ですが、こう考えられています。
自分で解こうとすると、「ここが分からない」という引っかかりに気づきます。手持ちの知識も一度引っぱり出します。
その状態で解説を聞くと、空いた場所に答えがはまる。ただ読むより、記憶に残りやすいというわけです。
逆のことを示す研究もあります。まったくの初心者や、手順をなぞる練習では、先にお手本を見たほうが速い、というお手本を先に読む学び方です。
これは目的による使い分けです。「手順を速く覚えたい」ときはお手本が先、「仕組みを深く理解して応用したい」ときはもがくのが先になります。
資格の勉強や新しい業務でどう使うか
たとえば資格の勉強で、新しい論点に入るとき。いきなり解説を読まず、まず例題に自分の答えをぶつけてみます。
仕事で新しいツールを覚えるときも同じです。マニュアルを開く前に、5分だけ自分で触って「たぶんこう動くだろう」と操作してみる。
外れていても損はありません。そのあとマニュアルを読むと、自分がどこを勘違いしていたかがはっきり見えてきます。
解いたあとに解説へ進めば、「なぜそうなるのか」を自分の言葉にする自己説明ともつながり、理解はさらに深くなります。
今日からの手順
- 新しい範囲は、解説を開く前に10〜15分、関連する例題や問いに自分で取り組む。答えは見ない。
- 正解でなくていい。思いつく解き方を2〜3通り書き出す。どこで詰まったかもメモする。
- そのあとで、解説やお手本をていねいに読む。自分の答えと照らし合わせ、どこがずれていたかを確認する。
- 覚えておきたい内容は、後日本を閉じて思い出す練習や間隔をあけた復習で定着させる。
- 取っかかりがまったくない分野や、用語・年号のような純粋な暗記は、無理にもがまず先にお手本を見てよい。
まずは次に学ぶ1項目だけ、解説を閉じたまま10分もがいてみてください。
「分からない」のまま過ごす時間は、あとで答えがはまるための仕込みになります。ほかの根拠のある学び方は学び方の記事一覧からたどれます。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 新しい範囲は、解説を開く前に10〜15分、自分で例題に取り組む(答えは見ない)
- 正解でなくていい。思いつく解き方を2〜3通り書き出し、詰まった場所もメモする
- そのあと解説を読み、自分の答えとどこがずれていたかを照らし合わせる
- 覚えたい内容は、後日「思い出す練習」や「間隔をあけた復習」で定着させる
- 取っかかりがまったくない分野や純粋な暗記は、無理せず先にお手本を見てよい
出典・参考
- Sinha, T., & Kapur, M. (2021) When Problem Solving Followed by Instruction Works: Evidence for Productive Failure. Review of Educational Research, 91(5), 761-798.eric.ed.gov
- Kapur, M. (2008) Productive Failure. Cognition and Instruction, 26(3), 379-424.eric.ed.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。