用語や名前が覚えられない——「自分ごと」に結びつけると記憶に残る
資格の用語も、初対面の人の名前も、覚えたそばから抜けていく。記憶に残す鍵は、くり返した回数より「自分とどうつながるか」でした。自分の経験や考えに結びつけると思い出しやすくなる仕組みを、今日から試せる手順にまとめました。
資格の勉強で、夜、参考書に専門用語を何度も書いて覚える。名刺交換の直後、エレベーターを待つ間に、相手の名前を口の中でくり返す。
なのに、翌朝には抜けている。あれだけくり返したのに、なぜ残らないのでしょうか。
原因はくり返した回数ではなく、覚え方かもしれません。記憶に残す鍵は、その情報を「自分ごと」に結びつけることでした。
「自分に当てはめた」言葉ほど、あとで思い出せた
心理学者のロジャーズという研究者たちが、1977年に記憶の実験を行いました。
参加者に、たくさんの形容詞を一つずつ見せます。そのとき、言葉ごとに違う考え方をしてもらいました。
ある言葉は「見た目」を、ある言葉は「音の響き」を、ある言葉は「意味」を判断します。最後のグループは「この言葉は自分に当てはまるか」を考えました。
そのあと、抜き打ちで「さっきの言葉を思い出してください」と伝えます。
いちばん多く思い出せたのは、「自分に当てはまるか」を考えた言葉でした。
自分に引きつけて考えると、記憶に強く残る。これを自己参照効果と呼びます。
この効果は、その後の多くの実験でも確かめられています。1997年にサイモンズとジョンソンという2人が、過去の実験を集めて照らし合わせるメタ分析を行いました。
分かったことは、はっきりしています。
自分に結びつけて覚えたほうが、ただ意味を考えたり、他人に当てはめたりするより、記憶に残りやすい。同じ結果が、いくつもの研究をまたいで確かめられました。
なぜ、そうなるのでしょう。
自分という枠組みは、長年かけて作った、いちばん使い慣れた引き出しです。
新しい情報をそこにひっかけると、ほかの記憶と結びつきます。丸暗記した知識は、そのままでは孤立しがちです。自分の経験という棚に置きなおすと、まわりの記憶とつながり、あとで取り出しやすくなります。
ここで気をつけたいのは、これが実験室で測った平均の話だという点です。
使われたのは多くが短い単語のリストで、試された場面は限られます。効き方には個人差があり、誰にでも同じように働くとは限りません。
もう一つ、正直な注意点があります。
ロジャーズらの実験でいえば、自分ごと化がはっきり効くのは、見た目や音だけをなぞる浅い覚え方とくらべたときです。
一方、サイモンズとジョンソンのメタ分析では、他人に当てはめて覚えた場合との差は、それほど大きくありませんでした。自分か他人かを問わず、誰かに結びつけて考えること自体が、記憶を助けるようです。
下の図が、覚え方の深さと、あとで思い出せた量の関係です。
図のように、言葉の見た目や音だけをなぞるより、意味を考え、さらに自分に結びつけたほうが、記憶に残りやすくなります。
「自分ならどう使うか」に置き換える
大事なのは、覚える対象を自分の生活に引き寄せることです。
実験では短い言葉を使いましたが、日々の勉強や仕事には、もっと引き寄せる材料があります。
資格の用語なら、「これは自分の仕事のどの場面で出てくるか」を一つ思い浮かべる。初対面の人の名前なら、同じ名前の知り合いや、自分との共通点にひもづける。
新しい考え方を学んだときも、「自分ならどこで使うか」を一つ言葉にするだけで、ただ眺めるより引っかかりが増えます。
似た覚え方との違いも、はっきりさせておきます。自分の言葉で説明するや「なぜ?」と問いかけるは、その情報の「意味」をほり下げるやり方です。自己参照は、そこに「自分」という軸を一本足します。
使い分けの目安は、「意味がもう分かるか」です。
分かる用語は、自分ごと化から始めてください。分からない用語は、先に説明する覚え方で輪郭をつかんでから、自分ごとにします。資格の勉強なら、この順番が効きます。
覚え方をもう一歩進めるなら、自分ごと化した知識を「あとで思い出す」ところまでつなげます。自分に引き寄せて覚えた用語を、その日の終わりに本を閉じて一度だけ思い出してみる。
思い出す練習は、自分ごと化とは別の角度から記憶を支える方法です。自分の側に引き寄せて「つなぎ」、思い出して「引き出す」。この組み合わせが、当サイトのおすすめです。
学び方そのものを鍛える発想は、学びの柱でも扱っています。
今日から試す「自分ごと化」の覚え方
道具はいりません。今日の勉強や仕事から、覚え方だけを変えられます。
- 覚えたい用語を一つ選び、「自分の生活や仕事のどこで関係するか」を一つ書く(ほんの10秒)
- 人の名前は、同じ名前の知り合いや、自分との共通点に結びつける
- 新しい考え方は、「自分ならどう使うか」をひと言、声に出す
- それでも抜ける分は、あとで本を閉じて思い出して確かめる
ポイントは、丸暗記の前のひと呼吸です。「これは自分にとって何か」と一度立ち止まるだけで、頭の使い方が変わります。
くり返す回数を増やすより、その情報を自分の側に引き寄せる。それだけで、同じ勉強から残るものが変わってきます。まずは次に覚えたい一つを、「自分ならどこで使うか」に置き換えるところから始めてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 資格の用語は、覚える前に「自分の仕事のどの場面で出てくるか」を1つ書き出す
- 初対面の人の名前は、同じ名前の知り合いか、自分との共通点にひもづける
- 読書中に出た新しい考え方は、「自分ならどこで使うか」をひと言つぶやく
- 覚えた用語は、その日の終わりに本を閉じて一度だけ思い出して確かめる
出典・参考
- Symons, C. S. & Johnson, B. T. (1997) The self-reference effect in memory: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 121(3), 371-394.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Rogers, T. B., Kuiper, N. A. & Kirker, W. S. (1977) Self-reference and the encoding of personal information. Journal of Personality and Social Psychology, 35(9), 677-688.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。