寝不足で集中が切れるのは意志のせいではない——低下は自分では気づけない
昨夜はあまり眠れなかったけれど、コーヒーで乗り切れる。そう思って机に向かうと、同じ行を何度も読み返してしまう。睡眠を削るとまず落ちるのは注意で、しかも本人ほどその低下に気づけません。集中を守る工夫を研究からまとめました。
昨夜はあまり眠れなかった。でもコーヒーを飲めば、なんとかなる。
そう思って机に向かう。なのに、さっき読んだはずの一行を、また目で追っている。
寝不足の日、体力や気力よりも先に崩れるのは「注意」です。しかも厄介なことに、その低下は本人がいちばん気づきにくいのです。
寝不足でまず落ちるのは「注意」
手がかりになるのが、睡眠時間を段階的に削って調べた研究です。
ヴァン・ドンゲンらは、健康な成人48人(21〜38歳)を、夜の睡眠時間で3つのグループに分けました。ベッドで過ごす時間を4時間・6時間・8時間にして、それを14日間続けます。
調べたのは、画面に信号が出たらすぐボタンを押す、という単純な反応の速さです。集中がとぎれた瞬間は、この反応の「遅れ」や「押し忘れ」としてはっきり出ます。
分かったことは、はっきりしています。睡眠を4時間や6時間に削ると、反応の遅れは日を追うごとに積み上がりました。削る時間が短いほど、悪化も大きくなります。
しかも2週間続けると、6時間睡眠の人は一晩徹夜したのと同じくらい、4時間睡眠の人は二晩徹夜したのと同じくらいまで、反応が鈍りました。1日1〜2時間ほどの不足でも、積み重なると徹夜に近い状態へ寄っていく、ということです。
これは一つの研究だけの話ではありません。睡眠不足と頭の働きを調べた70本の研究(147のテスト)をまとめた分析でも、いちばん大きく損なわれたのは「注意」でした。記憶や理屈を組み立てる力より先に、注意がまっさきに削られます。
ただし、限界もあります。どちらも参加者は若い世代が中心で、実験室での短期研究です。必要な睡眠時間には個人差もあります。だから断定ではなく、傾向として受け取ってください。
怖いのは「自分では気づけない」こと
この研究には、もう一つ見過ごせない発見があります。
眠気の「自覚」は、途中で頭打ちになっていました。削った初日はぐっと眠くなるのに、その後は日が過ぎてもあまり変わりません。6時間睡眠と4時間睡眠で、感じる眠気に差が出ないほどでした。
一方で、反応テストの成績は落ち続けています。
つまり、体感の眠気は途中で止まるのに、実際の注意は静かに落ち続ける。研究者は「参加者は、増えていく成績の低下にほとんど気づいていなかった」と述べています。
下の図が、その「ずれ」です。
見てのとおり、「意外と平気」という感覚の正体は、メーターが振り切れて止まっているだけの状態です。
感覚をあてにしない、が出発点
だから寝不足の日の対策は、気合いを入れることより先に、あてにならない自分の感覚を判断から外すことです。
会社員でも、個人で仕事をする人でも、寝不足の朝ほど「今日はいける気がする」と感じることがあります。その感覚のまま、車の運転やお金の確認、締め切りの判断を、いつもの調子で進めてしまう。ここが危ないところです。
崩れ方も静かです。同じ行を読み返す、ひと手順飛ばす、返信が一拍遅れる——そんな小さな途切れとして出ます。
そしてこの借りは、ゆうべ一晩でたまり、返すには数日かかります。今日の不調は、今夜たっぷり寝ても、あすの朝にはまだ少し残っています。
2つの研究を重ねると、対策の芯が見えてきます。注意はまっさきに落ちる。しかも、その低下は自分では読み取れない。だとすれば答えは、「今日はいけるか」をその場の感覚で決めない、です。
寝不足の朝は、調子をうかがってから動くのをやめ、あらかじめ決めておいた段取りにそのまま乗せる。壊れた計器を読もうと目をこらすより、計器に頼らずに動ける手順へ切り替える。次にあげる工夫は、どれもこの「感覚で判断しない」を形にしたものです。
今日から試す手順
寝不足そのものをゼロにできない日もあります。その日をどう乗り切るかを、順番にまとめました。
- 経費や見積もりの数字確認、締め切りのある返信は、寝不足の朝ほど始業直後の早い時間に前倒しする。「今日はいける」と感じても午後に回さない
- 通勤前の運転や振込・送金の操作は、実行の前にもう一度だけ画面の数字を声に出すか指差しで確認する
- 入力作業や伝票チェックのような単純作業ほど途切れが出やすい。デスクで60分たったら一度立ち上がり、オフィス内や廊下を2〜3分歩いてから席に戻る
- その夜はスマホのアラームをいつもより15分早くセットし、就寝を早める。借りは一晩でたまるので、返すのも早く始める
冴える時間帯は人によってずれます。見つけ方は頭が冴える時間帯を知るにまとめました。
短い区切りで注意を保つ方法は短い休憩が集中を守るが参考になります。
睡眠そのものの立て直し方は週末の寝だめより平日の睡眠と睡眠のリズムを整えるにあります。
眠気や不調が続くときは
最後に、ひとつだけ。
平日の睡眠を整えても、強い眠気や、日中つらい状態が何週間も続くときは、生活の工夫だけで抱え込まないでください。背景に睡眠や体の不調が隠れていることもあります。気になるときは、早めに医療機関や専門家に相談してください。
今日はまず、寝不足の朝の「意外と平気」を、少しだけ疑うことから始めてみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 寝不足の朝は、経費や数字の確認など大事な判断を始業直後に前倒しする
- 通勤前の運転や振込などは、実行前に声か指差しでもう一度だけ確認する
- 単純作業は60分ごとに一度、席を立って2〜3分歩いてから戻る
- 夜はスマホのアラームを15分早くセットし、就寝を早める(睡眠の借りは一晩でたまる)
- 強い眠気や不調が数週間続くときは医療機関に相談する
出典・参考
- Van Dongen, H. P. A., et al. (2003) The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep, 26(2), 117-126.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Lim, J., & Dinges, D. F. (2010) A meta-analysis of the impact of short-term sleep deprivation on cognitive variables. Psychological Bulletin, 136(3), 375-389.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。